「僕、桜子が好きだ」

 中学生になって、僕は桜子に告白した。

 家の手伝いをしているとかで会える回数が少なくなって、ちょっと焦っていたのだと思う。

「ふ~ん。あんたもいよいよ恋に恋するお年頃かぁ」

 時々するにやにや笑いで桜子は言った。

「僕、本気だよ。どうすれば分かってくれるのさ!」

 桜子は半目になって、ビシっとデコピンをする。あんな細い指のどこにそんな力があるのか、すっごい痛い。

「中坊がな~に生言ってんの。せめて高校生になってから言うんだね」

 まったく相手にされなかった。

 だから僕は高校生になるまで待って桜子に言った。

「高校生になったから言う。僕は桜子が好きだ。気持ちはずっと変わってない。だから、僕と付き合って下さい」

 あの時の桜子のぽかんとした顔は今でも忘れない。いつもの落ち着いた表情が崩れて顔が可愛かったから。

「えっ、うそ。覚えてたの…ってか本気だったの、あんた?」

「本気だよ! 本気だって何回も言ったじゃないか。ずっと桜子が好きだよ!」

「あんたって馬鹿だね」

 はぁとため息をついて桜子は僕にキスした。

「ふふん、人生で二度目のキス」

「二度目?! 二度目ってなに?! いつ、どこで誰としたのさ?!」

 やっと好きだって認めてもらったのに。

 頭に血が上った僕は、僕より背の高い桜子の両肩をつかんで揺さぶった。

「だ、誰って…あんただけど…溺れたとき…人工呼吸したから……」

 真っ赤になってうつむく桜子に僕の全身から力が抜けた。

「あれは人工呼吸だから無効って……」

「聞こえてたの?!」

「じゃあ、僕が最初だよね。一番だよね」

「……そうだよ」

 恥ずかしそうにする桜子を見て、僕はやっとポニーテイルに追い付いた。

 でも、それは少しの間だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る