懺悔其の四十二 良く考えるとマトモだったよね

 

 今日の迷える子羊は、何と言えばいいのか……

 人間ではないのだ、半魚人とでもいうべきだろう。

 身長は三十センチほどの俗に言うギンブナというヤツに足が生えている、しかも何故か小さな女性用の水着を着用しているのだ。


「はーい、わたしーステファニーよ、ステファンって呼んでねー」

「あ、あぁ。アタシはレナだ好きに呼んでくれ」


 魚類に自己紹介されるなんて中々珍しい体験だな、反応に困るだけで嬉しくも無いが。


「ちょっとー、わたしはー懺悔するような事ないけどー、相談したいことがあってさー。ここに来たわけ―」


 何故かギャルっぽい口調だった、ギンブナはその殆どがメスという特徴がある。


「……どう反応したらいいんだ?」

「普通でいいわよー、ふつーで。何、人種差別ー?」

「そういう訳じゃないが。そもそもお前、魚類だろうが」

「揚げ足とりとかだっさーい! じゃあ、魚人差別ー?」


 うざっ、何だこの半魚人。


「んで、魚類が人類に何の相談だよ」


 アタシが魚類に尋ねる。


「あー、そうそうー。最近さーわたしのいる池が人間に汚されてるのよねー」

「どこの池だよ、この辺りだと小学校の裏手か?」

「小学校ー? 違うわよー」


 池っぽい場所はこの街には小学校の裏にある小さな池くらいだぞ。


「隣町よー、名前は知らないけどお寺の裏の池よー。」

「隣町の神社ってあそこか?『衆煎寺』か? あそこは魔界か何かか……」


 坊主はロクでもねーし、なんか妖怪魚いるし。


「多分其処よー。で、その池が最近人間に汚されてて困ってるんですけどー」

「こんなとこで相談よりも、町役場か寺に相談に行けよ」

「やだー、人間って冷たい―」

「うぜぇ……」


 こいつ串焼きにしてやろうか? 食べる気にはならないけど。


「もうねー、人間ってバンバン色々な場所汚してるじゃない。最近、日本ザリガニとか見なくなったわよ、危機感持ってどうにかしなさいよー」

「アタシの管轄じゃねーからなぁ、ニホンザリガニって確か絶滅危惧種だったなぁ」

「ほんと人間ってそういう所が面倒よねー。環境破壊は人類共通のお題でしょうに」


 ステファンはプリプリと怒っている。


「んー、どうにかしろと言ってもなぁ」


 アタシが困って悩んでいるとリナのヤツがやってきた。ナイスタイミングできたな。


「やぁ、レナ今日もキュートに……え?」


 リナは入ってくるなりアホな挨拶をしようとして固まる。

 それはそうだよな、アタシは魚と会話してるんだしな。


「リナ、良い所に来た!」

「あぁ……なんて間の悪さだ。こないだの時はまだ人類だったが今回は魚類かい?」

「いいからこっち」


 リナは嫌々アタシのほうへとやってくる。

 そしてリナを見たステファンは目を輝かせている。


「やだー、元蟹組の聖方里菜じゃないのよー!」


 何で魚類がリナを知ってるんだよ……


「リナ、お前魚類にも人気なんだな」

「私も初めて知ったよ、魚類にもファンがいたなんてね」

「当然よー、わたしの仲間たちもみーんなリナっちのファンだったんだからー、なんで急に引退なんてしたのよー、あまりにもショックで浮かんじゃった子もいたのよー!」


 浮かんじゃったってそれ魚的にはダメなんでは?


「あ、あぁ。すまないね魚類の人、私にも色々あってね」

「でもまあー、後でサインくれたら許しちゃう」

「わ、分かったよ後でサインするよ」

「やーん、ラッキー! 耐水性のペンでお願いよー」


 いかん、リナを巻き込むことには成功したが話がそれてるな。


「話がそれてるから戻すぞ、池を汚す人間をどうにかしたいんだろ?」

「そうよー、どうにかしなさいよー」

「すまないが、話が見えてこないんだが?」


 リナにステファンの話を簡単に説明する。


「なるほどね、池を汚す人をどうにかしてほしいと」

「アタシたちにゃ、どうしようもない問題ではあるんだけどね」


 リナは少し考えると。


「確かに私達だけではどうしようもできないね。ならばどういう状況なのかを、レポートに纏めて隣町の町役場に提出してみてはどうかな?」

「なるほど、こうなってるから困っていますって書くんだな」

「いいじゃないのー、流石はリナっちね」


 リナの提案にアタシもステファンも賛同する。

 単純だが効果的な方法ではあるな。


「水辺の仲間たちから事情を聞けばー簡単にまとめれるわよー」


 ステファンが乗り気で話を勧める、だが問題は誰が町役場にその纏めたレポートを出すんだ?


「しかし、誰がそのレポート提出するんだ? ステファンが行ったら大ごとだぞ」

「ふむ、確かに。ならば暇してるマティアにいかせてはどうかな?」


 マティアなら適応力高いから、喋る魚類を見ても平気そうだな……アタシも随分慣れたもんだ。


「確かに少しアホだが適任だな」

「誰か協力してくれるのかしらー?」


 ステファンがアタシとリナの会話に割って入ってきた。


「ああ、マティアってうちの修道士に手伝わせるよ」

「おっけー、わかったわー」


 ステファンは椅子から降りると扉に向かって歩いていく。


「それじゃあ、わたしはー皆に話を聞いておくわねー」

「ああ、分かった。んじゃマティアは明日向かわせるよ」

「お願いねー、リナっちも会えて嬉しかったわよー。サインはマティアって子に持たせてねー。じゃあ、アデュー」


 アデューという言葉と共にステファンは出て行った。

 その後リナがアタシに向かって。


「レナ、君はああいうのにも慣れてるのかい?」

「まあ、人外は初めてじゃないしねぇ……」

「そう言えばこないだ悪霊駆除もしてもらってたね」

「ヨシコか、あの後見なくなったな」

「駆除が効いたんだろうね」


 アタシとリナは遠い目をしていた。

 そして後に気付いたんだが、魚の相談が今まででかなりマトモな部類だったことに……


 ――

 ――――


 後日、マティアの話では、隣町の役人が池の付近を見回ってくれるようになったとの事だった。

 そしてボランティアがゴミ拾いをして、池も少しだけ綺麗になったそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る