第23話 不良美少女の妹(前編)

「いやー、今日も沢山、勉強しましたねー」


「あぁ、いつもありがとな」


「いえいえ、僕も勉強になりますし……」


 ーー放課後、勉強を終えたあと、いつもの帰り道を雑談しながらゆっくりと歩く。既に辺りは、徐々に暗くなり始めている。

 目の前にある公園にいる子供達も、遊ぶのをやめて、帰りの準備を始めている。


(ここの公園懐かしいな……。

 そういえば、昔、活発だった頃は、

 僕も良く外で遊んでいたな……)


 公園から帰る子供達を見ながら、少し昔のことを思い出す。すると、その中の一人の女の子が、僕らの姿を見つけると、こちらへ走って向かってくる。一体、どうしたのだろうか。


「あ、やっぱりおねえちゃんだ!! それに、男の人と一緒にいる!!」


才花さいか!?」


 知り合い……? いや……というか、少し花さんに似てるような……?

 僕は花さんに問いかける。


「花さん、この子はもしかして……」


「あー、前に少し話した、あたしの妹だ」


 僕は、以前、花さんに料理を教えていた時のことを思い出す。

 そうか、この子が妹さんか。どうりで花さんに少し似ているわけだ。才花ちゃんをみていると、花さんの幼少期も、こんな感じだったのではないかと、想像させる。


「ねえねえ! おにいちゃんは、おねえちゃんのかれしってやつなの!?」


「えっ!?」


 ボーッと考えていると、

 唐突に、とんでもないことを聞かれたので

 思わず、情けない声があがる。


「こ、こら、才花! ほら、まず、良い子はちゃんと挨拶する!」


「そうだった! こんにちは、おにいちゃん!」


「あはは……僕は彼氏じゃないよ。こんにちは、才花ちゃん」


 少し、圧倒されながらも、僕も挨拶を返す。

 とても元気そうな妹さんだ。


「えー! ざんねん! おにいちゃんが、かれしだったら才花もあんしんなのに!!」


「へ、変なこと聞かないの! それに、お姉ちゃんの心配する前に、才花は、自分の心配しなさい……もう帰る時間だぞ?」


「はーい!」


 才花ちゃんの頭を撫でながら、そう、

 言い聞かせる花さん。

 仲が良いんだな……。二人のやりとりを見ているとなんだか微笑ましく感じる。


「才花、この前話したと思うけど……この、おにいちゃんが、カレーの作り方を教えてくれたんだ」


「え! そうなのー!? おにいちゃんすごいんだねー!!」


「そうかな……?」


 純粋なその言葉は、単純に嬉しかった。

 今まで、料理ができると言うことで褒められたことは、あまりなかった。

 ただ、それが人の役に立っている。

 その事実は、とても嬉しかった。


「ねー、おねえちゃん! 才花、おにいちゃんと少し遊びたい!!」


「いやお兄ちゃんは、勉強で疲れてるから……」


「あ、いえ、大丈夫ですよ? 才花ちゃん、何して遊ぶ?」


「やったー!! あそこのすべりだいで、いっしょにあそぼー!!!」


「うん、良いよー」


 そういうと、隣でヒソヒソと花さんが耳打ちしてくる。


「昴、本当に良いのか? 無理しなくても良いんだぞ?」


「いえ……僕でよければ全然遊び相手くらいなりますよ、才花ちゃん嬉しそうだし……」


「そうか……恩に切る。じゃあ、あたしはちょっと、母親に遅くなるって連絡してくる」


「はい」


 ♢ ♢ ♢


 僕と才花ちゃんは、二人で滑り台の

 頂上に登っていた。

 小さい頃は、大きく見えた滑り台だが、

 改めて見てみると、凄く小さく感じる。

 というよりも、とても狭い。


「ねー! ねー! おにいちゃんは、本当におねえちゃんのかれしじゃないの?」


 才花ちゃんは、滑り台の頂上に着くと、

 疑問を投げかけてくる。


「う、うん。彼氏じゃないよ、というか彼氏だなんて言葉、良く知ってるね?」


「うーん、なんかてれびでみたの! なかいいひとどうしのことをいうんだよね!! でも、そうなんだーざんねん……だってさいきんのおねえちゃん、今までよりもたのしそうなんだ!」


「え、花さんが?」


「うん! それに、だいたいうれしそーなときはがっこうのはなししてるし……おにいちゃんのことじゃないかなー!」


「そうなんだ……でもそれ、本当に僕なのかな……?」


「うん! さいかはひとをみるめ? が、あるんだよー!? おにいちゃんとさっきはなしてるおねえちゃん、すごくたのしそうだったもん!」


「そっか……」


 意外だ……。それが、本当ならば、なんだか恥ずかし嬉しいというか……味わったことのない、不思議な感覚だ。


「悪いな、二人とも、待たせた!」


 その気持ちに浸っていると、遅れて花さんが到着した。どうやら、母親への連絡が終わったらしい。


「もー! おねえちゃんおそいよー!!」


「悪い悪い……」


「あ、ねー! おねえちゃんたち、すべりだいすべったことある?」


「そりゃあるぞ」


「うんあるけど……」


「せっかくだから、すべろー!!」


「わかった、じゃあ、あたしと昴はここで見てるから……」


「うん、見てるから滑っておいで!」


 ここは、僕らからすれば、一人ずつくらいしか通れないくらい結構狭いが、才花ちゃんなら大丈夫、広く感じるだろう。僕らは、下に降りて、滑ってくるのをみておくことにしよう。

 しかし、才花ちゃんは、言った。


「ちがうちがう! 才花じゃなくて! 二人で一緒に、滑って欲しいの!!」


「「え?」」



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