俺の幼なじみがこんなに可愛いわけが無い

僕と彼女、朝霧儚叶あさぎゆめかはいわゆる幼なじみというやつだ。

幼稚園、小中高と同じ学校に通っていたがクラスは違っていたし、お互い忙しかったから、あまり会えてはいなかった。

彼女に初めてあったことは今でも鮮明に憶えている。

桜吹雪が舞う春の日、目の前に現れた少女が最初誰だか分からなかった。

「アキ君、おはよ。」

想像して欲しい。

目の前に超絶美少女が現れ、僕に向かって声をかけてきたらどうなるだろうか?

答えはたった一つ。「何も出来ずに固まる」である。

例にもれず、僕も固まってしまい、オマケに聞き返してしまった。

「お前、誰?」

目の前の少女はきょとんとした様子で直後、思い出したように「あっそうだった。まだ見せていないんだった。」と呟いた。

「儚叶だよ。朝霧儚叶。まさかアキ君、幼なじみのこと忘れたりしていないよね。」

目の前の超絶美少女が朝霧儚叶であると認識するのに約5秒。

天地がひっくり返った感覚に襲われた。

「おい、嘘だろ!!」思わず叫んでしまう。

何を隠そう僕の知る朝霧儚叶は野暮ったい三つ編み、地味な眼鏡と超が3つくらいついてもおかしくない地味女である。

それが、目の前にいるのは手入れの届ききった黒髪。地味な眼鏡は外していて、清楚の集合体のような外見。着ている制服も彼女の魅力を引き立てている。

あの地味女の面影はきれいさっぱり跡形もなく消え去っていた。

「イメチェンしてみたんだけど、どう?似合うかな…」

上目遣いにこちらを見てくる儚叶。あれ?俺の幼なじみはこんなに可愛かったか?

「俺の幼なじみがこんなに可愛いわけがない。さては、お前偽物だな!」

「さすがに怒るよアキ君。」頬を膨らませてそう返してくる。

「ごめんごめん。でも、なんでイメチェン?前の三つ編みもなかなか良かったのに…」

「別にアキ君に見せるためじゃないんだけどな…んーっと、好きな人が出来たからかな。」

ん?待てよ。今なんつった?

「え、ちょ、ちょっと待って。今って言った?」

「そうだよ。」まんざらでもないように儚叶は返してくる。

「え、誰?俺の知ってる奴?」

「言うと思った。別に誰だっていいでしょ。多分知らないと思うけど。」

セリフはなかなか辛辣だが、当人が笑顔なのでおそらく気分を害してはいない。儚叶のマジギレは表情が消えるからな…

あれはあれで別の趣味に目覚めそうだけど…

「そっか…恋愛なんて人生の無駄であり浪費だとか言ってた儚叶が好きな人ができたとはなぁ。今日は赤飯でも炊くか。」

「ちょっと!!大袈裟すぎ」

こんなに他愛のない会話も幼なじみの特権だろう。

「そういえばいま何時?」

儚叶に聞かれ時計を見る。8時25分。

あ…

儚叶と大慌てで登校したものの、間に合うはずもなく「新学期早々遅刻とは何事か」と担任からありがたいお説教を頂戴した。

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世界に忘れられた君と紡ぐ 上田怜 @Seiryu-Rem

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