第29話 弁解

「というわけです」


 僕と羽川先輩は、自信満々に言い放つ。


「なんだ今の回想劇は……というわけです、じゃなくてだな……

その写真は後で消すとして……あんた達はもしかするとらわざと怒られたいの?」


 怪訝そうな顔と冷たい目線を俺たちに向けてくる花さん。

……写真はバックアップをしっかりとっておこう。


「……」


 しかし、何とか、出場してもらわないと僕はその写真自体をもらうことができない。さて、どうしたものか。何も言い返すことができないでいると、代わりに

 羽川先輩が口を開き出す。


「神崎さん……もう観念しなさい。外堀はもう埋めてあるの。

 あなたは完全に包囲されている。もう、抵抗するのはやめなさい」


「いや、なんであたしそんな逃走犯みたいな扱い方されてんの」


「お願いしますよ花さん……」


 すかさず、僕も援護射撃を撃つ。


「うっ……そんなうるうるした目で見るな……

 無理だ無理!! そんなのあたしのキャラじゃない」


 花さんは一瞬悩んでそうな表情はしたものの、

 やはり、無理なようだ。

 くぅ……やはり、不可能なのか!?


「わかったわ……神崎さん」


 おっと……やはり羽川先輩も流石に無理だと感じたのか。

 やっぱり出てくれないよなぁ。

 うーむ……残念だけど仕方ないかぁ……


「神崎さん……あなたに次のテストで90点以上が確定する魔法のチケットをあげるわ」


「は? 何言ってんの羽川ちゃん。そんなものあったら欲しいけどさ」


「あるわよ、ここに」


 そういうと、羽川先輩は制服のポケットから、一枚の紙切れを取り出した。

 そこに書いていたのは。


『必ず90点以上取れる魔法のチケット! 注 宮本昴がつきっきりで勉強を教えます。』


 は? なんだこれ……

 こんなの聞いてないぞ!!?


「ちょっとなんですかこれ!?」


「何って、宮本くんが勉強を教えてあげるチケットよ」


「いや僕の許可取ってないでしょ!!」


 全く諦めてなかったわこの人!!

 神崎さんのためなら、本当になんでもするって感じじゃん!!

 後輩の人権無視じゃん!!

 協力するんじゃなかったの!?

 こんな物まで用意して……


「ふーん……これは良いね。次のテスト自信なかったし。で、取れなかった時の責任は誰が取るんだ?」


「勿論、宮本くんよ」


「いや、そんな勝手に!」


「……このチケットが本当に使えるんだったら考えても良い」


「ほら、宮本くん。神崎さんもこう言ってることだし、ね? お願い!!」


 必死に頼み込む羽川先輩を見て、僕はもう断るのは無理だと

 肌で感じた。

 わかりましたよ。やれば良いんでしょ!!

 人肌脱ぎますよ、先輩のために!!


「わ、わかりましたよ……わかりましたから……じゃあ、それで花さん出てくれるんですね?」


「……いや、まだ出ると決めたわけじゃ……」


「神崎さん……? 宮本くんがこう言ってるのに出ないと言うのは……流石にかわいそうだと思うわ! 宮本くんの気持ちを考えてあげなさい!!」


 ……いや羽川先輩。貴方、僕の気持ちを考えてなかったでしょ。

 まぁ、そんな言葉は心にしまうとして……。


「花さん! お願いします!」

「……あーもうわかったって……出れば、良いんでしょ、出れば」


「やったあああああああああああああああああ」


 僕と羽川先輩は、2人でハイタッチをして喜んだ。


「じゃ、じゃあ私は早速、申請書を出してくるわね!!」


 だっっっっっっっっっっっっっ! ずてん! ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!


 すごい勢いで去っていったな。

 なんか途中で転んでた気もするけど大丈夫だろうか。


「じゃあ昴、あたしもバイト行ってくる」


「あ、はい。頑張ってください」


 あー何だかとても疲れた。

 ひとまず、一件落着だ。

 そして、誰もいなくなった、図書室で俺は突然冷静になった。


 ……あれ? なんか羽川先輩だけ、得してない……か?






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