第30話 不良美少女の衣装決め
♢ ♢ ♢
勝負に勝った勇者達は、よく冒険者達がこぞって集まる
大きな宴会場で飲んで騒いで、
祝福の雄叫びをあげている姿というのをよくゲームで目にする。
しかし、僕はそれとは真反対の場所へ呼び出されていた。
──カランコロン。
「こんにちはー」
「あら、宮本くん……ごめんねー今日は花ちゃんいないのよー」
「あ、いえ今日は、美味しいドーナッツを食べにきたので!」
「あら、口がうまくなったわねー、ちょっとサービスしちゃおうかしら」
いつもと変わらぬ溢れんばかりの笑顔。
人の良さが、笑顔に現れている。
この店長さんの柔らかな物腰と、少し味のある落ち着いた店内は、最高の息抜きの場だ。
常連さんもよく見かける。
みんなそれぞれ、このお店に好きなところがあるのだろう。
そうここは、花さんが働く、ドーナッツ店である。
僕は、好きなドーナッツとおまけのドーナッツを一つ貰い、
レジで会計してもらい、
いつもの場所の席に着く。
「良かった、空いてて、はぁーそれにしても落ち着くなぁ……」
もう既に、第二の実家って感じだ。
モグモグ……
「あーやっぱり美味しいなぁ……」
改めて、感じるこの喜び。
もしかすると僕は、ここのドーナッツを食べるために生まれてきたんじゃないかと思うほどだ。
それに加え、店長さんの心に染み渡るその優しさとお店の雰囲気が、
疲れた身体をこれでもかとくらいに癒してくれる。
「あ……いつもの癖で思わず食べちゃったけど、今日はもう2人くるんだった」
カランコロンッ
「こんにちは……って何もう食べてるのよ、宮川君」
「ずるいっスううううううううううう!!!!」
そう。もう2人とは、羽川先輩と神楽坂さんのことである。
2人は、早速席に荷物を置くと
ドーナッツを取りに行った。
そして、羽川先輩は、
全員が揃ったのを確認すると、こう告げた。
「さぁ、始めるわよ! 神崎さんのための会議を!」
──そう。今日、僕らは羽川先輩主導によって、集めれたわけだが、
今回の議題の内容は神崎さんの衣装についてである。
「まぁ、元が良いから神崎さんはなんでも合うと思うんだけどねぇ……でも早速だから普段見せないような衣装を着させたいなって思うのよ」
「なるほど……」
確かにその通りだと、うなづいていると
途端、周りの視線を感じた。
ん……?
『おいおいなんだよあの可愛い女の子達……』
『羨ましいぜこんちくしょう』
そんな声が辺りから聞こえてくる。
そうか……。
だいたいいつもこのメンバーで集まっているのが慣れすぎていて、忘れかけていたが、どちらも美少女なのである。
美少女が2人に地味な男の僕が1人。
なんだこの構図は。
そりゃ視線を集めてしまうのも無理はないのかもしれない。
そして、その肝心の2人の美少女はというと。
「やっぱり、姉御にはかっこいい服を着て欲しいっス!!」
「わかる、わかるわ神楽坂さん。確かにカッコいい神崎さんも十分魅力的よ。
でもね今回はミスコンという女の子が可愛い格好をすることのできるっていう
特別な日なの。これがどういうことかわかるかしら?」
「……わ、わからないっス! 教えてくださいっス!!」
「ふふふ……それはね、普段見せない可愛いお洋服を着させることで、
普段とのギャップが生まれさらに神崎さんの魅力はアップするのよ!!」
「……よ、よくわかんないっスけど、なるほどっス!!」
──話に集中していて全く気が付いていない様子だ。周りが聞いたらおかしな会話な気もするが。
「ねぇ、宮本君聞いてる?」
不服そうな表情で頬杖をつきながら
羽川先輩は、僕に問いかける。
「は、はい!」
突然話を振られ、驚いてしまった。
「宮本君はどんな衣装が似合うと思う?」
うーんそうだなぁ……。
「まぁ僕も神崎さんはなんでも似合うと思いますけど……こういうイベントの時くらいしか花さんは着てくれないと思うので、せっかくな可愛い系がいいですかね」
「やっぱりそうよね! よし……じゃあ、可愛い系の方向で衣装を作るとして……」
羽川先輩は、何やらペンを取り出し、メモを取っていた。
できる委員長といった感じだ。
実際は……おっと、これ以上はやめておこう。
怒られてしまう。
ん? そういえば……
僕は少し気になっていたことを思い出した。
「そういえば羽川先輩、神崎さんの衣装を決めるのはいいんですけど、うちの学校にそんな衣装ありましたっけ?」
「私も見たことないっスね……」
すると、羽川先輩はあっけらかんと答えた。
「あら? 言ってなかったかしら。私が作るのよ、裁縫得意だし」
「えええええええええええ!?」
羽川先輩の意外な才能を、こんなタイミングで知るとは。
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