第04話 名匠は隠遁奇抜なり



 マレンドラの紹介でリュッグとシャルーアが訪れたのは、随分と込み入った場所で隠れるように存在していた小さな鍛冶場だった。





「ほーほーほー、注文はこのめんこい嬢ちゃんの…それはそれは」

 そこにいたのはこの鍛冶場の主たる職人ただ一人。マレンドラが紹介するくらいだ、腕は確かなのだろう。

 しかし、リュッグは改めてその男の風貌を確認した。



 小柄。生まれつきなのか後天的なのかは分からないが、不自然に小柄な男性。しかも鍛冶職人というよりは、どこかの学院の教授とか学問研究者などにいそうな感じだ。


 頭頂部と前はハゲており、色抜けた白髪は上から見てUの字にモサモサと生えている。

 小さな丸メガネを鼻にかけ、その鼻も不自然に高くとんがっている。


 全体的なフォルムは卵…そう、巨大な卵に手足が生えてるかのよう。

 男がマルサマと名乗ったものだから、その語感から余計に卵っぽく思えた。



 そのマルサマ、椅子を用意してシャルーアに座らせる。そして彼女の前に台を持ってきてその上へと登り、向き合った。



 そして、眼鏡のズレを直したかと思いきや―――――


 ズムニュウゥゥ…


「うっほほぉ♪ ええ乳しとるのーお嬢ちゃん。ワシの腕がすっかり喰われてしもうた。これはFかの? Gかの? 若い身空でええモン持っておるわ♪♪」

「お、おい爺さん!」

「………?」

 反射的に声を発したのはリュッグのみ。


 両乳房の肉がひしめき合っているところを押され、その谷間に片腕を入れられてる当のシャルーアはまったくの無反応。

 それどころか、何か意味があるのだろうか? といった無知なる子供の興味にも似た感情すら滲んでいる。



「(むぅ、このお嬢ちゃんは……)……反応が淡泊でつまらんの~う。もっとこう、いやーんとか、エッチぃ~、とか言うのを期待したんじゃが、まぁええわい」

 マルサマは即座に理解した。女癖の悪さを知っているマレンドラが、若い娘を自分に紹介するなどここ20年は覚えがない。


 表面上ではおどけてふざけてるかのように装いつつ、心の中では知己が、自分の元へ彼女を寄越した理由をしかと察していた。


若いの・・・、そう怒るでない。心配せずとも別に乳を触りたいだけでこんな事しとるんじゃないわい。必要な事なんじゃよ、このお嬢ちゃんの武器を作る・・・・・・ためにな」

 豊かな胸に挟まれたままで見えないが、マルサマの右手はシャルーアの左右の乳房それぞれの付け根の間ほどの――――彼女の胴体の真芯とも言えるところにその手のひらを押し付けていた。


 己の腕を、揺れうごめく両の乳房がひしめき合いながら揉んでくる感触を楽しんでいたくなる気持ちを堪え、彼は至極真剣な表情でブツブツと何事か呟き始めた。


「……aa………naaa…siii…laaa…」

 それは神詞ノリト。異国の失われし超古代に存在した祈りの文言。

 はるか昔に謎の異邦人よりもたらされ、ごく少数の人間の間でのみ伝承され続けている秘中秘伝、そのほんの一端。


 文化も言語も異なるソレは、リュッグやシャルーアからすれば呪詛の類のようにしか聞こえない。

 実際、マルサマにしてもその文言の意を理解しているわけではない。秘術を扱うための呪文という解釈で、師より伝承されたこの文言を用いているだけに過ぎなかった。


「…ser si ya ral ssi aaa hii laa ri ha ya si aaaaaaaa~……」

 1分近く唱えた頃、不意にシャルーアの胸が輝きだした。正確にはマルサマが触れている場所に光の円陣が浮かんで赤く輝いている。


「??? これはなんなのでしょうか…文字のようなものが?」

 さすがに不安になったのか、シャルーアがマルサマに問いかける。だが真剣な表情のまま、彼は自身が触れている箇所を注視して答えず、文言を唱え続けている。


 光の円陣は徐々に大きさを増し、やがてシャルーアの胸元全体を覆い、脇にまでかかりはじめた。


 3重か4重かの円。


 中には区切りがあり、それぞれの箇所に文字とも記号とも取れる見た事のない字体が1文字ずつ入って、円の最中心に向かうように並んでいる。


「……olooaaa shaa raaa maa shiaaaa~…………トォトゥカ!!!」


 ズズズズズズズズズ………


 ひと際大きな掛け声と共に、マルサマは自分の右手を強く押した。そして直後、触れていたシャルーアの胸元より離しはじめる。ゆっくりと、少しずつ引かれてゆく右腕。


 マルサマの右手のひらが彼女の乳房より抜け離れたところで、ソレ・・は二人にも見えはじめた。


「な、なんだ??! 赤い棒……いや、…剣っ??」

 リュッグは思わずシャルーアの胸の谷間を覗き込む。


 そこには赤き輝きの光円陣の中心より、まるで彼女の体内から引き抜かれるように、マルサマの離れていく手のひらに向かって同じ色の輝きをもった棒状のモノが伸びていた。



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