第15.5話(番外編)委員長が委員長になるまで

 私、羽川美鈴はねかわみうは、とても小心者だった。誰かの役に立つことはすごく好きだ。だが、幼い頃から、目立つのが苦手で、

 どうも今まで何か役割や、リーダーを任されそうになると、緊張して、断ってしまうところがある。だからこそ、私は、高校に入学するのをきっかけに、そんな性格から、

 変わりたいと思っていた。

 今日は、いよいよ、入学式だ。


 ♢ ♢ ♢


『えー、今日から、俺が、みんなの担任になる

 ことになった五十嵐だ、みんなよろしく頼むぞー』


『はーい!!』


「で、早速なんだが……まずは、クラスの係を決めたい。まずは、立候補でなりたい人から手をあげてくれ」


 ーー係は、順当に決まっていった。

 しかし、ひとつだけ、立候補がでないものがあった。


「えーっと……後は学級委員長なんだが……誰か、なりたい奴はいるか?」


 ……ここだ。ここで、手を挙げないと、私は、

 変わるって決めたんだ。

 だけど……


(出来なかったらどうしよう……もし、委員長として、みんなを引っ張っていけなかったら? こんな頼りない委員長嫌だとか思われたら?)


 頭の中で、嫌な声があがる。

 私には無理だと。


「うーむ、誰もいないみたいだな……どうせなら先生は、立候補して欲しい。じゃあみんな明日までにもう一度、考えておいてくれ! 明日、放課後また決めよう!」



 ♢ ♢ ♢


「美鈴ー? そろそろ行かないと、

 学校に遅れるわよー」


「ハンカチとティッシュも持った?」


「うん」


「じゃあ、気をつけて、いってらっしゃい」


「はーい、いってきます」


 バタン。


(はぁ……昨日は、結局、手、挙げれなかったなぁ……高校に行ったら変わろうと思っていたけれど、私にはやっぱり無理なのかなぁ)


 なんだか、朝から気分が上がらないなぁ。

 私にも少し勇気が出せたら良いのだけれど。

 ダメだわ。気合を入れ直さないと。

 私は、ポケットから髪飾りを探す。

 あった……、この髪飾りは、亡くなったお婆ちゃんから貰った大切なもの。

 これを付けると、少しお婆ちゃんから

 勇気がもらえる気がするの。

 今日は、朝急いでいて、出かける前に付けれなかったので、大切にポケットに入れておいた。

 良かった。ちゃんと、髪飾りを持って来てる。


 しかし、その時だった。


『ニャー!!!』


「キャッ!」


 びっくりした……。何今の……?

 上を見上げると、塀の上に野良猫がいる。

 もしかして今のは……この子?


 突然の出来事に驚いたが、野良猫と知って、安堵する。よく見ると可愛らしい。


 だが……。


「あれ……ない!」


 髪飾りが……ない!

 驚いた時に、落としてしまったのだろうか。


「た、たいへん!! あれは大事なものだから……絶対見つけないと……!!!」


 一体、どこへ落としてしまったのだろうか。


『ニャー!!』


「あ……猫が私の髪飾りを咥えてる!!」


「ね、猫ちゃーん、それは私のものだから返してくれないかしら……?」


 勿論、言葉など伝わるはずがないのだが……。

 とりあえず、問いかけてみる。

 しかし……。


 シュタタタッ。


「あ! ちょっと待って!!」


 私の願いも虚しく、猫は、塀の上からさらに

 大きな木の上へと登っていってしまった。


「猫ちゃーん! 返してー!! それは大切なものなのー!」


 しかし、野良猫が降りてくる気配は一切ない。


 ど、どうしよう……。

 最悪だ……どうして私ってこんなにダメなんだろう……。勇気もないし、おまけに髪飾りまでとられてしまった。……でも、この髪飾りだけは、絶対に取り返したい。どうしても。

 これは、お婆ちゃんに貰った、この世に一つしかない大切なものだから。


 私は、勇気を振り絞って大きな木に登った。


「う……滑って上手く登れない……なんとしてでも……これだけは……キャッ!」


 ドテン。


「いたた……も、もう一度……っていたっ……」


 ズキンッ。

 どうやら、膝を擦りむいてしまったようだ……。それに、そろそろ行かないと遅刻してしまう。でも、この髪飾りだけは、遅刻してでも……!


「も……もう一回」


 再び手をかけようとした、途端。


「なにしてるの?」


「え?」


 振り向くと、制服を着崩した、

 サラリと綺麗な髪をした女の子がいた。

 あれ……? 私、この子を知ってる。

 入学式の時から、不良だー!って騒がれてた女の子だ……。すごく可愛い容姿をしている。

 けど、噂通りなら、もしかして、私……! 

 これから、何かされてしまう!?


「い、いのちだけはお助けを!!」


「ん……命? あたしは、ただ、気になっただけだよ? それよりも、なんで木に登ろうとしてるんだ?」


「え……っと。猫に、髪飾りを取られてしまって……。ほら、あそこの猫」


「あーあの猫か……。じゃ、あたしがとったげる」


「え?」


 そう言うと、女の子は、スルスルと木に登り始めた。


「え……! どうして……?」


「ん? だって、困ってるんでしょ?」


「う、うん……それはそうだけど、もうこんな時間だし、あなたまで遅刻しちゃうよ……?」


「あたしは良いよ。それよりも、困ってる人を見捨てる方が、あたしは嫌かな」


(……どうして、こんな、見ず知らずの私のために、この人は動けるの……?)


「よいしょっと……よし、とれた!」


 ーーそれから、女の子は、木から降りると、

 私に髪飾りを渡してくれた。


「あ、ありがとう……」


「うん、良かった」


「あ! いけない……それよりも、もう間に合わない……」


「走ればまだ、間に合うかも、いこ!」


 ダダダッ。


 私は、女の子の手に引っ張られながら、

 走った。久しぶりに、走った。

 女の子は、ずっと前を向いていて……。

その姿は、私の憧れているような……姿に見えた。


「はぁ、はぁ、ねぇ、どうして助けてくれたの?」


「んー、その髪飾り大切なものなんでしょ?」


「う、うん。どうしてわかったの?」


「だってさ……今、凄い嬉しそうだから。その顔が見れただけで、あたしは、助けて良かったと思うよ」


「……!」


女の子は、少し口角を上げて、笑っていた。


(私も、頑張りたい……いつか、この子みたいに、誰かを助けられる人に)



 ♢ ♢ ♢



『えーっと……じゃあ、学級委員なんだが……やっぱり、立候補者はいない……か?』


『……』


『そうか……うーん、どうしたものか……』


「……は、はい!」


「お……? 君は、羽川さんじゃないか! よく立候補してくれた! 先生も全力でサポートするからな!」


「みなさん、頑張りますのでよろしくお願いします!」


 パチパチパチ。


 クラスメイトから拍手があがる。


 正直、自信はあまりない。

今の私に、出来るかどうかは、わからない。

 けれど、これで一歩、進めた気がする。


 いつか、あの子のように。

人を助けることのできる立派な委員長に絶対なれるように。頑張るんだ。私。

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