第27話 ナチュラルスルーと大人買い

 山頂から見た景色で、遥か先に都市を見つけたサンテ一行。

 夜が明けると山を下り森を抜け、道中のモンスターを煙へと変えながら進んだ。

 空を飛ばなかったのは森で採取が出来るからで、分裂したラムの収穫独壇場だった。

 収穫物ごとに3割しか取らなくてもその収穫量は圧倒的で、今のメンバーだけなら数年維持できるほどとなった。


 平野に出ても人間が襲われている事もなければ、人間に襲われる事もなかった。


 山頂から下り始めて10日。

 途中にあった地の果まで続く底なしの絶壁も文字通りに飛び越えて、ようやく街に到着した。

 通行税がかかるからと、ちゃっかりメイリアだけは送還を希望し姿を消していたが。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 冒険者ギルドでは完全に人間にしか見えないメイリアも冒険者登録をした。

 そして当然のようにナンパされる。


「あっ、あの、その服装からして魔法使いだと思いますが、良かったら僕達のパーティーに……」


「おうおうどきな、この美人のねーちゃんはウチでだいーじに育ててやるからよ、ヒヨッコの出る幕はねえ」


「ねえねえ、私達、百合の守り手に入らない? 野蛮な男は居ないから毎晩安心して眠れるわよ」


「いえいえ、でしたら我等ドーセービーイングでは女性に興味のない男性のみのパーティーとなっておりまして……」


 相手の話しは聞かずに互いに主張しあい、次第にヒートアップして乱闘騒ぎになっていった。

 ギルドの受け付け前のフロアでは、パーティーも年齢もバラバラな男達が拳1つで殴り合い、倒れた少年冒険者をドーセービーイングと思われる冒険者が愛おしそうに運び出し、それを見た同じパーティーであろう少女冒険者が走って追いかけ、その少女冒険者を更に百合の守り手達が追いかけていった。


「止めんかー! なんだこの騒ぎは!!」


 他にもメイリア争奪戦に参加していた冒険者達が、ギルドマスターの威圧交じりの一喝に体を硬直させ慌てて弁明に走る。


「いやいや、俺達はたださっき登録したばかりの新人の教育役をかけて、相手が相応しいかどうかを見極めていただけで」

「そうだぜギルマスさんよ、俺達はそっちのねーちゃんに危険がねえように……あれっ、居ねえ!?」


「先程登録を済ませた新人の方なら、初めに声をかけられた時から完全にスルーして、連れの女の子と手を繋いで普通にギルドから出ていきましたよ」


 メイリアを担当した受け付けの職員が、乱闘騒ぎを起こしていた冒険者達に無慈悲な現実を突きつける。


「お前等冒険者なら常に周囲に気を配らずにいてどうする! モンスターに不意打ちされるとギルドでは常に注意しているだろうが! 今回の騒ぎと注意不足の罰として、自分と同級の仕事10回の報酬を1割減額だ!!」


「えー、そりゃないぜマスターよー」

『そーだそーだ!』

「なら20回にするか?」

『いえっ、10で結構です、ギルマスの心遣いに感謝します!!』


 罰を与えられた冒険者達はまるで訓練された騎士のように、一糸乱れぬハーモニーでギルドマスターに感謝を述べたそうな。


 △△▽▽◁▷◁▷


 そんなギルド内の騒動にも無頓着なサンテは、年の離れた姉妹のようにメイリアと仲良く手を繋ぎ街を散策していた。


「おじちゃん、この串焼き美味しいからあと10本まとめてちょうだい」

「おっ、嬉しい事言ってくれるねぇお嬢ちゃん、お勘定用意してちょっとまっててくんな」

「うんっ!」


 サンテはバリアモードになっているラムから空いている手に代金分の銅貨を握らされると、笑顔のまま手を繋いでいるメイリアを見上げた。


「ねーねーメイリア、こうやって1度に沢山買うのを大人買いって言うんだって。私また1つ大人に近付いちゃったね」

「ええそうね、サンテちゃん、また一歩立派なレディーになっていってるわね」


 サンテは全ての屋台で一品購入しては仲間と分け合い味見をして、美味しいと思ったら大人買いのつもりで余分に購入してはラムが保管していった。

 そんな食べ歩きは空が赤くなりだすまで、休憩を挟みつつ続けられたのだった。

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