第26話 変身しないけど衣装チェンジはする

 朝、サンテは放心していた。

 紅椿だけでなくメイリアも調理に加わったために料理の味が向上し、そのサンテ基準で最高の味に満足してしまったからだ。

 この日また、サンテに相応しい料理が更新された。

 これまでの料理については、全て忘れ去った。


「紅椿ちゃん、メイリアちゃん。お料理とっても美味しかったよ!」


 食後後片付けをしている二人に、復活したサンテが感想を述べる。

 子供らしく美味いの一言だったが。


「ギャギャ!」

「フフッ、お粗末様でした」


 それでも二人は、とても嬉しそうに返答していた。




 毎晩洗練されていく巨石の住居を消し去ったバゴットに乗り、こうなったら最後まで山登りをしようと山頂を目指すサンテと仲間達。

 わざと左右に蛇行しつつ高山病に気を配り、頻繁に休憩を取りながら進むこと丸一日。

 翌日昼前に山頂へと到着した。


「凄い……綺麗」


 初めて見る自然が生み出した雄大な景色に一言もらして以降、サンテは無言でその光景を目に焼き付けていたのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ぐぎゅるるる〜。

 昼もかなり遅い時間になって、近くから漂ってくる肉の焼ける匂いにサンテの胃が先に音を上げた。


 残りは焼くだけになったので、ボロ布しか着てないメイリアは紅椿に後を任せて、総蜘蛛糸製の出来立ての服に袖を通していた。

 一方、昨日から糸を出し続けて編み物をしていたコスモスは、ヘロヘロになって足を伸ばして休んでいる。


 カラー糸まで出せるようになったコスモスの作品は、裾が足首まである黒いドレスで、腰は引き締まっているのに他はゆったりしていて、メイリアのスタイルを錯覚させる効果を持っていた。

 ペターン、キュッ、ペターン。


 靴はバゴットが黒曜石のような素材で作った、パンプスに近い形の物。

 クッション性能は皆無だが、自分が疲れるのか不明だし、もし疲れたなら魔法で飛べばいいと考えていたのでメイリアには問題ない。


「メイリアちゃん、すごーい! お姫様みたい!」


 黒一色ではあるが、髪を結い上げてセットしたメイリアは、サンテからすれば大人の女性か話しに聞くお姫様にも見えただろう。

 メイリアは顔を赤く染めながら、サンテに礼を言うのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここまで来ちゃったんだから、このまま先に進もう!」


 食事も終わり進むか戻るかの話しになった時、主人サンテの鶴の一声で進む事に決まった。

 使用済みの調理器具や食器は、メイリアの魔法で洗われラムが収納する。

 バゴット製の石テーブルとイスは、次に来た人用にと残された。


(野ざらしだけど、石だからかなり耐えるわよねー。何よりバゴットが作ったんだし、数百万年規模だったりして?)


 メイリアの推測をその場に残して、サンテ一行は山の向こう側へと歩を進めて行くのであった。

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