第30話


 迷いなく歩き続けるアクラリムを先頭に立たせ、俺達は町の中を進んでいく。


「それで、良い感じの棒がありそうな工場ってのに心当たりあるのか?」


「君ときらりんがバトる前に準備の為にきらりん連れて町を回ったじゃん?あの時にアタリを付けておいたんだ」


 以前吉良さんと屋上で戦ってみたあの時か。


「そういえばお前、普通に先頭歩いてるけど戦えんの?」


 危険目視スキルによるアクラリムの危険性は皆無。

 戦闘力は無いと思われるが。


「お前じゃなくてアクラリムちゃんと呼んでいいよ?」


 よ、呼びたくない……。

 一緒に行動してはいるけどいずれ敵になる奴だし。


「あー……、アクラリム」


「この肉体はそこら辺にいる一般人と遜色ない身体能力だから戦闘はあまり期待しないでね。実戦レベルで使えるスキルは『気配感知』と『念話テレパシー』位かな。使える魔法は移動用の『テレポーテーション』と回復用の『リジェネレーション』だけだよ」


 気配感知?

 索敵は出来るということなのだろう。


「レベルは上げないのか?」


「君に入る経験値を少しでも無駄にしたくないからね。後で暇な時に上げとくよ」


「その経験値ってのはパーティだとどういう分配されるんだ?」


「複数人で戦った場合、相手を殺した時に与えたダメージの割合が1番大きいかな。あとは貢献度、バフ掛けてダメージが増えたらその増えた分がバフ掛けた人の手柄になったりするよ」


 相手の生命力を9割削った人と1割削った人が居たら9:1の割合で経験値が入る感じなのか。


「経験値ってのが得体の知れないシステムっぽくてちょっと怖いな」


「分かりやすくするために経験値って言ったけど、正確には存在する為の力とでも言えば良いのかな?聖職者系統は祈りを捧げることで存在力が増えてレベルアップすることもあるよ」


「分かりづらいから経験値で良い。そういえば、テレポーテーションとかいう瞬間移動魔法で一気に工場まで行けば良いんじゃないか?」


「今のボクが1日に使えるテレポーテーションの回数は2回なんだけど、それを使っちゃうと回復魔法の方が使えなくなっちゃうんだ」


 つまり、テレポーテーションで工場までワープしてそこに予想外の強敵が居て再びテレポーテーションで逃げた場合、ダメージを回復する余力が無くなってしまうということか。

 得心が行ったのでおしゃべりはここまでにしておくか。



 危険目視スキルによってあえて手頃なモンスターと戦うようなルートを選びながら3時間ほど歩き、ようやく目当ての工場が見えてきた。

 工場は……赤い。

 恐らくやや強めのモンスターが陣取っているのだろう。


「アクラリム、ちょっと強めのモンスターが居そうだが」


「ボクの気配感知だとあれはオークだね。分厚い脂肪と強靭な筋肉を持つ頑丈なモンスターさ」


「強そうじゃないか?大丈夫か?」


「今のレベルだと物理攻撃じゃすこーし難しいから、きらりんの収納スキルを使った搦手で行こう。君は壁役ね」


「私、ですか?」


「きらりんお得意のローションを床にぶちまけて火炎瓶を投げまくろう」


「ローションが得意みたいに言うのはやめて下さい」


「オークが滑って転んだり火炎瓶で怯んだらキミが首を切りに行く」


 そう言ってアクラリムが俺を指差した。


「投石はどうしますか?」


「オークの頭蓋骨はかなり硬いし身体も頑強だから投石よりも火炎瓶や毒に集中した方がいいね。刺激物を使った催涙弾とかもおすすめだよ」


 頭蓋骨が分厚く、頭部は弱点になり得ないのか。


「きらりんは顔を狙うようにして、君は首の動脈や眼球、脇の下、太腿の内側、股間なんかを狙うといいよ。パワーは向こうの方が上だけど敏捷性は君の方が上だろうね」


「分かった」


「彼が突っ込んだらきらりんは収納スキルでバリケード作ろう。危なくなったらボクが肉の盾になるから安心して」


「あの、アクラリムさんの身体能力は一般人並みなんですよね?大丈夫なんですか?」


「ん、この体は割と不死身に作ってあるからだいじょーぶ」


 こいつ、やっぱり情報を隠してやがったか。

 油断ならない奴だ。


 2人へ向き直り突入の準備が出来ているか確認を取る。


「準備は良いか?」


「よーし、いくぞ野郎どもー!」


「私は野郎じゃないんですが」



 極力音を立てないように歩いて近づいていく。

 入り口に見張りと思しきオークが立っていたので、あえて裏手から敷地内へと侵入する。

 危険目視の固有スキルは相手の索敵範囲も視えるのですんなり工場まで近寄ることができた。

 広い敷地には大きな建物が複数並んでおり、どの建物にもモンスターが潜んでいるようだ。


 1番端の最も危険性が低い建物を選び、危険目視による索敵を行う。

 一階のど真ん中に赤い反応がある。

 隠密スキルによって気配を殺しながら慎重に近づいて行く。


 施設には電気が通っておらず、室内は昼だというのに夜のように暗い。

 相手は割と広い部屋に陣取っており、尚且つ常に正面を警戒しており背後に回り込むのは難しそうだ。

 何かでモンスターの気を逸らす必要がある。


(凛、適当な物を奴の背後に投げてくれ)


 ハンドサインを用いて吉良さんに合図を送り、その時が来るのを待つ。



 カツンという音が響き、モンスターの索敵範囲を示す赤い危険性が翻るのを見た。

 今だ。

 物干し竿に包丁を括り付けた槍を持ち、静かに駆け出した。


「『取出』『取出』『取出』」


 吉良さんが背後でバリケード作り始めるのと同時に、敵対するオークがこちらに向き直った。

 近くで見ると3メートルを超える巨躯に分厚い脂肪とそれを動かすための筋肉が備わり、かなり屈強そうだ。

 オークは大きな棍棒のような物を振りかぶる。


「『フォーカス』」


 吉良さんの声と共に、オークの視線が最初に投げた物へと強制的に誘導される。

 ナイスだ。

 オークの首元を目掛けて槍を突き出す。


 ずぐりと狙い通りのところに命中するも、相手が硬すぎて致命傷には至らなそうだ。

 素早く槍を引き抜き、バックステップで距離を取る。

 オークは首から多少の血を流すも、戦意に衰えは無い。

 流血する首元を乱雑に左手で押さえながら、再度巨大な棍棒を振りかぶる。


「『フォーカス』」


 重ねて吉良さんがフォーカスを唱えるも、オークは左手を用いて顔を動かし、視線を無理矢理俺へと合わせてくる。

 危険目視による赤い予測線から外れるように大きく避け、オークが振るう棍棒から余裕をもって逃れる。

 空振りした相手の右腕に対して槍を突き立てるも、相手の筋肉と脂肪に阻まれ切り傷程度にしかならない。


(やはり急所を狙わねば)


 後方から危険性を意味する赤い予測が放物線を描いて伸びる。

 吉良さんの投擲物だろう。


 敵からなるべく離れるように後ろへと跳躍。

 間を置かず火のついた瓶のような物が宙を舞い、オークの顔面へと当たって内容物をぶち撒けながら砕け散る。

 暗い室内に一瞬で花が咲くように火の手が上がった。


「グオォオオオオ……ッ!!」


 巨大を悶えさせながら驚愕の咆哮をあげるオークへ槍を携えて駆け出す。


(叫び声で他のオークが集まってきたら厄介だな。喉を潰すか)


 上半身が火達磨になりながら燃える体を掻きむしるオークに対し、渾身の力を込めて槍を突き刺す。

 全力で放った切先は狙い通り喉へと刺さり、最初の時より深い傷を生む。


 喉に風穴が空いたオークは叫ぶことが出来なくなり、炎を消そうと倒れ込み地を転がるだけとなった。

 追加で吉良さんが火炎瓶を投げ入れ、オークは全身が炎に包まれる。


 危険目視スキルで建物の外を見るが、建物がやや離れた位置にあったことと室内の奥まった所であったことが重なり、幸い他のオークに気付かれた様子は無い。

 そのままオークが絶命するのを待つことにした。

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