第15話 ついに体育祭 後半

『さぁ! 最終戦は、女だらけの騎馬戦!!

 注目は勿論、この人!! 学校内最強の女の子と噂されている!! 神崎花だあああああ!!』


「……あたし、ただの乙女なんですけど」


『さぁ始めましょう!! ……って、えっ、神崎花さん怒ってる顔してるって……? まずい俺、殺されるんじゃ……』


『おーい、実況どうしたー! 早く始めろよー!!』


応援席から、野次が上がりだす。


『あ、後でしっかり謝っておこう……。は、はい、お待たせしました!! ルールは、簡単!! 相手の頭に巻かれている鉢巻きを取ったら勝ち!! それでは、騎馬戦スタートです!!』


 ──ついに始まった。

 騎馬戦。あのヤンキー達とのやり取りを思い出す。あの実力なら、普通の喧嘩じゃ負けないかもしれないが……。これは、喧嘩ではない。騎馬戦である。


「あー、下の子達だいじょぶ? あたし重くない?」


『は、はい! 滅相もございません!! 神崎さんの為に全力を尽くさせていただきます!!』


「……凄いやる気だね、あたしも頑張んないとねー。てかさ、ぜんっぜん人寄ってこないんだけど」


『そ、それは神崎さんが怖いか……いえ! 謎の威圧感に圧倒されているのであります!!』


「なんかよくわかんないけど、そっか。

じゃあ、こっちから行こうー、よし出陣ー!!」


『はい!!』


「花さん大丈夫かな……あ、動き始めた」


『ついにゆっくりと動き始めました! 神崎花!! お、おっとおおおおお!!

凄い身のこなしで次々に相手の鉢巻きを奪っていきます!! それに謎の威圧感が、神崎花を覆っている!!』



『(神崎さんを負けさせたら殺されてしまいます! みんなで頑張って神崎さんを支えましょう)』


『(はい!)』



 ……とか、思ってそうだなぁ。

あれは、威圧感というか、なんというか

 下の支えている馬役の人たちは、花さんに怯えて、頑張ってるんだろうなぁ。

 花さんは、周りが想像するほど、そんなに怖い人ではないんだけれど、

まぁ今回に関しては、結果オーライと言うことで……。


 それにしても……。


「よっと、ごめんねー」


 次々に鉢巻を奪っていく花さん。

 その身のこなしは、花さん自身は、普通にやっているだけなのだろうが、

 見てる側には、明らかな運動神経の良さと、その美しさが相まって、まるで、何かの一つの演舞を見ているかのようである。


「花さんは、やっぱり凄い……!!」


 見ているだけなのに、何故か、自分のことのように嬉しくなる。


『神崎花恐るべし!! 赤組このまま決めるか!? いや、おっと……なぜか赤組の残っている馬も少ないぞ!? 一体、あれは誰の仕業だああああああ!?』


「ん……? 花さんの凄さに目を奪われていたけれど、花さん率いる、赤組の馬も減っている。それに、白組にも、凄い圧を発している人がいるような……ってなんかあの人見たことあるな」


 花さんに見惚れていた視線を圧のする方

へと変え、目をゴシゴシと擦って、もう一度確認

する。


「あれは……羽川先輩!?」


『おっとおおおお!! あれは、学級委員長の羽川美玲だああああああ!!

 通称、学年のお母さんという異名を持つ学校全体の委員長と呼ばれても過言ではない女の子です!!』


「誰がお母さんよ!!」


『し、失礼しました!! 羽川委員長!!

 赤組をバッタバッタと倒していきます!』


 羽川先輩も結構、運動神経良かったんだな。

 さて、これは、どっちが勝つか分からなくなったぞ。

 というか……僕は、花さんと羽川先輩

どちらを応援すればいいんだ? 委員長にもお世話になってるし……。


「神崎さんあなたには負けないわ! 赤組!!気合を入れなさい!! 委員長の、私がついているわ!! 神崎さんをぶっ倒すわよー!!」


『『はい!!』』


 そんな、委員長の気迫が伝わったのか

 どうかはわからないが、羽川先輩を筆頭にして、さらに、赤組の鉢巻をあっという間に、奪っていく。そして、ついに残すは花さんの馬だけになった。


「ふっふっふ。追い詰めたわよ!! 神崎さん!! 気付けば、4対1の状況!!

 この状況で、何ができるのかしら?」


「ずるいなー羽川ちゃん」


「ずるっ!? う、うるさいわね!! 勝てばいいのよ! 勝てば!! そして、私が勝ったら貴方には、きちんとした制服の着方をしてもらうわ!!」


腕を組んで、これでもかというほど、

背筋を伸ばしている。

 なるほど、委員長がやる気に満ち溢れてる

 のはその為か。


『さぁ、追い詰められた赤組!! そして、神崎花!! さて、ここで応援席の方に一言聞いてみましょう、えっと、誰にしようかな! はい! そこの君!」


 マイクが、僕にサッと向けられる。

 まさかの僕!?

 どうしよう。どっちを応援しよう。


「え、えっと……花さん頑張ってくださーい!!! あとついでに羽川先輩も!!」


「どうして私はついでなのよ!!」


 ワッハッハ。会場に笑いが起こる。


「昴の応援、しっかり聞こえたぞ……」


 花さんの目つきが少し変わったような

気がした。


「ふん!! まぁいいわ!! この状況でどう勝つつもりかしら!」


 委員長がそう言ったと同時に、

 委員長を含めた4騎が花さんを取り囲む。

 これはまずい、完全に数的優位だ。

 てか……ちょっと卑怯な気もするが

 それは、気のせいだろうか。

 まぁ、気のせいということにしておこう。

 それにしても、こんな状況になっても花さんには余裕が見られた。


「あー、囲まれちゃった。どうしよー(棒)」


「な、なによその棒読みは!?

 まぁいいわ! いくわよ! みんな!!」


 その掛け声とともに一斉に、

 花さんに突撃する。


「よし、取れる……」


 羽川先輩の手が花さんの鉢巻に

 もう10cmといったところで、

 花さんが、少し笑った気がした。


 パシッ!!

 花さんの鉢巻がとられる。


「やった! とったわ! 私達の勝ちね!!」


 そう言うのは、羽川先輩だった。


(んー、流石に、花さん負けちゃったか……)


『優勝は、白組いいいいいいい!!……いや、ちょっとお待ちください!』


 なんでだ?

と、会場もザワザワとした声に包まれる。

同時に、お、おいあれ……?

と言う声も聞こえる。


「な、なによ、私たちの勝ちじゃない!!

 って……え……。私たちの鉢巻が……

ない!!?」


 ──そう。何故か、羽川先輩率いる白組の鉢巻いつの間にか無くなっていたのである。

 さらに、その鉢巻はいつの間にか、

 花さんの手の中にあった。


 (一体何が起こったんだ!?)


『ス、スローでみてみましょう!!こ、これは……!?』


 映像が映し出されると、そこには、花さんの鉢巻が取られるよりも先に、

 視線を一切逸らさず、花さんが鉢巻を

 白組から奪っていく姿があった。


「ま、まさか! ノールックで!?」


 あの僅かな時間に、花さんは、

自身の鉢巻がとられるまでの間を利用、

 4騎全ての位置を把握し、

 先に奪っていたのだ。

恐るべし、動体視力と身のこなしである。


『ゆ、優勝は赤組だああああああ!!!!』


 ワアアアアアアアアアア!!

 赤組は大いに盛り上がった。

 その中には、悔しがる羽川先輩と

元気にハイタッチする花さんと

 僕の姿もあった。

 こうして、体育祭は赤組の勝利という

 結果で幕を閉じたのである。


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