第2話 覚醒

「なーにやってんだ?」

 俺はこの街を救ったとかいう英雄の石像に身を隠している村上に向かって、こっそりと話しかけた。

「いや、楠ってよく考えてみたら、今元気ないよな……。そんな彼女を責めるのもなんか違うし、なんて声をかけていいかよくわからなくて……」

 村上はうっそうとした森の近くに腰かけている楠を見ながらそう呟いた。

「まー、放っておくのが一番じゃないのか? こういうのは時間が解決してくれるものだっていうし……」

「でもさ、楠の父さんも可哀想だよ……。あんなに俺と楠を可愛がってくれたのに、独り身になるなんて……」

 確かにあの人は業務が多忙の中、楠と村上の面倒を職場である研究室でよく見てくれていたっけ……。んで、少しでも恩返しになればと、二人で夕食を作って……。ちょっと待て。なんで俺はこの事をまるで自分が経験したかのように知っているんだ?


「なーんで、木刀持ってきてるのかな?」

 後ろから急に声を掛けられ、体が跳ねる。その拍子に俺の頭は石像を強打した。

「いつつつつ……」

「木刀? あ、ほんとだ。なんで西条、お土産に買った木刀を持ってきてるんだ? しかも俺の分まで……」

 俺は頭を摩りながら、何故だか持ってきていた木刀2本に目を向ける。

 いや、『何故だか』ではない。この木刀を持って来たのは理由がある。

 先ほど頭をぶつけた事によって、先ほどから頭の中に不気味にかかっていた靄がやっと晴れた。

「木刀の件は後で話す。それよりも久遠はなんでここに?」

「んーっと、そろそろ夕食の時間だから呼びに」

 と、なんだか妙に何かを含んだ言い方をする。

「そうか、夕食か! じゃああそこにいる楠も呼んで――」

「ちょいちょいちょいちょい……」

 石像の陰から飛び出そうとした村上を俺と久遠の2人がかりで止める。

「何!?」

 少し不機嫌そうに抗議する村上。

 気持ちはわかるが、今は少しだけ大人しくしておいてくれ。

「理由は省くが、今から、楠が2人組に森の奥にさらわれるんだ。だから――」

「じゃあなおの事、今から助けに行かないと……」

「無理だ。相手はプロ。俺たち2人が正面から行って勝てるわけがない。だからこそ、不意打ちが必要になる。その為の木刀だ」

「2人? 私は数に入っていないのかしら?」

 久遠がわざとらしく、自分の存在をアピールする。

 俺の当初の予定ではここに久遠はいないはずだった。ここは戦力プラス1とみるか……。いや、

「久遠は先生に楠がさらわれた事を報告してくれ。今からでも構わない。俺達だけじゃどうにもならなかった時の為に保険をかけておきたい」

「りょーかい、じゃあ早速行ってくるね。あと……無茶は……しないでね?」

 と言って久遠は駆け出していった。

「さて……来たぞ!」

 俺が村上に木刀を渡した直後、楠は男性二人組に森の中へ連れ去られた。

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