3
いくつかの季節が巡って、そのうちに僕は気付いた。
桜子は、いつも一人だった。
祖母の家に遊びに来て、町内会の肝試しに参加した時に墓場を歩きながら僕は聞いた。
「桜子ってさ」
ごつん。殴られた。
「いってー」
「桜子さん、でしょ。年下のくせに呼び捨てにすんな」
「……桜子ってさ、友達いないの? いっつも一人じゃん」
子供は無知だ。無知であるが故に残酷な言葉も簡単に口にする。
「いるよ。でも、いいのぉ?」
にやにやする桜子は、それでも綺麗で僕は見とれてしまう。
「友達優先にしたら、あんたと遊んであげらんないよぉ」
「やだ! 桜子は命の恩人だ。だから僕は桜子の物なんだ。自分の物は大事にしなきゃいけないんだぞ」
「はぁ? なに、その無茶苦茶な理論」
桜子は、急に足を止めて僕の口を押さえて用心深く周りを見回した。
つんと鼻をつく嫌な臭いが微かに臭っていた。
「…大丈夫か……」
「桜子…この変な臭いなに?」
「あんた、分かるの?」
「もう消えたけど、なんかすごい変な臭いだった」
そこで初めて僕は死向臭の話を教えてもらった。
死に向かう臭いと書き、文字通りに人が死ぬ時に強く臭うと。
同時に死に巻き込まれることもありえるから気をつけるようにも言われた。
普通は感じることのない臭いらしかったが稀に感じる人間もいるのだそうだ。
あるいは、それを感じる人間と濃厚接触した場合も感じるようになることもある。
僕は後者だった。
「そうだ。来年から、こっちに来てもあたしはいないから」
話を終えた途端に桜子が急にそんなことを言い出した。
濃厚接触の話を聞かれないようにするために話をそらしたのだと気付いたのはずいぶん後になってからだ。
「えっ?」
「そんな顔しないの。あたし中学卒業なんだってば。高校が遠いから本家に戻るだけ。そう言うこと」
何も無かったように桜子は歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます