第32話 愛する彼との生活
開け方が分からず困り果てていたところ、彼が教えてくれることになり、
中身を確認すると中にはぬいぐるみが入っていた。
それもただのぬいぐるみではなく、私にそっくりに作られたもので、
目を惹く可愛さに思わず見惚れてしまっていたほどである。
何故こんなものをプレゼントしてくれたのだろうかと不思議に思っていると、
突然抱き寄せられてしまったことに動揺している隙に、そのぬいぐるみを抱きしめられていた私は
パニックに陥ってしまいそうになったのだが、そんな私の様子を面白そうに見つめていた彼はこう言ったのである。
「ああ、やっぱり君は可愛いね。これからもずっと大切にしてあげるから安心しなよ?」
そんな風に言われてしまっては何も言い返せなくなってしまった私は、彼にされるがままになっている状態だったのである。
このままではまずいと思ったものの、既に手遅れだったようで、その後もとことん可愛がられてしまう羽目になったのであった。
それからしばらくの間、彼と過ごしたのだが、その間はずっとぬいぐるみのように
扱われていた気がしているが気のせいではないだろうと思っている。
というのも、時折彼が私の事を見る目がまるで獲物を狙う狩人のような鋭いものに変わる瞬間があるからなのだ。
その度に恐怖心が込み上げてくるものの、それでも尚諦められずにいる自分自身の気持ちに
気づいてからは尚更複雑な心境になっていたりもするのだが、 やはり彼の事が大好きだという結論に
達すると途端に嬉しくなってしまうと同時に安心感を覚えるようになりつつある現在、
これから先も二人で一緒に居られることを切に願っているのは言うまでも無いことであった。
「はい、これ、君にプレゼント」
そう言われて手渡されたものを受け取った私は、恐る恐る箱を開けて中身を確認する事にしたのだが、
中に納められていたものを見た瞬間、思わず目が点になってしまった。
何故ならそれは、指輪であったからである。
(え、なにこれ?)
などとパニックに陥りつつもどうにか冷静になろうとした結果、取り敢えず礼を言うことにしたのだけれど、
何故か胸がドキドキして仕方がなくなっており、緊張していた事もあり上手く声が出せなかったことから、
噛んでしまった上に変な言い方をしてしまった事が、さらに恥ずかしかった私は咄嗟に顔を背けることで
誤魔化そうとしたものの上手く行かなかったらしいことに気付いた時は既に手遅れの状態となっていたようだが、
それでも最後まで諦めることなく彼に訴えかけることによってなんとか冷静さを取り戻すことができたため、
安堵しているとそこで彼が話し掛けてきたので耳を傾けることにしたのだった。
「ねぇ、聞いてるの? ちゃんと受け取ってくれるよね?」
「は、はい!」
即答したものの、内心では焦っていた。
というのも、当然受け取らないなんて選択肢は無かったものの、
まだ結婚していないのにこのようなプレゼントを贈られることになったという現実に驚きを隠すことができなかったからだ。
しかしながら、ここで受け取らないという選択肢を選んでしまえば関係が崩壊しかねなかったため渋々了承すると、
彼は嬉しそうに微笑みながら私の手を取って指輪を薬指へと嵌めてくれたのだ。
その後、お手洗いに行きたいと言って一旦部屋を出ることにした私は、
戻ってきた後に指輪を見て驚いた表情を浮かべていたらしい。
というのも、実は私が嵌めていたはずのそれがいつの間にか彼の薬指に嵌まっていたからである。
(どういう事なの?)
困惑しつつも理由を聞こうとしたところ、彼は不敵な笑みを浮かべながら言ったのだ。
「君が僕のものだっていう証だよ」
と告げられた瞬間、心臓の鼓動が更に激しくなっていったのを感じた私は、
彼の顔を見ることさえできずにいたのだが、そんな私の心中など知る由もない彼は尚も追い打ちを掛けてくるかのように、
耳元で囁いてくるものだから気が狂いそうな程の興奮に襲われながら呆然としていることしか出来ない状態になっていた。
(どうしてこうなったんだろ、もっと好きになっちゃったかも)
そう思いながら顔を赤らめていた私は、彼から目を逸し続けていたため、
この時彼が浮かべていた表情を見逃していた事で後に後悔することになるのだが、
それを知るのはもう少しだけ後の事であった。
それからというもの、私は彼に対してより一層愛情を強く抱くようになってしまったのだが、
それは彼も同じであったようで、お互いに依存し合うようになった私たちは以前にも増してべったりくっつくようになりつつあり、
その結果として周囲から冷やかされる事が増えたりもしたものの、それでも特に気にすることなく過ごしていたため、
今では周囲公認の仲となっているのである。
(私たちはこんなに愛し合ってるんだから、きっと大丈夫だよね?)
などと自分に言い聞かせながら日々を過ごしていたある日の事、ついにプロポーズを受ける事になった私は、
嬉しさと緊張が入り混じった複雑な心境になりつつも了承する事を決めた事で、正式に恋人同士としての関係が成立したのだが、
まだ結婚にまでは至らないと言っていた彼を焦らすためにも先に同棲生活を始めたばかりであった。
その後も毎日のように彼の部屋で過ごす日々を送っていたが、そんなある日、
私が日頃の感謝の気持ちを込めて手作りした手編みのマフラーを渡したところ、
彼が涙を流し始めてしまった為、慌てて駆け寄った所、突然強く抱きしめられてから熱いキスを交わす事になったものの、
それ自体は今までにもあった行為だっただけに余り気にはならなかったものの、ただ一つだけ想定外の出来事が起こっていた。
それは、 彼がキスをした直後、突然私を押し倒すようになってしまったために体勢を崩されてしまい、
そのまま床へ倒れ込んだ上に馬乗りされるようになった状態で、こちらが呆然としながら彼の顔を見詰めていると、
我に返ったかのように謝罪してきた彼は私に覆い被さるようにして倒れ込んできて、
胸に顔を埋めながら甘えてきたことで思わず笑みを浮かべてしまった結果、一緒に笑い出してしまったのである。
「あ、あははっ!」
「なんだよもう、そんなに笑ってるとぶっ飛ばすぞ」
なんて言われたので、慌てて止めようとしても聞かず、されるがままになったのだが、
それでも不快には感じられなかったことから黙って身を任せる事にした。
というのも、普段は感情を余り表に出さないタイプである彼が今は素直に甘えてくれている。
つまりは自分を曝け出している事に対して嬉しく感じていた私は、
もっと私を頼りにして欲しいという気持ちを強く抱いているのである。
ただその反面、いつまでこのままの状態でいられるのだろうかという不安もあったのだが、
今は考えないようにしようと思うと同時に、この状況を楽しむため彼を受け入れていくことに決めたのだった。
それからしばらく経ってもなかなか起き上がろうとしない彼を呆れつつも
愛おしく思いながら頭を撫でている内に彼はスヤスヤと眠ってしまい、その寝顔を覗き込んだ後でゆっくりと起き上がり、
未だに寝息を立てている彼に毛布を掛けた後、一人で起き出した私は台所へと向かうことにした。
そうすると、そこでコーヒーを作っている最中、背後から声をかけられたかと思えば彼が起きてきてしまった為、
慌てる事になったのだが、こちらの様子に全く気づかずそのまま椅子に腰掛けた彼は
呑気に欠伸をしながら話しかけてきたので驚いたものの、冷静に対処していく。
その後でテーブルに着いて向かい合う形となった私達は他愛もない会話を楽しみながら過ごしていったのである。
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