第16話 不良美少女の悩み?

 色々とあった体育祭も終わり、やっと、

いつもの日々が帰ってきた。

 一段落ついた後だが、

 日差しは、まだ

 僕らを容赦なく照りつけている。

 夏はまだ始まったばかりだ。


「はぁーやっぱり図書館はクーラーがついてて気持ちいいですね」


「……」


 ……返答がない。


「花さん? ペンが止まってますよ?」


「あ、ああ……」


 何かさっきから花さんの様子がおかしい。

 先ほどから、ペンが動き出しては止まり。動き出しては、止まりを繰り返している。

 何か考え事をしているような、

 なんだか落ち着かないような、

 そんな感じだ。

 いつもの花さんであれば、こんな様子を見せたことはないのだが……。

 もしかして、バイトで疲れているとか……。

 そうであれば、心配だ。心配して、声をかける。


「花さん? 何かボーッとしてますけど、

 もしかして、体調悪いですか? それなら今日は休んだほうが」


「……あー、いや体調は問題ない、心配してくれてありがとな」


「そうですか……、まぁ何かあったら気軽に言ってくださいね」


「あぁ、助かるよ」


 良かった。とりあえず、体調が

 悪いわけではなそうだ。

 でも、それだったら一体……。

 その後、10分くらい経った後だろうか、

 今度は、花さんの方から口を開いた。


「……あー、昴、

 少し相談があるんだが、いいか?」


「相談ですか……?

 はい、全然大丈夫ですけど」


「実はな……妹に頼まれたことがあってな」


「花さん、妹いたんですか?」


「あー、そういえば言ってなかったな

 今年で7歳になる妹なんだが」


 花さんの妹かぁ。花さん似なら妹も

 凄く可愛い顔をしてるんだろうな。

 美人姉妹という言葉が相応しそうだ。

 まだ、イメージでしかないが。


「それで、妹が料理をしたいらしく、あたしに教えてくれと頼んできてな……」


「なるほど、料理ですか」


「あたしも妹の力になりたいんだが、

 ここに一つ重大な問題があってな……その……」


 重大な問題? 花さんだったら何でも乗り切ってしまいそうな感じではあるが。


「その……あたし、料理が全くできないんだ」


 ふにゃーと力の抜けた猫のように

 机に顔ごと投げ出し、項垂れている花さん。

 なんだか今日はとてもしおらしい。

 そんな花さんを見て、

 思わず僕は、笑ってしまった。


「ぷっ」


「な、なんだ! あたしが料理できないことをからかってるのか!?」


 頬が赤く染まり、少し、身体を近づけ、

僕に詰め寄ってくる。

 だが、その姿には、いつものような覇気は

 なく、どこか恥ずかしげである。


「すみません花さん。いや、いつも余裕があって頼りになる花さんにも苦手なものがあるのかと思ったら、なんだか面白くて」


「か、からかってるな昴……」


 ゴゴゴゴゴ。


 まずい、いつもの感じに戻ってきた!


「ちょ、すみませんって! 悪気はないですから!!」


「そうか……」


 今度は、少し、いじけている。

 ほんとに今日は色々な花さんが見えて、

 なんだか楽しいな。


「あの、良かったら僕が料理教えましょうか?」


「ほ、本当か!?」


 目をキラキラと輝かせている。

 本当に困っていたのだろう。

 ここまで、花さんを悩ませるとは、花さんの妹は別の意味で恐ろしいのかも

知れないな。


「あ、でもどこでしましょうか、校内で借りられるところありましたっけ」


「あーそうだな、一つ心当たりがある」



♢♢♢



「ここは……? 家庭科室ですか?

でも、ここは確か料理部が使ってませんでしたっけ?」


「うん。でも、休日の活動は休みらしくてさ、もしかしたら借りられないかと思って」


なるほど。それで、料理部の人に

頼みにきたんだ。


「借りられるか不安なんだけどな、

とりあえず頼むだけ頼んでみる」


「いや花さんなら多分……」


ガラガラガラ。


「あのー、料理部の部長さんって今いる感じ

かな?」


『か、神崎様!!?』


「へ、神崎様? あたしのこと?」


花さんは驚いているが、僕は特別、

驚かなかった。

体育祭で、花さんの注目度はさらに高まり、先輩も後輩も同級生も関係なく、

至る所で神崎様と呼ばれていると

噂で聞いていたのだ。


(やっぱり、噂は本当だったんだ)


『ぶ、ぶ、部長は私でございますが……』


「あー部長さんどうも。あの、

休日にこの家庭科室を貸してもらえないっすかね」


『も、も、もちろんですとも!!!皆もいいですわよね!?』


『もちろんですとも!!』


完璧に料理部全員の声が揃う。

その姿はまるで、

集団行動の大会で優勝したチーム並である。


謎の団結力をしめした料理部に

お礼を言ってから

扉を閉める。


「……じゃ、失礼しまーす」



ガラガラガラガラ。


「……思ったより、あっさり借してくれたな」


「まぁ、花さんですから」


「? まぁ、よくわからないが、昴

休日はよろしく頼む」


「はい、任せてください!」


こうして、花さんと僕は、休日の学校で

料理をすることが決まった。

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