懺悔其の四十三 子犬

 

「あー、寒くなって来たなあ、懺悔室の暖房ショボいんだよなぁ」


 アタシは暖房の温度設定を少し上げる、そして缶の『白玉しるこ(白玉入り)』なる新製品のプルトップを開け飲む……白玉がフタになって全然しるこが出てこない!


「誰だこんな商品作ったバカは! 発案者もアホだがそれにゴーサイン出したやつはくたばれよ!」


 アタシは悪態をつくと缶しるこを奥のテーブルに置いてくる


「後で捨てよ、てかどうやって白玉入れたんだよあの商品」


 しかし風が強いなって思ったらトビラが少し開いてるじゃないか、立てつけ悪いから閉まり切ってなかったか? そら寒いわけだ。


 アタシは扉を閉めようと立ち上がると、扉の隙間から犬が走って入ってきた。

 まだ子犬のようだが、何かに怯えるような目をして走ってこっちにやってきた。


「お、今日の子羊は犬か、犬なのに子羊とはこれいかに」


 子犬はアタシの所まで来ると、アタシから少し距離を離した所で止まった。

 子犬をよく見ると傷だらけだった、首輪が無いところを見ると野良のようであった。


「おい、お前なんでそんなに傷だらけなんだよ」


 アタシが声をかけると犬はビクっとしてその場にへたり込んでしまった、こいつは酷いなバカな人間に虐められでもしたのか?

 逃げて来たって事は現在進行形ってことか……やれやれ弱い者いじめの何が楽しいのかねぇ。

 アタシは子犬を抱き上げようとすると、暴れ出した。


「キャンキャン!」

「こら暴れるな!」


 困ったぞ、アタシは犬なんて飼った事ないからな、そして暴れる子犬がアタシの手に噛みついた。


「いた!」


 アタシが手を引っ込めた瞬間、また扉が開くと男が二人入ってきた。


「ワンちゃーん、どこいっちまったんだー」

「ギャハハハ、サッカーしようぜサッカー、ボールはワンちゃんだぜぇ」


 成る程このバカが虐めてたのか。

 酔っぱらってやがるなぁ、アタシと歳はそこまで変わらないようだな。クソヤンキーの類かな?


 子犬と格闘しているアタシにも気づいたのか、酔っ払い共はアタシの方に寄ってくると


「おや? ワンちゃんだけじゃなくて仔猫ちゃんまでいるじゃないか」

「お嬢さん、俺たちと遊ばない?」


 アタシの手を噛んでた子犬が怯えているという事は、確実にこいつらが子犬虐めの犯人でいいんだよな。


「まったく、アタシじゃなくてあいつ等に噛みつけよ。噛みつかれた分はこいつ等に返せばいいのかな?」


 アタシは子犬を地面に置くと、男たちの方を向いた。


「うお、超美人じゃん」

「マジだな、お嬢さん俺たちと良い事して遊ぼうぜ」

「なあ、お前たちがこの子犬を虐めてたのか?」


 アタシが低い声で尋ねる。

 すると茶髪の方の男がヘラヘラ笑いながら。


「虐めたは酷いなー、俺たちは犬と遊んでただけ。お嬢さんも一緒にやる? Wカップ日本代表ごっこ」


 胸糞悪い笑顔だな……そして金髪……半分黒い地毛見えてる方も。

 子犬も隅っこでガタガタ震えてるし。


「キャンキャン言って、たのしーんだわ」

「ワンワンバスケとかもいいかもなぁ」

「「ぎゃっははは」」


 呆れたクズどもだな、方向性は違うがパチンカス競バカ姉妹と良い勝負だな。

 アタシはこういう奴等が嫌いなんだよね。よーし、久しぶりに暴れるか?


「お前たち、ここが何処だか知ってるか?」


 アタシがそう言うとバカ二人は顔を見合わせ。


「「しりまっせーん、ぎゃははは」」


 綺麗にハモってた、腹立つ―。


「ここはな教会の懺悔室って言ってな。バカを説教して悔い改めさせる場所なんだわ」


 アタシが懺悔室だと教えてやっても、男たちはヘラヘラと笑っている。


「おい、お前懺悔しとけよ」

「俺懺悔する事ねーもん」


 頭の悪い反応にアタシはイラっとする、床をダン!っと踏むと男二人が少しビクっとした。


「いいか? 人を殴っていいのは殴られる覚悟のある奴だけなんだよ」

「犬だしー、人じゃないんだよねぇ」

「お嬢さん頭大丈夫?」

「そこの犬がお前たちに何をしたんだ? そしてお前たちはその犬に何をしたんだ?」


 ヘラヘラしてた二人が徐々に、機嫌が悪くなっていく。


「なあ、お嬢さん。お前何が言いたいの?」

「俺たちが犬と遊んでたら何かいけないわけ」

「遊ぶと虐待が同義語なようだな? ならアタシと遊ぼうか? バカども、アタシはね弱い者虐めなんてするバカが大っ嫌いなんだよ、だからお前たち流で遊んでやるよ」


 アタシは拳を鳴らしつつバカどもに歩み寄る。

 金髪の方の男がアタシの顔を見て、何かを思い出したようだ。


「いや、まさか。何でここにアナタがいるんですか?」


 ビビりだす金髪に茶髪の方が。


「お前、何女一人にビビってるんだよ」

「バカ! お前この人『猛毒聖女』だぞ」

「ったく、その名で呼ぶなよ」

「猛毒って……あの、え?」


 アタシの事を知ってるって事は、やっぱヤンキー気分の抜けてないバカどもだったか。

 茶髪も金髪もビビって動けないようだ。


「あ、あのですね……ボク達は子犬と戯れてただけでしてね」

「プロレスゴッコでいいよな?」

「遠慮します! すいませんやめてください……」

「そこの犬がやめてと言ったら、お前たちやめたか?」

「いや、犬は喋りませんから!」


 ギャーギャーうるせーなこいつ等。


「やめてと言えない事を良いことに、好き勝手やってんだろーが!」

「「ぎゃー! すいませーん!」」


 アタシはバカ二名を張り倒す。


「子犬がこんなに怯えてるじゃねーか! テメー等のせいだからな」

「痛い、痛い。やめてー」

「リアが無駄に若作りなのもテメー等のせいだろうが!」

「ぐあー! 痛い、リアって誰ですか……」

「白玉しるこが飲みずらいのもお前たちのせいだ!」

「子犬関係ないですー、ぎゃー!」


 アタシは男ども二名、金髪の左足と茶髪の右足をそれぞれ左右の脇に抱えて逆海老固めで締め上げる。


「「たすけてー」」


 男たちの悲鳴が響き渡ると、また誰かが入ってきた。


「ちょっと、レナちゃん。どたばたとうるさいわよー、なんか悲鳴聞こえてくるし」


 近くを通りがかった、マリアさんが入ってきた。

 そして二人の男を締めあげてるのを見て。


「何やってるのよ?」


 呆れた表情でマリアさんが尋ねてきた。


「子犬を虐待してたバカ二名にお灸を据えてる所ですよ」

「子犬?」


 アタシが視線で子犬の場所を示すと、マリアさんも犬の方を見る。


「やだー、可愛いわね」


 マリアさんは目を輝かせていた。

 マリアさんは子犬の方に歩いていき、子犬をひょいと抱き上げる。


「私、犬大好きなのよねぇ。ってこの子傷だらけじゃないの」


 マリアさんが子犬を抱えたままバカ二人の所に来ると。

 スリット入りのスカートの中からから銃を取り出し、銃口をバカ二名に向ける。


「おい、お前等。抵抗できない子犬をいたぶるのは楽しかったか?」


 あ、やべ。この声はヤバイ。

 男二人もマリアさんが普通じゃないのを、雰囲気で感じ取ったのか固まっている。


「マリアさん! 流石にここでそれはダメですよ。ここ日本だから!」

「でも、このワンちゃん見てよ! かわいそうじゃないの」

「だからアタシが今、こいつらしめてるとこですから」


 勢いあまって締め上げをきつくしてしまった。


「ぎゃー!」

「ぐあー!」


 メキっと変な音したけど……ま、いっか。

 男どもは失神してしまったようだ。


「もう、マリアさんはすぐにそれ取り出すんだから」

「でもー、アレを見たら怒りたくもなるじゃない」

「分かりますけど、やることが極端なんですよ」

「……むー、レナちゃんは優しすぎよ片足だけで許してあげるんだし」


 マリアさんが指を鳴らすと、黒服の兄さん達が入ってきた。


「こいつ等、紐で縛って『僕達動物虐待しました』って看板と一緒に警察の前に転がしといて」


 マリアさんがそう言うと、兄さん方は頷いて男たちを担いで出て行ってしまった。


「さて、この子犬どうしようか?」


 アタシがそう言うと、マリアさんが。


「ここで飼いましょう! 面倒は私が見るわよ」

「シスターケイトがオーケー出しますかね?」

「私が説得するわよ」


 マリアさんは何故か凄く、この子犬が気に入ったようだった。


「これは頑固者どうしの戦いになるぞ……」


 アタシはそう呟いた。

 子犬を抱えてマリアさんは走って懺悔室を出て行ってしまった。

 しかし、今日はアタシも少しやりすぎちまったなぁ……そう、反省するのであった。


 ――

 ――――


 次の日はシスターケイトの方が折れ、子犬を飼うことになった。

 子犬は人間不信になっていたためか、中々みんなに懐くことは無かったがマリアさんはそんなこと気にせずに子犬の世話をしていた。

 まさかマリアさんがあそこまで犬好きだとは……和菓子好きの変なイタリア人じゃなかったんだなぁ。

 そして子犬の名前は『タンフォリオ』だそうだ……それイタリアの拳銃メーカーの名前ですよね?

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