第28話 いくら防御力が高かろうとも、中身を斬れば良いだけだ。(中身だけを斬ると誰が言った?)

 ──カランカランッ



 ラルクさんの店のドアを開けるとドアに付いているベルが静かな店内に鳴り響く。店内は魔動機という気温を操作できる機械で程よく空調が聞いており、リラックスするコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、耳障りにならない程度の音量で心地良いBGMが流れている。

 店内には僕の他にカウンター席に一名、テーブル席に一名いる。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


 この店のマスターのラルクさんがカウンターでコーヒーを挽きながら挨拶をする。僕はいつも使っている一番奥の席に着いてメニューを開く。

 さてと。今日は何にしようかな。ボリュームのあるやつってーと……。おっ、これがいいかな。



 ──コトッ



「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたらお申し付け下さい」


「あ、注文いいですか?」


「はい、ご注文をどうぞ」


「ビーフシチュー定食の大盛りをお願いします」

 

「ビーフシチュー定食の大盛りですね。かしこまりました」


 ラルクさんは僕が注文しようとしたタイミングで水を持って来て注文を受けてくれた。水を飲みながら料理を待っていると二人組の客が入ってくる。その二人は僕の隣のテーブル席……僕の座る向きから見て、うしろの席に着いた。

 僕の疲れか空腹か、あるいは料理待ちのこの暇な時間のせいか普段なら気にしないはずの他人の会話が耳に入ってくる。


「いやぁ、疲れた疲れた。死ぬかと思った」


「あぁ、そうだな。まさかに対してあんな手を使ってくるとはな」


「あの時のしてやられたって感じがヤバかった。俺なんて背筋が凍っちまって冷や汗止まんなかったわ。ハハハ」


「あー、わかるわ、それ。俺はビビって体が硬直して一歩も動けなかったわ。なんか奇跡的に攻撃が俺に当たらなくて助かったわ。ハハッ」


「え!? 嘘だろ!? 動かなくて攻撃当たらなかったって奇跡だろ!?」


「ハハハ、だから奇跡つったろ?」


「俺は必死に避けまくって間一髪で回避してなんとかあれを凌いだけど……一歩も動かなかったって……フフッ。なんか笑えてくるわ」


「……にしてもホント、を使ってくるとは露程つゆほどにも思ってなかった」


「あぁ。しかもあれはただのじゃねぇ。何か異質だった。それと戦術が……あー……なんつーか……なんて言えばいいんだ? 例えにくいな」


「んー。……一言で言えばな感じだったよな」


……か。確かに。……さしずめ作戦ってとこか」


「ハッ。俺ら……か。笑えてくるぜ……うぅ……ホントに、笑えて……くる、ぜ……グズッ」


「お、おい、泣くな。あいつらのことを思うと泣けてくるのはわかるけど……お、お前が泣くと、お、俺まで……泣いち……まうじゃねぇ、か。うっ、うぅ……」


 僕の後ろの男二人の会話だ。うわ、なんか泣き出しちゃったよ。……ハトって確かリザさんに相談されたけどあれのことだよな? だとしたら答えあってたみたい。よかったよかった。作戦内容は知らんけど。


「お待たせしました。ビーフシチュー定食の大盛りです。ごゆっくりどうぞ」


 お、来た来た。んじゃ、まぁ、この後ろの二人の処遇を考えながら食べるとしますか。


「いただきます」




────




「さすがリザはん。と、言っとくかいねぇ。これならいずれ諜報部隊のトップになれるんちゃう?」


 あでやかな服装を身にまとい、おっとりとした口調の諜報部隊のトップのセリがリザの横に立つ。

 セリはリザの先輩にあたる。リザを諜報部隊に引き込み、ナンバー2までに育てた人である。そのためリザはセリを尊敬して、頭が上がらない存在である。


「はぁー……。あなたが生きているうちは無理ですよ。それにこの作戦は私のではなくマルチデリーターの作戦案ですので」


「ん? なんや自分の作戦やなく、あのコの作戦なんか」


「『MAME』と『テッポウ』の組み合わせなんて思いもつきませんでしたよ。ただ、2羽のハトに飛ばれました」


「フッ。2羽のがしたんかいね。も使えば仕留めきれたやね」


「!? そうか……だから……」


「ん? どないしたん?」


「マルチデリーターは確か『マメポウ』と言っていたのを思い出しまして……」


三重さんじゅうの意味があったってことや」


「はぁ……。あいつはいつも分かりづらい言い回しをするんですよ。もう少し……いや、あいつの意図を汲み取りきれなかった私のミス……。はぁ……」


「そんなため息ばかりやと幸せ逃げるで」


「それ言うならあいつの──」


「アタイもあのコの考えを読みきれん。せやからリザ頼むわ」


「はぁ……」


 リザは頭を抱えながら逃したをどう探すか考えながらその場を去る。



────




 僕が料理を半分くらい食べた頃、後ろの二人が落ち着きを取り戻しようやく料理を注文し始めた。泣きながらも情報をぽつぽつ勝手に吐いていて、その話を聞く限りだとどうやらとやらの生き残りはこの二人だけらしい。


「ご注文をどうぞ」


「俺はパスタのナポリタン大盛りで」


「ハンバーグ定食大盛り……あと、強い酒を二人分持ってきてくれ」


「あ、それと、この……メロンクリームソーダを」


「メロンクリームソーダは食前にしますか? 食後にしますか?」


「前に頼む。酒と一緒に持ってきてくれ」


「かしこまりました。確認しますね。ナポリタン大盛りとハンバーグ定食大盛り、強めのお酒……当店ではウイスキーになりますがよろしいですか?」


「ん? ああ、強けりゃなんでもいい。頼む」


「はい、かしこまりました。他には食前にメロンクリームソーダですね。以上でよろしいですか?」


「ああ」


「それではしばらくお待ちください」


 ナポリタンとハンバーグ……。おいしいよね! あとこいつらを外で待つより食べ終わったらカフェオレでも頼んで時間潰そうかな。いや、今頼めばちょうどいい時間になるかな?


「すいませーん」




───



 ランクの店のハス向かいにある建物の脇の路地。その道を右に曲がると人気ひとけが無く、ほとんど建物に囲まれており、夜は街頭の光さえ入らない通りがある。

 その裏路地にあるマンホールからは組織の拠点に繋がる通路がある。そのマンホールの蓋は一人でも持ち上げられる軽さで、蓋に引っ掛かりがあるので回せば簡単に蓋を外せるようになっている。


 レルが組織行くとき、帰るときにラルクの店に寄るときはこのルートを使う。組織の他の人もラルクの店に行くときはこのルートを使うし、リザも使う。


 そしてこの裏路地にあるまわりの建物は陽当たりが悪いため住んでいる人が少ない。また、廃墟になっている建物が多い。

 そのため、ここ周辺の廃墟は不良の溜まり場になったり、闇取引が行われる現場になったり、悪党の集会場になったり……他にはそう、例えばになったりする────。



















「ナァあぁあーマ!! スティイイイ!!」


「…………」


「パプリカァ!!」


 その廃墟の一つに断末魔がコダマした気がした。私はラルクさんの店に寄る前にその声を確認しに行く。このパターンはもしやと思いながらも声のした建物へ入る。


 するとやはりと言うべきか流石と言うべきか……。


「あ、リザさん。この二人、新魔王軍の仲間みたいなんで始末しました。……あ、あと対象二体も始末完了しました」


「……あ、ああ。そいつらは私が片付けておく」


「あ、すみません毎度。僕はもう今日は疲れたんでもう帰って寝ます」


「ああ、そうしろ。今日のお前はだいぶ疲れた顔をしている」


 私はレルの背中を見送る。そして──。


「今日はホントに助かった。礼を言う。……ありがとう」


 普段は言わないんだけど今回ばかしは言いたくなった。


 レルが振り返ろうとしたから私はあわててレルが始末した死体二体と一緒に能力を使って立ち去る。


 組織の拠点まで距離的にわざわざ使う必要はない。ないんだが……。


 使った理由は──。




























 照れ隠しってやつだ。








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