6
付き合うようになって、幾度か口では言い表しようの無い恐ろしい出来事を経験した。
家の関係らしかったが来るなと言う桜子を無視して巻き込まれた僕の自業自得だった。
そんなことが何度か続いた僕の高校卒業を間近に控えた冬。
いきなり桜子が切り出した。
「別れよう」
「急に、なに?」
「家を継ぐことが正式に決まったの。だから年下の坊やとの火遊びはもうおしまい」
巻き込まれないようにわざと馬鹿にした言い方をした桜子の気持ちに気付けるほど、その時の僕は大人ではなかった。
頭に血が上った僕は強引に腕を掴んで引っ張りホテルに連れ込んだ。
「えっ、ちょちょっと、ここ」
それまで身体の関係は無かった。純潔であるよう本家から厳しく言われている話を聞いていたし、僕自身が責任を取れるまでと真面目に考えていたからだ。
家を継ぐから別れるなら、継げないようにすれば良い。
安直に、そして愚かに僕はそう考えて桜子を――抱いた。
抵抗しない桜子が泣いているのも気付かず。
いつの間に寝てしまったのか気が付くと桜子の姿は無かった。
残っていたのは、乱れたベッドと桜子が純潔だったことを示す跡だけだった。
これで家を継げないはずだから、別れないですむんだ。
自宅に帰ると、まるで待っていたかのように電話が鳴った。
嫌な感じがして急いで受話器を取ったが、微かに嗚咽が聞こえるだけだった。
「…桜子?」
返事は無い。
「桜子、二人でどこか行こう。本家とかそんなの関係ない場所で一緒に暮らそう。駅で八時に待ってるから」
子供の浅知恵だった。
どこか遠くに逃げれば二人で助け合って暮らせる、そんな風に考えたのだ。自分がした愚かな行為も忘れて。
通帳や簡単な荷物をまとめて、僕は駅に向かった。
約束の時間を待ちながら僕は急な寒気に襲われた。
そして桜子に無理に付いて行った先で起きた恐ろしい現象を思い出した。
一緒にいると言うことは、あれをまた体験するということなのだ。
逃げた。
僕は恐怖に負けて。駅から、桜子から逃げ出したのだった。
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