第9話 僕は今、剣を二本差している。だから二倍強い。(そんなん関係ないやん。二刀流だからって二倍強くなるわけない。)

「それで、どうしてあんなのに襲われているのよ。あなた」


 フォルちゃんがいきなりぶっこんだ質問をした。おいおい。まずは落ち着かせてからだろ。気分が安らぐ場所に連れて行って優しくすればおのずと口を割るから。こういう時は。などとうんちくを心の中で垂れている僕。


「えっ…と。その日本刀っていう剣に宿っている魂をその辺の霊体に移したらインペリアルゴーストになって襲いかかって来たんです。それで慌てて逃げて…」


「今に至ると」


「はい。本当はこんなハズじゃなかったのに…」


「ところで、『魂を霊体に移す』って何よ?」


「あ、私、霊魂術士なんです。霊魂術士っていうのは凄いマイナーなジョブなんで知っている人は少ないんです。霊魂を操る力がある人のことです。ちなみに死霊術ではありません。死霊術は死んだ肉体や霊を操るもので、霊魂術は死んでいようが死んでいまいが、魂を直接操る術のことです」


「ふーん。なんかよくわからないような、わかったような…。ん?あと、インペリアルゴーストって言わなかった?さっきのゴーストの話よ」


「はい。魂が覚醒してただの『魂』からインペリアルゴーストに急激進化しまして…。そのぉ、こんなことは普通あり得ないんですよ。ただ考えられるのは、そもそもその『剣』に宿った『魂』の質が異常に高かったってことです」


「インペリアルゴーストって確かAランク冒険者パーティーが束になってようやく倒せるレベルのモンスターだったわね…」


「はい。…と言っても、魂が他の霊体と馴染むまでは時間が掛かります。それまではインペリアル程の強さはなく、あってもデスサイズレベルの強さでしょう」


「わたし、デスサイズレベルに負けたのね…」


 フォルちゃんは拳を握り、歯を食いしばる。デスサイズは僕も聞いたことがある。Bランクハンターならソロで互角くらいだったかな。そう考えるとフォルちゃんは冒険者に当て嵌めるとCクラス以下になるのかな?まぁ、まだ僕達は学生だし、これからこれから。


 僕は呑気にフォルちゃんと彼女の会話を聞きながらパンをモシャつく。モグモグ、ゴックン。パンうめー。


「…ちょうど彼があのゴーストと対峙した時に魂と霊体が混じり合ったのを見ました。つまり、彼が斬る直前にはもうインペリアルゴースト本来の力はあったと言うことになります」


 二人して僕の顔を真剣な表情をして見てくる。あー、なんか喉乾いてきたなぁ。なんか飲み物でも買ってこようかな。


「…………あなたは一体何者ですか?」


 さっきまで震えていたはずの女の人が僕に詰め寄ってくる。女の人にこんなに近付かれると恥ずかしいんだけど。近いんだけど。ちょっと良い匂いがするんだけれども。


 僕は対応に困り、フォルちゃんに目線を向け、助けを求めた。お願いパン粉。助けておくれ。


「丁度良かったわ。わたしもレル君に聞きたかったの。レル君。一体何者なの?悪魔は素手で倒すわ、インペリアルゴーストは目に見えない早さの一撃で倒せすわで、とても普通じゃないわ」


「!? あ、悪魔を素手で!?」


「そうそう。この人、素手で、しかも一撃で倒しちゃったの」


 フォルちゃんが敵になる。え?いやいや、僕は普通の学生です。と、言っても信じてくれる雰囲気では無いなぁ。うーん。困ったなぁ。…………まぁ、いいか。学生です。で、通そう。そうしよ。


「ぼ、僕はただの学生です」


 僕は目を反らしながら言う。だって、女性二人に注目された状態で目を見ながら話すって、なんか恥ずかしいじゃん。


 何故だか二人がジト目で僕を見る。やっぱ、無理があったか。いや、でも、押し通そう。僕はもう一度同じセリフを繰り返す。


「ぼ、ボクはタダのガクセイです」


 ジト目二人の女性に詰め寄られる僕は目を反らしながら所々カタコトになってしまう。こればっかりは仕方ない。…逃げよう。


「ぼ、僕、も、もう帰るね。あはは。じゃ、フォルちゃんまた明日」


「ちょっ。ま…」


「待って下さい。お願いします」


 僕は逃げ出す。が、あっさり二人に肩を捕まれてしまう。さて、どうしたもんか。…………話を反らしてみるとか?僕は振り返り、日本刀を指差す。


「そ、その日本刀…」


「え?あ。剣の中にあった魂はもうありません。それはもうただの剣です」


「ふーん。じゃあ、貰ってもいい?」


「え、ええ。別に構いません。私はその剣の魂に興味があっただけでしたので、魂が無くなった今、それは私に必要ないです。助けてもらったお礼に…なれば差し上げます」


「ありがとう。使わせてもらうよ」


 僕は二本目を手に入れた。もう一本も腰の左側に差す。重い。流石に二本差すと重心がずれるな。僕はスタスタと帰ろうとする。が、またしても捕まってしまう。


「…………って、帰ろうとするな!」


 フォルちゃんしつこいよ。んー。こういう時ってやっぱ第三者の介入がないと場をやり過ごせないかなぁ。それとも、もういっそのことリザさんに記憶を消してもらおっかな。いや、物理的に僕がってのもあり…か?

 

 と、物騒なことを考えていた僕の上(橋の上)から助け船を出してくれた人物がいた。


「おおーい。レルくーん。こんなところで会うなんて奇遇だね」


「あ、ああ、はい。ご無沙汰しております。ルーク


 彼はルークさん。気さくで明るい人で剣術道場の師範代でもある。。ルークさんも組織の人間で僕が困っている時によく助けてくれる人。ルークさんが仕事するときに使うのは『剣』ではなく『魔法』


 表向きに剣術道場の師範代が出来る程に剣の腕はある。だが、それ以上に魔法構築の精度と早さが尋常じゃなく凄く早くて正確。『理論上でも不可能な魔法構築ノーリアリティ』と呼ばれる程に。だからルークさんは剣より魔法の方が得意。そのため表向きは『剣』を使い、裏は『魔法』を使う。そんな人。


「ルーク師範代。実は、カクカクシカジカで-…」


 と、橋の上まで上がってきて話し出す僕。フォルちゃんと女の人が僕の後ろにいる。と、ここでフォルちゃんがツッコミをいれてきた。


「いや、カクカクシカジカじゃ分かんないでしょ!」


「-…シカジカカクカクなんですよー」


「うんうん、なるほどねー。…それは大変だったね君達。レル君がいてくれてよかったねー。レル君はこう見えて僕の道場で唯一、師範代である僕に試合で勝ったんだよー。凄いよねーレル君は」


「伝わるんかい!」


 恐らく記録係のジェシカがルークさんを寄越したんだろう。『僕はまだ学生だし人生経験も浅いからのことバレそうになった時、誤魔化しきれないかも』。と、組織の人に伝わっている。だからかこういうタイミングで組織がフォローに入る。


 と、こうして僕が強いのは『ルークさんに鍛えてもらったから強くて、今ではそのルークさんを超えた強さを持っている。』…ということになった。ふぅー…。二人をところだった。危ない危ない。


 僕は心の中で安堵した。日も暮れ始めてきた頃合いになり、その場で解散となった。ん?フォルちゃんと女の人を家まで送ってけって?いやいや、そんなぐいぐいいかないからね、僕。





 そんなこんなで夜もけ、辺りが暗くなる。人通りも少なくなり、街灯と家や店からの僅な灯りと月明かりが夜道を照らす。僕の家までもう少し、というところまでたどり着いた時、路地から少女が飛び出て来た。少女と目が合い、少女が叫ぶ。


「!? お願い!逃げて!」


「?」


「いいから!早く!」


 僕は何のことかさっぱりなため、首をかしげる。少女は見るから焦っていた。そしてこの少女が出てきた路地から魔族の男が出てきた。


「んだぁお前…。そいつを寄越せ。大人しく俺様の言うこと聞いてくれたらよぉ。ラクに殺し-…」






















「お前はもう、死んでいる」


 僕は条件反射で能力を発動した。そしていつもの如く、決めゼリフを言う。






 3






「…-てやアアァん? 」

「僕は今、剣を二本差している」



 ふぅ。危ない危ない。会話も無しにいきなり斬りかかってくるタイプはこれだから苦手なんだよねぇ。


 僕はいつもより速い動作で、左手で鞘を持ち、親指で鍔を軽く弾き、そして右手を柄に添える。魔族の男は僕に向かって駆け出そうとしていたのを止めた。










 2







「…あアァ!?」

「だから二倍強い」





 僕は右手で柄を握る。そして---。











 -カチン










 僕は納刀する。いつもより一秒早く。でもそれでいい。僕は魔族の男を挑発する。







「また、つまらんやつを斬ってしまったか」

「…………。ヌア…-」



 

 僕は魔族の男の返り血が少女に掛からないよう少女の前に立つ。魔族の男が再び僕に襲いかかろうとしたその時…。







 0








「ヌァんめテェェーーーエヘヘヘへへ!!!!!」


 『X』の傷痕が魔族の男の肩から腰の辺りに掛けて出来上がる。そしてそこから大量の血が噴き出す。それはあたかもかのような傷の付き方だった。魔族の男は白目を向いて仰向けに倒れ込む。


 魔族の男は出欠多量で死んだ。



「…………へ?………あ…」



 少女は魔族の男と僕を交互に見て声を上げる。そして何か僕に言おうとした所で少女が眠りに堕ちる。僕はとっさに少女の身体を支えた。


 …これは、リザさんか。僕はまだリザさんの姿を見ていないがリザさんに頼み込む。



「リザさん。この子の記憶をお願いします」


「いいのか?…何か言おうとしていたが」


「別に良いですよ。それよりここ最近ですね。リザさんが今、僕の前にいるってことは何か情報を掴んだってことですか?」


「ふっ。相変わらず察しが良いな。とりあえずこの子は私が預かるとして…場所を変えよう」


「あ、なら、ラルクさんの店はどうですか?パンを食べた後なんで食後のデザートとコーヒーが欲しくて…」


「私は別に構わんが…。その前に私はこの子を置いてくる。君は…その血を落としてきてはどうだ?」


 あ、そうだった。僕は魔族の男の返り血で真っ赤だった。



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