第40話 私と館長

結局答えは見つからなかったのですが、明日になれば何か分かるかもしれないと思った私は、早めに眠ることにしました。

そして翌朝になり目を覚ました私が最初に目にしたのは、見知らぬ部屋でした。

一瞬混乱したものの、すぐに落ち着きを取り戻したところで周囲を見回してみると、

そこには様々な物が散乱している光景が広がっていることに気付きました。

どうやらここは誰かの部屋らしいのですが、それにしても散らかり過ぎではないかと

思わずにはいられない程の惨状でしたから、思わず苦笑してしまうと共に呆れ果ててしまった私がふと顔を上げると、

視線の先には見覚えのある顔がありました。

それは紛れもなく館長さんだったんですが、どういうわけかとても険しい表情を

していたので戸惑っていた私に対して、彼女はこう言ってきたんです。

「ごめんなさい、実は貴女にどうしても頼みたいことがあってこの部屋に呼んだのだけれど、

やっぱり迷惑だったよね?

でも、私にとってはとても大事なことだからお願いするしかないと思ったんだ」

そう言って頭を下げた後、続けてこう言ったんです。

その言葉を聞いた私は、思わず息を呑んだ後に黙り込んでしまったことで

怒らせてしまったのかと心配した館長さんが、心配そうに声を掛けてきたんですが、

それに対して大丈夫だと答えた後で深呼吸をした後に、意を決して尋ねてみたんです。

「それで、頼みたいことというのは何ですか?」

それを聞いた彼女は嬉しそうな表情を浮かべた後で答えたんです。

その答えを聞いた瞬間、私は背筋が凍るような思いになったと同時に

絶望感が襲ってきたんですけれど、その一方で興奮もしていました。

何故ならそれは、私自身が最も望んでいたことだったからです。

つまり、私が求めていたものが手に入ることになるのですから、

嬉しくない筈がないです。

だって、館長さんからのお墨付きなんですよ!?

これで喜ばなかったら嘘でしょう!

そう思いながら、意気揚々と部屋を出て行った私は、早速館長さんの元へと向かうことにしました。

そして、その日の夜になってようやく帰ってきた館長さんは、私の姿を見るなり驚いていましたが、

そんな彼女に向かって、私が用意していたセリフを告げることで黙らせた後で、彼女に尋ねたんです。

その内容は、館長さんをモデルにした絵を描きたいというものでした。

それを聞いた彼女は、最初は戸惑っている様子でしたが、最終的には了承してくれたので、

早速取りかかることにしたんです。

と言っても、最初から上手く描けるとは思っていませんでしたから、

とりあえずスケッチだけでもしておこうと思いまして、

まずは彼女の容姿をじっくりと観察することにしました。

流石館長だけあって、顔立ちはとても整っていますし、

髪や瞳の色も鮮やかで綺麗です。

身長はそれなりに高い方ですけど、スラッとした体型をしているせいか威圧感のようなものは無く、

寧ろ親しみやすい印象を受けます。

肌の色は白いですが、不健康そうに見えないのはやはり若さ故なのでしょうか?

それとも、彼女が普段から気を遣っているからかもしれません。

いずれにせよ、この美貌を維持し続ける為に必要な努力を考えれば尊敬の念しか出てきません。

それに加えて頭も良いですから、本当に非の打ち所がない人だなぁと思います。

そんなことを考えていたら、いつの間にか手が止まってしまっていたようで、

それに気付いた館長さんに声をかけられてしまった私は、慌てて作業を再開しようとしたんですが、

その時に館長さんと目が合ってしまい、気まずさを感じてしまいました。

ですが、それも束の間のことで、館長さんは微笑みながら言ったんです。

その優しい言葉に、思わず涙が出そうになってしまった私は、

誤魔化すように目を逸らして作業に集中することにしたんですが、

その間も館長さんは何も言わずに待っていてくれました。

そうして時間が過ぎていき、気付けば深夜になっていたことに気が付いた私は、

流石にこれ以上遅くなる訳にはいかないと思い、片付けを始めようと立ち上がると、

それに気付いた館長さんが声を掛けてきました。

それを聞いてハッとした私は、すぐさま帰り支度を始めたのですが、

そこで不意に思い出したことがあったので聞いてみることにしました。

それは、どうして私にこんなに良くしてくれるのかということでした。

そうすると、彼女は笑って言いました。

それは君が一生懸命頑張ってくれている姿を見ていたら、

自然と応援してあげたくなったからだよ、と言ってくれたんです。

その言葉に感激した私は涙を流しながら何度も頭を下げてお礼を言った後で帰路につきました。

帰り道の間中、ずっとニヤニヤしっぱなしだったことは内緒ですよ?

それから家に帰った後も余韻に浸っていた私ですが、しばらくして冷静になると、

自分がやらかしたことを思い出してしまい頭を抱えることになってしまいましたが、

同時に後悔はありませんでした。

何故ならば、あのまま続けていたとしてもきっといつかバレていただろうし、

それなら今ここで全て打ち明けてしまった方が遥かにマシだと判断したからです。

なので、勇気を出して言うことにしたんですが、

案の定と言うか予想通りと言うべきか全く信じてもらえませんでした。

当然ですよね、自分でも馬鹿だと思いますもん。

とは言え、このままでは埒が明かないのでどうしたものかと考えていた時、

突然閃いた私は思い切って言ってみることにしました。

すなわち、今の私では信用してもらえないだろうから証拠を見せてあげる、ということです。

我ながら無茶振りにも程があると思うのですが、館長さんは快く承諾してくれた上に、

実際に見せてくれたんです。

それがあまりにも衝撃的過ぎて、暫くの間は言葉が出なかったんですが、どうにか気を取り直した後で感想を述べました。

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