第17話 不良美少女と料理

 ──家庭科室。かなり設備が整っており、料理をするには快適な場所である。

 そして、空間に二人きり。

 二人でいることは、いつものことといえば

 いつものことだが、今回は、家庭科室ということもあり、いつもとは、少し

 違った雰囲気である。

 だが、それは二人でドキドキ……と言うわけではなく、花さんの様子が違うことにあった。


 プルプルと包丁握りしめ、

 膝を小刻みに揺らし、震えている花さん。


「……あの……そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ」


「そ、そうか……」


 そう言いつつも、

 まだ、緊張している様子だった。

 今日の花さんは、可愛らしい猫の柄の

 エプロンを見に纏っていて、

 家庭的と言った感じに、ほんわかとした

 雰囲気が漂っている。


「見た目は、完璧なんだけどなぁ……」


「ん? なんか言ったか?」


「い、いえ……」


 まずい、ついつい本音が出てしまった。


「じゃあ、とりあえず今日はカレーを作りましょう! 材料もオーソドックスに、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンを使いましょう!」


「わかった。で、まずは、この食材を洗剤で洗うんだな?」


 二人の間に静寂が生まれ、シーンとなる。


「もう、花さんも冗談言う時があるんですね、洗うわけないじゃないですか」


 全く、花さんも面白いなぁ。

 いくら料理ができないと言ってもそれくらいは流石に……。


 チラッと花さんの様子を伺う。


「そ、そうだよな!!」


 自信満々に高らかに言う花さん。

 だが、その目は、明らかに泳いでいるように見えるが……

 まさか……な。

 き、気を取り直してと。


「まず、ジャガイモから切ってみましょうか」


「……切る……ジャガイモを」


 キラン。


 ライトに照らされた包丁の刃とともに、

 花さんの目も光る。


 プルプルプルと持っている包丁が震え始める。その様子から、徐々に徐々に、包丁を持つ手に、力が込められていくのがわかる。

 そのせいで、包丁は焦点が定まらない。


「よ、よしいくぞ……!!」


 声も気のせいか、震えている。


「ちょっとちょっとストーッッッッップ!!」


 思わず、レフィリーストップをかけた。


「そんなに力込めなくても食材は切れますから! 落ち着いてください!!」


「……そうなのか?」


 初めて宇宙人でも見たかのような、

 キョトンとした顔で、聞いてくる。


「はい、まず、包丁の持ち方は、脇を閉めて、

 中指を包丁の後ろに掛けて…、人差し指と親指で刃がブレないように刃を固定します。後は、力で切るというよりも、野菜は基本的には、押して切るという感じをイメージしてください」


「なるほど、力は入れなくてもいいのか……」


「はい、左手は、手を切らないように猫の手で……」


「こ、こんな感じか?」


片手で猫の手をしながら、僕の方に見せてくる。エプロン姿と相待って、とても可愛らしい。


「は、はい、そんな感じです」


 ──冷静を装うが、不意を疲れて、

少し動揺してしまった。


それからも何度か練習したのだが、

 最初は、見ていて危なっかしいと言う感じだったが、しかし、少しずつではあるが、

手を切りそうだとか危ない!

というところは徐々に無くなってきた。

一安心だ。

 具材は……

 少々、不格好に大きめに切れている気もするが、まぁ、怪我をしないだけ良かった。


「じゃあ、後は煮込んで、出来るまで待ちましょう」



 ♢♢♢



「おぉ〜」


 二人同時に声が上がる。

 美味しそうな匂いが鼻いっぱいに広がる。


 パクッ


「うん、美味しいですよ!」


「あぁ、とても美味しい」


 具材の大きさは、少々バラつきがあるが、

 それもまた、手作り感がでていて

 これもこれで良いのではないかと思う。

 実際美味しいし。


「……ありがとう昴、今日は

 本当に助かったよ」


「へ?……そうですか」


 なんだか改まって、感謝を述べられると

 なんだか照れくさいな……。


「これで、妹さんにも教えてあげられますね」


「うん。まぁまだ不安なところはあるけど家でも練習してみることにするよ」


「くれぐれも怪我はしないようにしてくださいね?」


「あぁ、肝に銘じておく」



 ♢♢♢



 そのまま、カレーをペロリと

 食べ終わると、

 後片付けを済ませた後、放課後の

 下駄箱へと向かった。

 すると……


「あら、神崎さんに、宮本くんまで……

 今日は休日なのに何をしてたのかしら?」


「昴に料理を教えてもらってたんだ」


「へぇ……宮本くん料理もできるのね……、優しい旦那さんになりそうだわ」


「いえ、そんな大したことじゃ……」


「何でも特技があることは素晴らしいことよ、もっと自信を持っていいんじゃないかしら」


「そうだぞ、昴」


 花さんが、珍しく、腰に手を当て、

 えっへんというポーズをとっている。


「なんで、神崎さんが少し得意げなのかしら。それに……神崎さん!! あなた、また制服が乱れてるわ!!」


 ビシッと、花さんの指を突きつける。


「羽川ちゃん、人に指差すのはいけないことだぞ」


「ごめんなさい……ってなんで私が謝ってるのよ!!」


「まぁまぁ。そういえば、羽川ちゃんはなんで学校に来てるんだ?」


「私は、学級委員の仕事があったから……

 学級委員長である限り、私はみんなの模範になるように目指しているの!!」


 休みの日まで、凄いなぁ、羽川先輩は。


「羽川ちゃん凄いなぁ、じゃあ、

 料理とかもできるのか?」


「り、料理……ですって!?」


「あ、あぁ、どうした?」


「も、も、も、も、勿論よ! 私は、学級委員長だからね! そ、それじゃ仕事があるから私はそろそろ行くわね!!」


「凄い勢いで去っていったな……」


「何か急ぎの用事だったんですかね?」



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「ふぅ……料理ができないこと

 バレなくてよかったわ!」

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