第29話

 

 1日の始まりは元吸血鬼の高らかな鳴き声から始まる。


「今日も今日とて破壊神、アクラリムちゃんだぜー!いえーい!」


 早朝からテンション高いなこいつ。

 前世はニワトリだったのかもしれない。


「今日はどうなされますか?」


 収納スキルで朝ごはんの用意をしてくれている吉良さんがそう聞いてきた。


「そろそろ今の筋力に見合った武器が欲しいな。中が空洞じゃない頑丈な金属の棒とかがあるといいんだけど……。あと、茂呂さんがお勧めしてたミリタリーショップも近いし覗いておきたいな」


「おけおけ、じゃあモンスター狩りながらミリタリショップ行った後に金属加工してる工場でも覗いていこう」


 アクラリムが当然の如く仕切ってくる。

 まあ、こいつの立てる計画はなんやかんやで上手くまとまっているので良いのだが。


 朝食を食べ終えるとすぐにミリタリーショップを目指して出発する。


 危険目視スキルによりあえてモンスターに遭遇するように歩きながら目的地を目指す。

 ゴブリンを複数体倒し、途中コボルトともやり合うが危険領域を読み切り仲間を呼ばれる前に不意打ちで倒し切る。

 まあ群れを呼ばれても今のステータスならばなんとかなるかもしれないが。

 もう少しレベルアップしたらあえて仲間を呼ばせて狩るのも良いかもしれない。


 アクラリムは戦闘中にアドバイスを言ったりはするものの、直接戦闘には参加しない。

 俺と吉良さんの後方で腕組みをしながらうんうん頷いている。


「うんうん、中々じゅんちょーだね」


「そういえばお前って普通に日本語喋ってるけどスキルで自動翻訳とかしてるのか?」


「いや?この世界に来た初日に思考加速スキルを使って主要国の言語はマスターしたよ。相手の言語能力の解析はバトルマニアなら必須だからね」


 このバトルジャンキーは無駄に高スペックだな。


「その割にゴブリン焼いて食おうとしてなかったか?」


「文化や習慣は言語とはまた別だよ。まあボクはこれでも吸血鬼になる前は人間だったから人間のフリは得意なんだぜー?」


 正直アクラリムの内面に関しては人間性の欠片も見当たらないというのが本音だ。


「それなら、普通の人に遭遇したと想定してちょっと人間のフリしてみてくれ」


「了解!みてみて、猫さんがいるよー!可愛いー!」


 猫がいるというアクラリムが指差す方を見てみると、道路の脇に猫の亡骸が横たわっている。


「なるほど、他の人間が居る時は極力喋らない方が良さそうだな」


 アクラリムの正体がバレたら説明が面倒そうだし。

 猫の亡骸は放っておけば後でスライムが寄ってきて分解するのかもしれないが、それでは忍びないので街路樹の土を掘り返して埋めてあげることにした。


 吉良さんと一緒に猫の亡骸を埋めていると、不服そうなアクラリムが口を尖らせながら口を開く。


「むー、それなら形から入ろっかな。和名とか付けちゃう」


「和名?」


「悪鬼羅刹の『悪』、悪鬼羅刹の『羅』、カタカナでリム、悪羅あくらリム!リムって呼んでいいよ!」


「そのまんまじゃねぇか」


 それでいいのか?


「待ってください」


 すかさず物申したげな様子の吉良さんが会話に割り込んでくる。


「どしたのきらりん?」


「リムだと……凛と被りませんか?」


 あまりに真剣なトーンだったので何だろうと思い耳を傾けていたが、どうやら呼び方が腑に落ちないらしい。


「えー、そうかなぁ」


「一刻一秒を争う戦闘の最中、聞き間違いは致命的な隙を生みかねません」


「む……」


 吉良さん、なんだか凄く拘るな。

 結局アクラリムが折れて呼び方はアクラリムのままとなった。



 そんなこんなで目的の雑居ビルへとたどり着く。

 確かミリタリーショップは地下だったか。

 一応周囲の危険性と建物内の危険を調べた後、3人で雑居ビルの中に入っていく。


 ミリタリーショップ内を散策するも、良さそうな物はない。

 至って普通のお店であり、武器になりそうなものなど置いていない。

 場所を間違えたのか武器になるようなものは全て持ってかれた後なのか。


「なんかあまり目ぼしいものは無いな」


「あそこ、怪しくないですか?」


 吉良さんが指差した先を見ると、スタッフ専用の通路の先に「会員限定」と書かれた扉があった。

 確かに怪しい。


 扉を開けてみると更に地下へと続いているようだ。

 階段を降り切った先は展示フロアのようになっており、様々なミリタリー用品が飾ってある。


「これ、どれも本物みたいですね。どこかの国の正規品を横流しして売っているのかもしれません」


 吉良さん曰く本物の軍隊で使われている物らしい。

 流石に銃は置いてなかったが、軍服やヘルメットに始まり驚くことに防弾チョッキや刃引きされていないナイフなども置いてある。

 少しグレーな感じのお店なのだろうか。


「必要な分だけ拝借しようか」


「置きっ放しにしても知能あるモンスターに使われてしまうかもしれませんし、収納スキルで持ち帰ってしまった方が良いかもしれません」


 吉良さんはそう言うと懐から財布を取り出し、札束をレジの所へ置いた。

 背後からひょっこり現れたアクラリムがそれを興味深そうに見ている。


「それお金?お店の人居ないのに真面目だねぇ」


「もはや貨幣の価値なんて無さそうですけどね」


 そう言い残して吉良さんは展示品を収納しに行った。


「次は金属の棒を探しに行くんだよな」


「そだね。でも武器になりそうな物がありそうな所は近くに少し強めのモンスターが出るかもしれないから気を引き締めてね」


「そういえばモンスターってどういう基準で出現したんだ?ここは武器もあるのにモンスター居ないよな」


「モンスターの強さは現地の人間の戦闘力に合わせてあって、数は人間の多さに合わせてある感じかな。召喚される場所は限定されてるけど」


「モンスターが出現する場所って決まってたのか」


「基本的には四つ辻かな。2つの道路が交錯する所に召喚するのが魔術的にも1番コスパが良いんだよ」


 四つ辻というのは十字路のことだろうか。


「モンスターって減ったら増えないのか?」


「いや、モンスターが減ってくると使徒を座標として送られてくるから使徒を殲滅しない限りは居なくなることはないかなー」


「そうなのか。でもお前も使徒なんだろ?」


「モンスターはそれぞれの使徒が属する組織から送られてくるんだけど、ボクのご主人様は人間を狩ることに消極的だからね。ボクをこの世界に送る以上のことはしてこないよ」


 アクラリムの上司ってどんな奴なんだろう。


 ほどなくして吉良さんが戻ってきたのでミリタリーショップを後にして工場を目指す。

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