第28話

閑話休題 吉良凛の日記




 夜の帳が下りました。

 私は夜目が効く訳ではないので、夜になったら大人しくしているしかないのですが、暗くなってからの時間というものは案外と長く、手持ち無沙汰な現状を少しでも紛らわす為に日記を付け始めた次第です。


 日記の書き出しというものは、なかなかかどうして難儀してしまいます。

 徒然なるままに、なんていう書き始めも良いかもしれません。


 さて、記念すべき日記の1ページ目なので、まずは自己紹介から始めようかと思います。

 私は私立友島高等学校の第二学年、吉良凛きらりんと申します。

 周りの人からは何故か「吉良凛」とフルネームで呼ばれることが多いです。

 謎です。

 あの人にだけは「凛」と呼んでいただけるので少し嬉しいのは内緒です。


 学校では文芸部に所属しておりました。

 もっとも、文芸部とは名ばかりで実際はWEB小説やライトノベルなどを嗜んでいます。

 好きなジャンルは異世界転生ものやバトル系のものが好きなのですが、女の子らしくないと思われてしまいそうなので秘密にしています。

 投石器のことなど、異世界に転生した時用にこっそり溜め込んだ知識がそこはかとなく役に立っているような気がします。


 お父様は日本人ですが、お母様は海外からいらしたそうです。

 それ故か髪の色は皆さんよりも少しだけ薄く、亜麻色をしています。

 ですが黒髪は顕性遺伝らしいので、もしかしたら別の要因があるのかもしれません。

 両親は私が物心つく前に他界してしまっているので良く分かりません。


 世界にモンスターが現れた日、私はもしも転生したら欲しい能力ランキングを脳内で作りながら、スーパーでお買い物をしていました。

 突如店内に響き渡ったガラスが割れる音と化物のような声、数多の足音を聴き、普段から異なる世界の夢想に励んでいた私は即座に非常事態であることを理解できました。

 私は商品棚の一部を壁により掛けるように倒して身を隠せる場所作り、手近な人達に声を掛けてそこに隠れていました。

 大量のモンスター達が何処かへ去った後も食料を漁っていたゴブリンを居合わせた方と2人がかりで倒し、立て篭もるか否かを協議している際にあの人が来ました。


 彼は不思議な人でした。

 この世界にいち早く適応していたといいますか、少し不審に思える点がいくつかありました。

 まず、彼と話している人達の反応から察するに、人によって微妙に彼の「見え方」が異なっているようでした。

 私は同い年位の男の子に見えていましたが、真理亞さんには20代位の成人男性に見えていたようですし、佐藤さんという方はもっと年上に見えてそうでした。

 恐らく、その人が親しみを持ちやすい外見に見えているのでは、という疑問を抱き、彼のことを最初は人型のモンスターか何かじゃないかと疑っていました。

 のちにアクラリムさんに聞いた話ですと、彼は世界が自己防衛の為に生み出した存在であり、その時はまだ存在がこの世界に上手く定着していなかったのでは、とのことでした。

 あ、アクラリムさんというのは色々あって今は休戦中の可愛らしい吸血鬼の方です。


 そしてもう一つおかしいと思った点が、彼の名前を上手く認識できないという点です。

 私は記憶力には比較的自信がある方なのですが、彼の名前はメモしておいた記録を見るまで思い出すことができません。

 それでいて名前を覚えられないということに関して、なぜか違和感を持つことができません。

 アクラリムさん曰く、世界が彼の存在を必死で隠そうとしている状態らしいです。

 ですが、当時はそんなことはつゆ程も知らなかった為、なるべく彼と一緒に行動するようにして監視の真似事をしていました。

 今でこそ彼がどういう存在なのかは分かりましたが、それまでは彼のことを訝しんでいました。

 あ、ちなみに私が収納スキルを用いて早着替えをした際、下着姿を見られてしまったことに対してアクラリムさんが「彼の反応を見る為あえて下着姿を晒した」みたいなことを言っていましたが、普通に事故です。

 ですが、普通に事故だとアホな子だと思われてしまいそうなので、アクラリムさんの話に乗ってドヤ顔してました。

 ごめんなさい。


 今では疑いはほぼほぼ晴れましたが、まだ油断はできないので、日夜彼のことを観察しています。

 匂いとかもどうなのかなって思い、後で洗濯するからと預かった彼の衣服を嗅いでみたのですが、意外と良い匂いでした。

 今では寝る前などにこっそりと匂いを嗅いでいます。

 勘違いされては困るのですが、これは彼が人類に仇なす存在でないかを調べているだけですので、一応。

 やましい気持ちはありませんので、一応。


 ……今日はこんなところでしょうか。

 まあこの日記は誰にも見せるつもりはありませんが、自らの考えを文章にするというのは思考の整理に良いかもしれませんね。


 それでは、世界が元通りになることを祈っております。



◇ ◇ ◇



 私は書き終えた日記を誰にも見つからぬよう収納の固有スキルで仕舞うと、ティーセットを取り出してカップへと熱い紅茶を注ぐ。


 勿論、万が一にでも見られてしまうことを考慮して日記に書けないこともあります。


 例えば、両親が亡くなったのちに私を引き取った叔父夫婦は遺産目当てだったらしく、階段から突き落とされそうになったり食事に毒を盛られたりしたこととか。

 おかげで相手の動作の機微から害意を察する技術や自分の感情を隠す技術が磨かれましたが……。


 あとは能力をいくらか隠していることですとか、……ね。



 Lv.18

 名前:キラ リン

 職業:奇術師

 生命力:27/27

 精神力:56/56

 筋力:26

 魔力:57

 敏捷25

 耐久:26(+37)

 抗魔:39

 ◯状態異常

 なし

 ◯魔法

 フォーカス(3)、マジカルシルクハット(2)

 ◯スキル

 苦痛耐性1.3 殺意感知1.7 詐称2.7 読心1.1 手品1.0 平常心1.8 収納技術1.9 交渉術1.3 棒術0.9 鈍器0.7 隠密1.6 投擲2.1 思考加速1.4

 ◯固有スキル

 収納/取出

 レーギャルンの匣

 成長加速

 破滅願望

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