マルチデリーター

第23話 お前がその子をどうこうすることはできない(何故って? そりゃあ、もうs……)

 さて、新しい日本刀も手に入れたことだしもうそろそろ行きますか。いやー、にしてもいいモノ貰ったわー。まさか本当にただで貰えるとは思ってもみなかったなぁ。


 僕はホクホク顔で王都を出た。そしてミッション対象がいる北西の教会跡地に向かう。

 ここから向かうと日が暮れるタイミングくらいになっちゃいそうかな? あの鍛冶屋で思ってたより時間くっちゃってたみたいだな。あ、そうそう、あの後、あの店員さんと話盛り上がっちゃって結構話し込んじゃったし、置いてある日本刀も眺めてるだけでも楽しかったからなぁ。明日は学園休みだし明日も行ってみよ。


「ふん~ふん、ふふ~ん、ん~ん、んー」


 気分の良い僕は鼻歌をしながら魔王軍参謀の首を取りに行く。あー、たしか道中の森の中って最近、山賊だか盗賊だかが出るって噂があったような気がするなぁ。森に出るから森賊か? 『森賊』って『森族』って変換するとなんかエルフっぽいな。って、いやいや、こんなことエルフの人に言ったら矢で頭を射られるか、風魔法で吹き飛ばされるな。ははっ。いや、大丈夫か。だってエルフの人とんだから……。


 あ、いや、そうじゃなくて、学園に魔人が現れた日の授業中に先生がこの辺だかの森に『賊』が出る言ってた話だった。あの時はこっちに来ること考えてなかったから完全に聞き流してたけど……あー、なんつってたっけなぁ~。

 え~と、たしか……『黒いドクロがトレードマークで人さらいをする賊』だったっけ? 学生のお前らじゃあ話にならん程強いから見つけ次第、正式な騎士団に報告しろだったかな?


 アーツィー君は見つけたらそのまま倒して引っ捕らえちまえ、とか先生言ってたっけな。冗談? いや、あれは本気で言ってたような……。さすがアーツィー君、強い。


「ん~ふ~ふぅ?」


「ゲギャ?」


 ん~ん~、ゴブリンか……。ちょうどいい。新しい剣でポーズの練習でもするか。


 森に入る前にゴブリンと遭遇した。僕は軽く足を開き、腰を落とし、左手を新しい剣の鞘を掴み、右手を柄に添え、左手の親指で軽く鍔を弾き、淡く青い色した刀身が少し見えたところで右手で柄を握りしめ……そして──。














「お前はもう、死んでいる」





 3





「グギャ!」


 ゴブリンが反応する。僕の言葉に反応した訳じゃない。ただ本能的に僕という敵を排除する。その反応だ。僕はゆっくりと剣を鞘に納めていく。







 2






「グゲェー!!」


 ゴブリンがその場で雄叫びを上げる。威嚇? そんなんやってるから僕に近づく前に君らゴブリンは死ぬんだよ。







 1







「ゲェッ!!」


 ゴブリンが右手に持った小汚ない棍棒を振り上げ、一歩、二歩と僕に向かって走り始めた時──。僕は目を瞑る。














 ──カチンッ





 









「グッ、ネイさアァーーーン!!」


 ゴブリンが断末魔を上げながら死ぬ。死に様はいつも通りに全身から血を吹き出し、破裂したかのように血と肉片と内臓を周囲に撒き散らしながら死ぬ。




 やはりゴブリンは弱い。




 あと、行動も足も遅いから僕より遠いとこでゴブリンが散ってくれたお陰で返り血を浴びずに済んだ。うん、この剣も納刀時の金属音がカッコいいなぁ。やっぱ、日本刀って格好いい!


「ん~んんーん~」


 ん~! テンション上がってきたー! もっともっと試し斬りしたいなぁ。(斬ってない) モンスター出てこないかなぁ。


 僕はウキウキ気分で森に入って行った。





 森の中に入ってすぐスライムと遭遇した。僕は歩きながら左手で鍔を軽く弾き、能力を発動する。


「お前はもう、死んでいる」


 スライムはゴブリンより弱い。そのため僕が横を通り過ぎても振り向いて攻撃体勢に入るだけだ。

 そしてスライムが僕の背中に向かって飛びつき攻撃をする!!




 カチンッ




 スライムが空中で霧散する。跡形もなく。あ~、この感触良いねぇ。いつも使ってる剣と少し違う金属音と重さが良い。さてさて、他にはモンスターはいないかなぁ~と。

 僕はモンスターが現れることを期待して更に森の奥へと進んで行く。


「──て!」

「────だろう」


 ん? なんか人の声がする。こっちか?


「──ぁー!! だ、誰か!! 助けてぇー!」

「グヘヘ。こんなところでエルフのガキに出くわすとはついてるなぁ」

「アニキ、売る前に味見してもいいですかい?」

「ああ、いいぜ。ただし、俺のあとでな。へへへ」

「おいおい、そんなことしたら値が下がっちまうだろ。大切な商品になるだ。金にした後でその金で別のを楽しめば良いだろ?」

「なに言ってんですかい。これだから枯れたおっさんは……」

「俺はまだ枯れちゃいないわ! ガキは抱く気にならないだけだ!」


 んー? 『黒いドクロの』刺青いれずみを肩にした男や『黒いドクロの』マークが入ったバンダナを腕に巻いた男など、とにもかくにも『黒いドクロのマーク』を持った男達が僕と同い年くらいの『エルフの女の子』を囲っていた。


 えーと。この時は騎士隊に連絡して僕はこの場を離れればいいのかな? 僕はどこぞの物語の主人公でもあるまいし、正義感溢れる心優しい人でもないよ? ただ、のんびりまったり人生を謳歌おうかしたいだけの少年ですぞ?

 僕がでしゃばって能力を使ったらこの子にバレて、組織にバレる。もしそんなことになったら組織を抜けられなくなりそうだし、安心安全な騎士(門番)になれなくなる。

 そんな流れになりそうならこの子も消さなきゃいけない。この子には悪いけどこれも僕の将来のため、そして君のために僕はとんずらさせてもらうよ。命あるだけマシってね。それじゃ、ごめんよ。










 ──パキッ!!










「だ、誰だ!?」

「ん?」

「へ? ほ、ほんとに誰か来てくれたの……?」

「正義感の強いやつめ……。見てみぬふりをすれば命は助かったものを」


 んー? なんで木の枝踏んじゃうかな僕。に、逃げよとしただけだよ? さっきまでこんなとこに木の枝なんて落ちてたってけ? まぁ、踏んだんだから落ちてたんだろうけどね!

 え、え? えーと、とりあえず木の後ろから出ればいいのかな? そ、そろーりと。


「ん? なんだ? ガキじゃねえか」

「おい、お前。持ってるもん全部よこしな。そうすれば命だけは見逃してやるよ。へへへ」

「うっ、うう……。ほんとに助けが……」

「足音を消して出てきただと……!? こいつ、ただモンじゃなさそうだな」


 で? なんて言えばいいの? 何すりゃあいいの? こういう時ってさぁ。自己紹介でもしちゃうか? ……いや、別に名乗る程の者じゃないしなぁ。


「テメェは誰だ!?」

「おい! 聞いてんのか? ガキ!! 持ってるもんよこせよ!」

「ぐすっ、ぐす……。」

「さて、どう動く?」


「名乗る程の者ではない。ただの通りすがりだ」


 本当にただ通りすがっただけだからね。この先にあと小一時間進んだとこに魔王軍参謀のサリなんちゃらがいるからそこに向かってるだけだからね。


「なにスカしてんだよテメェ!」

「へっ、自分の悪運を呪うんだな。置いてくもん置いてさっさと失せな」

「お願い、助けて!」

「こんな森の中を……ましてやこの先は特に何もないはずの所をただ通り過ぎるだと? 偶然……ではなさそうだな」


 あー、んー、仕方ないなぁ。僕はいつもの剣の鞘に左手を添えて親指で鍔を弾き、刀身を見せる。


「あぁん? ヤろってのか!?」

「お、おい! お前こいつがどうなっても良いのか?」

「ひっ!!」

「ぬっ! この殺気は!!」


「お前はもう、死んでいる」





 3





 男の一人がエルフの女の子の首筋にナイフを突き付ける。僕は右手で柄を握り込む。


「!? な、なに言ってやがる」

「なぁ、ほ、ほんとにこいつをヤっちまうぞ!!」

「い、いや……」

「なにか……した……のか?」


「だから、お前がその子をどうこうすることは出来ない」




 2




 僕の雰囲気に呑まれた男達がたじろぐ。なんか面白い。僕はただ「お前はもう、死んでいる」と言ってカッコつけてるだけなのに。


「ふ、ふざけんざねぇ!!」

「そ、そうだ! その距離から俺達を斬れるわけがねぇ!」

「ッ!?」

「その距離から斬れる剣技……──」


「もう一度言おうか?」





 1




 俺達は息を飲む。エルフの女の子も息を飲む。なんか僕一人に対してそんなビビんなくても……。みんなで一斉に僕に掛かってくれば僕なんて瞬殺できるのに。


「こいつを人質にしてるんだ! 行け!!」

「あいよ、アニキ!! し、死ねえぇぇ!!」

「ハッ!!」

「ま、待て!」


「お前はもう、死んでいる……そう言ったろ?」





 ──カチンッ







「ガフッ!」

「「「!?」」」


 エルフの女の子にナイフを突き付けていた男の腕が斬り落ち、顔がなます斬りに斬られたかのようにバラバラに崩れ落ちた。その異様な光景に男達とエルフの女の子が驚き、動きが止まる。


「お前はもう、死んでいる。だからもう、お前達は何も出来ない」





















「パパいヤあぁァーーー!!」


 男の一人がまた血肉を散らす。最後に残った男が血相を変える。


「ま、まさか!? お、お前は……マ、マ──」


「君はもう救われた。だからさっさとお家に帰るんだ」











「ママァアーん!!」


 最後の一人が断末魔を上げながら胴体が崩れ落ちた。僕はエルフの女の子の横を通り過ぎて行く。


「あ、あのお待ちになって下さい! なにかお礼を!!」


「別にいらない。君が無事ならそれで良い。僕は行くとこあるから、それじゃ」


「あの! せめてお名前を教えてくれませんか? 私はエルフ族のフェニーリエ・フォン・アルノワール」


「僕は、レルクロイ・ハークロイツ」


 僕はハードボイルドを決め込んで名前だけ告げて森の中へと歩き去って行く。

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