いくつかの季節が巡って、そのうちに僕は気付いた。

 桜子は、いつも一人だった。

 祖母の家に遊びに来て、町内会の肝試しに参加した時に墓場を歩きながら僕は聞いた。

「桜子ってさ」

 ごつん。殴られた。

「いってー」

「桜子さん、でしょ。年下のくせに呼び捨てにすんな」

「……桜子ってさ、友達いないの? いっつも一人じゃん」

 子供は無知だ。無知であるが故に残酷な言葉も簡単に口にする。

「いるよ。でも、いいのぉ?」

 にやにやする桜子は、それでも綺麗で僕は見とれてしまう。

「友達優先にしたら、あんたと遊んであげらんないよぉ」

「やだ! 桜子は命の恩人だ。だから僕は桜子の物なんだ。自分の物は大事にしなきゃいけないんだぞ」

「はぁ? なに、その無茶苦茶な理論」

 桜子は、急に足を止めて僕の口を押さえて用心深く周りを見回した。

 つんと鼻をつく嫌な臭いが微かに臭っていた。

「…大丈夫か……」

「桜子…この変な臭いなに?」

「あんた、分かるの?」

「もう消えたけど、なんかすごい変な臭いだった」

 そこで初めて僕は死向臭の話を教えてもらった。

 死に向かう臭いと書き、文字通りに人が死ぬ時に強く臭うと。

 同時に死に巻き込まれることもありえるから気をつけるようにも言われた。

 普通は感じることのない臭いらしかったが稀に感じる人間もいるのだそうだ。

 あるいは、それを感じる人間と濃厚接触した場合も感じるようになることもある。

 僕は後者だった。

「そうだ。来年から、こっちに来てもあたしはいないから」

 話を終えた途端に桜子が急にそんなことを言い出した。

 濃厚接触の話を聞かれないようにするために話をそらしたのだと気付いたのはずいぶん後になってからだ。

「えっ?」

「そんな顔しないの。あたし中学卒業なんだってば。高校が遠いから本家に戻るだけ。そう言うこと」

 何も無かったように桜子は歩き出した。

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