第8話 いい?眼で見える速さはまだ遅い。(そもそも剣を抜いてない)

「さっすが師匠! 手刀で中級悪魔を斬って倒すなんて!!! あぁ~。私の師匠は素敵ですぅ~」


「………………しゅ、手刀!? …………中級悪魔を…手刀で…………」


 クライツェさんは僕の剣を両手で持って興奮した様子で僕に近付いてくる。ああ、僕の剣をありがとう。そしてフォルちゃんは物凄く驚いて、物凄く深刻な顔をし始めた。で、なんかぶつぶつ言い始めた。


「クライツェさん。僕の剣をありがとう」


「いえいえ。師匠の戻りが遅いので師匠の剣を持って追いかけてきました」


 戻りが遅い?学園の時計棟の針を確認すると二人の元から離れてもう15分は過ぎていた。普通に考えて3分もいらない時間で戻ってこれる。この時間の差はなんだ?


 ……………考えられるとすればあの結界の効果。か?全く面倒な結界を張ったもんだ。


「し、…………師匠?」


「はい、私の師匠。剣の師匠、レル君です! いや、レルクロイ・ハークロイツ師匠です!」


「…………フォルちゃん、僕の剣の腕がここまであることはみんなに内緒にしといてくれない?」


 クライツェさんがぶっちゃけ始めた。幸いここには二人しかいない。なら、フォルちゃんに頼めば黙っといてくれるかもしれない。ダメならリザさんに頼むか…。さぁ、お返事は?


「……………………い、いいわよ。ただし、条件があるわ。」


 今ずいぶんと間があったな。そして条件ってなんだろう。僕にできる簡単な条件なら別に良いけど…。


「条件?」


「そ、条件。アンタに私も剣の師匠になってもらうの。」


「クライツェさんもいるし、まぁ、いいよ。ただ、クライツェさんにも言った通り僕は人に教えるのが下手なんだ。だから僕から教えられることはないよ。クライツェさんは僕の剣を見て学ぶらしいけど。フォルちゃんもそれでいいなら良いよ」


「はい! 師匠!」


「あ、クライツェさんにも言ったけど学園内で師匠呼び禁止で。あと、僕の剣の腕もみんなに隠しておいて欲しいんだ。理由は秘密で」


「分かったわ。…れ、レル君」


 やれやれ、僕の秘密を隠さなきゃいけない要注意人物がまた増えた。ま、今さら一人や二人増えても変わんないか。


 ん?デジャヴか?この心の中のセリフ…前にも言わなかったか?…うーん。気のせいだろ。




「じゃあ、改めて飲み物買いに行こうか」


「「はい! ししょ…………レル君!」」


 二人して僕に尊敬の目をして同じ間違いをし、同じタイミングで訂正した。どっちも剣バカだもんな。そりゃそうか。息が合うのも道理だな。僕は思わず苦笑してしまう。


 言うなれば二人は剣バカで、片方はドジッ娘。片方は…………パンッ娘?いや、それだとパン粉になってしまう。まぁ、いいや、パン娘で。


「あ、ちょっと! 私に対して今失礼なこと考えてない?」


「あ、いやいや。考えてないよ。考えてないよ。さ! 昼の時間も押してるし、買いに行こう。」


「あ、待って下さい。レル君。…あっ。」


「話を反らさないでよ! あ、ちょっと…もう!」


 僕は早足で歩き出す。僕を追いかけようと走り出したクライツェさんがけた。フォルちゃんはとりあえず無視しよう。


「大丈夫? クライツェさん。怪我はしてない?」


「だ、大丈夫です。………イタタッ。」


「大丈夫じゃないよ。膝から血が出ちゃってるじゃんか。…………保健室に行こう。ほら、おぶってあげるから」


「あ、いえ。そこまでして頂かなくても肩を貸してくれれば歩けます」


「無理しないで。…遠慮しないでほら、乗って」


「は、はい。では、お言葉に甘えて失礼します」


 ここまでの会話にフォルちゃんの音声はカットしといた。みんなが読みやすいように。って、みんなって誰だ?まぁ、いい。


 それでクライツェさんをおんぶして保健室に連れてって、それからそのまま先生に許可をとって保健室で昼ご飯食べて午後の授業を終えた。



 放課後になり、カバンを持って帰ろうとした時、パン粉に話しかけられた。いや、パン娘か。正直どっちでもいい。


「レル君。今日一緒に帰らない?」


「……………。うん、いいよ。せっかくだし少し街を案内するよ。そうすればパンを落とすこともなかっただろうし」


「パ、パンのことはもういいでしょ! さ、行くわよ。」


 学園内で師匠呼びしないのはちゃんと守ってくれているがこのパン娘…クラス内でんなこと言ってくれた日にゃあ、明日以降、「昨日のデートどうだった?」などとからかってくる奴らが出てくるに違いない。主にアーツィー君達だ。他にも言っては来ないがそういう目で見てくるはずだ。


 僕はそんなの恥ずかし過ぎて耐えられる気がしない。明日から登校拒否するかもしれん。だから僕は大義名分を作った。あと、そんなこともわからないフォルちゃんにはさらにパンネタで攻撃しとこう。


「パン屋でも寄る? 朝のパンの代わりに奢るよ?」










 そしてパン屋に着いた。今、僕とフォルちゃんはパン選びをしている。ちなみにクライツェさんは足の怪我があるから寄り道せず帰らせた。


 別に今日も「剣技を見せてくれ」と言われたときに困るからとかじゃないし。そう簡単に斬っていい奴なんて現れないから。週3ペースで来るから。あいつら。そのタイミングでクライツェさんが僕の隣で見てればいいからね。


(週3どころか普通の人は人生で1度も現れない。そんな奴。騎士や冒険者を除き。というかお前斬っとらんだろ)


 僕がパンを選び終わったところでフォルちゃんが窓の外に何かを見つけたようで僕に声を掛けてきた。


「レ、レル君。今の見た?」


「ん? 何を?」


「何をって…今、女の人が怯えた表情で何かから逃げるように走って行っただけだけど…。ただ、追っている人とかいないから不思議に思ってね。…………………わたしは騎士になるの! 近衛騎士に。だからそれにふさわしい人間になるために困っている人を放っておけないの! レル君、わたし行ってくる。パンは戻しといて」


 パンが乗ったトレーごと僕に押し付けて、フォルちゃんは店を飛び出して行く。やれやれ、正義感が強いな。…………僕も人のこと言えないけど。


「さて、会計済ませたら追いますか」


 



 フォルちゃんの分まで会計して店を出る。フォルちゃんが向かった方角は小さな川が流れてて橋の下は人気ひとけがなく絶好の襲われポイントがあったはず。そこに向かってみよう。




 -おお、おお、襲われとる。やっぱりな。この辺つったらここだよな。あとその橋の下、奥は鉄の柵があってそこから水が流れて来るだけでそれ以上先に行けない。かたや川、方ややたらと高い壁。実質、行き止まり。


 で、その行き止まりにフォルちゃんが言ってた女の人がいて、フォルはその人を背にして戦っていると。ふーん。お相手は?


 僕は橋の上でパンを食いながら観察する。…………なんだ。ただのゴーストじゃないか。あれはモンスターであの女の人が目をつけられて取り憑つかれそうになってただけか。


 このゴーストってやつは対象を決めたら取り憑いて体を乗っとるってだけのモンスターで取り憑きモードになったら実態を持って襲ってくる。取り憑きモード以外は目に見えなかったり見えたりする。


 まぁ、僕の能力なら3秒で殺せるし、たとえ体に取り憑いたとしても口は動かせるから僕にとってはただの雑魚なんだよね。


 で、取り憑きモード中に横から邪魔されると邪魔したやつを殺そうとする性質がある。そんなわけで今フォルちゃんが必死に戦ってらぁ。ハハッ。パンうめぇ。



 あ、そうだ。フォルちゃんも僕の弟子になったし「剣技見せて。剣技見せて」とやかましいこと言ってくるかもしれない。なら…-。


「なによこいつ。強いじゃない! …くっ!」


「ヌハハハッ! そう言う小娘もやりおるではないかッ!」


「ちょっとヤバイかも…。レル君にも手伝ってって言えばよかった」


「フン!」


「キャ!」


「ヌハハハハッ! こんな所に助けなど来ぬわ。」


 などとフォルちゃんと会話しているこいつは見たことのない格好をしていた。防具は見たことのないものだったけど剣は僕がよく知っていてよく見ている武器だった。



 そう、日本刀だ。



 僕はその剣を使うやつと会ったことがなかった。本当のその剣の使い方を僕は知らない。だから僕はもうちょっとフォルちゃんとこいつのバトルを見ていたかったけどフォルちゃんがもうそろそろで死にそうだ。仕方ない。


「切り捨て御免」


「キャーーー!」


 僕はパンの紙袋を地面に置く。そしてフォルちゃんにトドメを差そうとしているこいつの背後に立つ。


「フォルちゃん。助けに来たよ」


「ヌッ、何奴!」


「………レ、レル…君?」


 日本刀を持った男がトドメを差すのを止めて振り返る。フォルちゃんは半ば諦めていた顔をしていたけど僕の顔を見るなり笑顔になった。女の人は少し離れたところでガクブルしている。


「フォルちゃん。今日、僕の弟子になったんだ。なら今から僕の剣技を見せてあげるよ。良く見ててね」


 そう言うやいなや、僕は足を開き、腰を落とし、左手で剣の鞘を握り、右手を柄に添える。


「ほう。居合い斬り…か。…………ならば拙者も応じよう」


 日本刀の男は上段の構えを取る。大きく一歩踏み出せば互いの剣が交わう距離。僕は剣の鍔を左手の親指で軽く弾き、能力を発動する。


































「お前はもう、死んでいる」

 そして僕は続け様に決めゼリフを言う。



 3



「フォルちゃん。いい?」

「へ? …は、はい!」



 2



「眼で見える速さはまだ遅い」

 僕は日本刀を持った男を見据える。



 1



 僕は目を瞑り剣を右手で握る。

「これが…」

「遺言を遺すのかと思えばそのような…-」



-カチンッ



「僕の剣技だ」

「ヨンマイバアアアァァーーー!」


 日本刀を持った男は体を一瞬で八つ裂きにされたかのように血を吹き出し、絶命…いや、成仏した。僕の体や周囲に血が飛び散ったけどゴーストであった為、男の体が消滅する時に血も一緒に消えた。


 僕はパンの紙袋を拾い、フォルちゃんの分の紙袋を渡して僕は立ち去………れなかった。フォルちゃんに捕まった。


「はい、フォルちゃんのパン。奢るって言ったでしょ」


「あ、ありがとう。…ってちょっと待てぇーい! あの人に何で追われていた聞かないの?」


 僕は面倒ごとにあんまし関わり合いたくないんだけどなぁ。いつもはリザさんか組織の人間に後処理を任せてきたんだけどどうやら今回はそうはいかないようだ。







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