懺悔其の四十四 神父が来た
「さーて、今日も頑張りますかねぇ」
アタシはそう呟きながら、缶のおしるこを取り出す『栗ぜんざいしるこ(栗が大粒)』という新商品らしいので買ってみた。
プルトップを開けて飲もうと……栗がフタをして、おしるこが出てこない!
「誰だよこんな商品考えたやつ! 考えた奴はまだ良い、しかしこれにゴーサイン出したやつは全裸で谷底にダイブしやがれ!」
アタシはそう悪態をつくと、缶のおしるこを部屋の奥に置いて戻る。
「まったく、どうやってあのサイズの栗を入れたんだよ。ん? 人の気配」
アタシは人の気配を感じ取ると辺りを見回す。すると天窓の付近の柱に人が立っていた。
「空き巣かなんかか?」
アタシは身構えると、人影が笑い声をあげだす。
「ハハハハハ!」
ひとしきり笑った人影が柱から飛び降りる。
「なんなんだ? また変人か!」
飛び降りた人物が、アタシの前に着地する。
身長は一七〇程度だが体格ががっしりしてるせいか大きく見えた、黒いタイツに上半身裸にマントという井出立ち。つーか今冬だから!
顔も……目と鼻と口の周りに白い縁取りがあり額にコンドルの刺繍、緑を基調としたマスクを被っていた。
ナンダコイツは?
「なんだお前! 新手の変質者か?」
「
「へ、何言ってるんだ?」
「ハッハッハッハッハ」
笑い出すし、もうワケワカラン。
「だから何だよアンタ! 空き巣なら静かに行動してすぐに逃げろよ」
「
「いや、何言ってるの?」
何故か覆面男は手を出して握手を求めてきた。
どうしよう意味が分かんない……
「ハハハハ、警戒心も強く勇敢なお嬢さんだね」
覆面男はウンウンと頷いて謎の納得をしている。
良く見るとこの覆面男の胸の辺りに十字架の首飾り、脇には聖書を抱えてるってことは……
「まさか、アンタがうちの担当の神父様なのか?」
「
シー? 海?
「ムチョ・グスト」
「シー? ムチョ・グスト? 何を言ってるんだ?」
「ハハハ、すまないすまない。スペイン語でねシーはハイでムチョ・グストはよろしくって意味だよ」
どこの国の人なのか覆面でわかんねーよ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
神父は改めて握手を求めてきたのでアタシも握手に応じる。
すると神父は力を入れてきた、アタシは咄嗟に握り返し投げられないようにする。
「ハハハ、君は凄いな咄嗟に反応するなんて。シスターだけやってるのが勿体ないな」
「なんの冗談だよ」
「うん、君はその口調の方が似合ってるな、シスターケイトの言う通りの人物のようだね」
手を離すと神父は腕を組んで納得している、どうせシスターケイトが滅茶苦茶な事言ってるんだぞ。
「で、君が私が来るまでここの担当をしてくれていたレナ・マクダだね」
「ああ、そうだよ」
「私は今度ここの神父になるダニエル・ホセ・アレジャーノだ。メキシコから来た、ダニーと呼んでくれ」
ダニエル神父ことダニー神父が自己紹介をした。
「ダニー神父、アンタはまさかとは思うけどルチャドールか?」
「ハハハハ、ああ、ルチャドールとしてリングにも上がっているよ」
「はは、流石うちの教会だ普通の神父じゃ無い人が来たよ」
まさかルチャドールかよ。流石はうちの教会だなぁ、強烈な人物つれてきたなぁ。
「私は褒められているのかな?」
「ああ、多分誉め言葉だよ。そうでないとうちの教会のあのメンバーは制御できやしないから」
「なるほど、ますますシスターケイトの言った通りだな」
アタシとダニー神父が会話していると扉が開きシスターケイトが入ってきた。
「うちの自慢のレナちゃんはどうでしたか? ダニエル神父」
「良い人材だよ。ルックス、実力共に今すぐリングでも通用するね」
「ルックスは当然ですし、喧嘩番長だったので実力も折り紙つきですよ」
まて、何の話だ? リングとか言ってたぞ。
「ですが神父、この子はうちのシスターですよプロレスのリングには上がりませんよ」
「それは残念だ、彼女ならすぐにトップのルチャドーラになれるんだがな」
「ならねーよ」
「ハハハ、残念だな」
しかし良く笑うなこの神父は。
まったく、最近アタシを変な道に引きずり込もうとするやつ多すぎだろ。
アイドルだぁ、
「さて、ダニエル神父、挨拶は済みましたか?」
「ああ、シスターケイト挨拶は終えましたよ。あとシスターケイトも私の事はダニーと呼んでくれませんか?」
「考えておきますね」
腕を組んで仁王立ちすると、ダニー神父はまた高笑いをする。
「ハハハハハハ! ではレナ君これからもよろしく頼むよ! とう!」
そう叫ぶとバク転しながら去っていった。
「ダニエル神父は元気ですねぇ」
「普通に移動しろよと言いたい……」
「さて、レナちゃんもあと少しですが懺悔室を頼みますよ」
「まあ、なんとか頑張るよ」
アタシはシスターケイトにそう答えた。
「フフ、これだけは覚えておいてね、この一年でレナちゃんに救われた人は結構多いのよ」
「はー、そりゃどうなんだろうねぇ。シスターらしいことはあまりしてないんだけどねぇ」
「フフ」
シスターケイトは最後に少し笑う。
「さて、私も行きますかね。新神父さんの手続きが色々ありますからね」
シスターケイトはそう言うと、懺悔室を出て行った。
「んで? お前たちは何時まで観てるんだ?」
アタシがそう言うと、リナ、リア、マティアが顔を出す。
ホナミさんもその後に続いた。
「皆さんも神父さんが気になったとかで見に行くと言い出して……私は止めたんですけど」
「ホナミさん、リアとマティアは特にガツンと言わないと聞かないですよ?」
「そうですねぇ」
ホナミさんもお守り大変だな。
「ちょっと、リアちゃんが聞き分けないみたいじゃないのさー」
「リア、君が一番見たがって我儘言ってたじゃないか」
リアの言葉にリナは呆れている。
「へへー、でも面白そうな神父さんが来たねー」
「そこは私もマティアに同意しよう。仔猫ちゃんな神父が来てくれるのを期待したけどね、アレはアレで面白そうだ」
リナもマティアも好意的なようだ。
「リアちゃんとしては別にどっちでもいいかなー」
「リアさんは女性じゃなければ、いいやって言ってましたからね」
「しょうがないじゃない! ここに来る女性って割と容姿のレベル高いから、リアちゃんの可愛さには勝てないにしてもライバルは少ない方がいいのよ!」
「まったくリア、お前は何がしたいんだ?」
リアの言葉にアタシは呆れるしかない。
しかし神父も来たし、そろそろ変人の相手も終わりだよ。
まあ、神父がアレなんだけどねぇ……
こうしてアタシとダニー神父の顔合わせは終わったのであった。
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