第38話 出来ること

 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「ここか……」


 ──僕ら3人は、身をひそめながら、

 倉庫の裏口の窓から、あたりを観察していた。

 1人や2人ではなく、

 集団で、喧嘩をしている姿が見えた。

 もしかしなくても、この中に花さんが……。


 僕は、一度あたりを見回す。


 グループはおそらく二つに分かれている。

 状況から察するに、花さんのグループと、犬飼のグループだろう。

 黒服の男達は、花さんを襲おうと向かっているが、

 それを赤服の男達が食い止めている。

 花さんと一緒に戦っているこの赤服の人たちは一体誰なんだ……?


「あ、あそこ! 神崎さんよ!!」


 本当だ。良かった……なんとか無事なようだ。

 だが、花さんと一緒に戦ってるあの人……

 間違いない。花さんに、果たし状を送ってきた相手だ。羽川先輩を人質にして、喧嘩をふっかけてきた人物。

 と言うことは、あいつが犬飼じゃ……?

 しかし、花さんを狙うわけでもなく、むしろ共闘しているようにみえる。敵は、

 黒服の人達だけだと言わんばかりに。

 一体どう言うことだ? 頭が混乱する。


「……宮川くん取り敢えず落ち着きましょう、状況はわからないけど、神崎さんと一緒に戦っているあの人よりも……恐らく私たちが戦うべき相手は黒服の方。そしてその集団を仕切っているあいつが恐らくはリーダーね……」


 羽川先輩が指を刺す方向には、

 一人の大柄で不気味な男がいた。仲間達に指示を出しながら、自分も闘っている。

 どうやら、グループを従事っているのはこの男らしい。状況はわからないが、

とにかく僕らの敵であることに間違いはなさそうだ……。


 そして、僕は、横目で

 チラッと羽川先輩の方を見る。


 ──羽川先輩も犬飼を知っているはずだ。

 だからこそ、この状況には、

 違和感を覚えたと思うのだが……

 羽川先輩は落ち着いた態度でいる。

 きっと、自分が冷静に振る舞うことで、僕を落ちつかせようとしてくれているのだろう。羽川先輩の言葉を聞き、僕も少し肩の力を抜く。

 あれ……思ったよりも肩に力が

 入ってたみたいだ。

 気づけば、また腕が震えていた。

 顔は覚えていないが、

 自分を襲撃した犯人があの中にいるのだ。


(落ち着け僕……やることは変わらない)


「じゃあ、私たちはあっちの黒服のグループをやればいいっスね……」


 神楽坂さんはいつでも行けるというふうに腕を回している。


「うん。でも、無茶はしないこと。今回はあくまで神崎さんを助けるのが目的だからね」


「わかってるっス!!」


 神楽坂さんはともかく、

 正直非力な僕らが加勢してもなんの戦力にもならないことは百も承知だ。

 だから今回の目的は、あくまで花さんの救出が最優先事項である。


「じゃあまずは、バレないように。

 あそこにいる奴から……」


「ほ、ほんとに効くかしら……」


「……まぁ、取り敢えずやってみましょう。神楽坂さんお願いします」


「オーケーっス! じゃあ早速、行くっスよ!!」


 神楽坂さんは、をふんだんに混ぜた水風船を持ち、

 黒い服を着た相手の顔目掛けて投げつける。


『うわっと……なんだこれ……辛い!!! 目が開けられねぇ!!』


 慌てふためく男。


「効いた!!」


 3人同時に、歓喜の声が上がる。


「コンビニで買った胡椒が役に立つなんて!」

「流石は、姉御の旦那ッス!!」


僕は、軽く微笑み返すと同時に、僕らの味方であろう、赤い服を着た人にロープを渡す。


「今のうちにこのロープで縛ってください!!」


『お、おう、誰だかわからんが助かった!!

 任せておけ!!』


ロープで縛り付けている姿を見ながら、

僕はあたりを見回す。


(……よし、この騒ぎの中だ。まだ僕たちの姿は認識されていない。次だ)


 僕たちは、騒ぎを利用しつつ、

 ひっそりと次のターゲットを探すのであった。


 ──あれから数十分が経っただろうか。


「やったッス!! これで半分は動けなくしたっスよ!!」


「やったわ!!」


 僕らは順調に、相手の邪魔ができていた。


「花さん、頑張ってください……!」

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