懺悔其ノ四十 嘘つきは懺悔の始まり
エプロンを付け眼鏡をかけた、四十くらいのオバちゃんが今回の迷える子羊だ。
ハッキリ言おう、ここに来るオバちゃんがマトモであったためしがない。
だが、仕事なんで相手しないわけにもいかない。
「迷える子羊を本日はどうされました?」
アタシもこれが板について来たよな、そろそろ一年経つしサマにもなるか。
「ああ、神よ私のついた嘘をお許し下さい」
なんというか、こういうマトモな懺悔って殆どなかったよな……これが普通のはずで割と良く聞いてたはずなのに、濃いヤツ等のせいで記憶にあまりないんだよね。
「嘘についての懺悔ですね、全てを吐き出し許しを請いましょう」
アタシがそういうとオバちゃんは頷き語り始めた。
「はい、私は料理研究家という肩書を持っております」
「料理研究家ですか?」
最近は料理のレシピ本も増えてるよな。
「はい、そうなのですが……実は料理研究家とは真っ赤な嘘なんです」
「なんと」
「はい、料理なんて全くしたことが無く。しかし本を出させていただいてますが、あのレシピも実はネットで調べたレシピを少しアレンジしただけなんです」
「な、そりゃ酷い」
まったく盗作問題じゃないか?
「しかも料理をしたことが無いから、そのレシピが美味しいかどうかも確かめておらず、適当なコメントをしていました」
「うわー、普通にひでぇなぁ」
アタシは小声でつぶやく。
「そして学歴も嘘パチだったりします、みどりむし調理学校卒業とか嘘ついてました……本当は高卒で専門学校すら出てません、包丁どころかピーラーすら触ったことありません」
ぇー、なんでそんなんで料理研究家名乗ってんだよ……
「しかし何故か本が売れてしまって、引くに引けずいまだに料理研究家を名乗り続けています」
「では、今からでも料理を覚えたらどうですか?」
「え? 嫌ですよクソ面倒くさい。カップ麺にお湯を淹れるのすら億劫なんだし」
「……」
最低だなコイツ。そもそも何がきっかけで料理研究家何て名乗ったんだよ。
「では、何故料理研究家を名乗ったのでしょうか?」
「いやー、なんとなくなんですよねぇ。 なんといいますかSNSで喧嘩しちゃって売り言葉に買い言葉ってヤツですか? それで私は料理研究家だって言って適当なレシピを投稿してたところからフィーバーしちゃいましてね……」
「そんな適当でよくバレませんでしたね?」
「何とかなるもんです。しかし、最近はそろそろ嘘がばれそうでこうして懺悔に来たんです」
反省しない懺悔系だろコイツ。
「素直に嘘を認め謝罪すると良いでしょう」
先制攻撃で牽制だ。
「それでですね、ここから相談なんですが。この嘘がばれないようにして、料理研究家の肩書を止める方法を考えていただけませんか?」
「……」
……アタシの先制攻撃をナチュラルに聞き流してやがる、これだからここに来るオバちゃんは嫌なんだ。
「だから、嘘を認めて謝罪する事だって」
「そんなことしたら、今まで稼いだお金とか返さないといけないじゃないの!」
「そのために懺悔に来たんだろうが……」
……くそがガメツイやつだ。適当な事ばかり言ってやろう。
「闇の力が暴走して、右手が使えなくなったと発表して引退しては?」
「闇の力か……有りねぇ」
ありなのかよ……
「政府の特殊機関に狙われてるから、活動が難しくなったので引退しますなんてのは?」
「いいわね、それ」
いいのかよ……メモまで取ってるぞコイツ。
「実は料理なんてできません、スイマセン引退しますって発表するのは?」
「却下ね」
ッチ……
「俺は料理に出会わなければ殺人鬼になっていただろう、しかし俺はもう料理は出来ないだから引退だ。とかどっかのロックバンドみたいなことでも書いて引退したら?」
「インパクトはあるわね、検討しましょう」
実は何でもいいんじゃね? そんな気がしてきた。
その後も五分ほど中二病っぽい案ばかり出してみたが、ほぼオーケーのようだった……
「いっそ全部まとめるのもアリよね」
「人として終わるけどいいのか?」
「大丈夫よ大丈夫」
メモを見ながら考えを纏めているようだった、そして席をすっと立ち上がると。
「家でまとめてみるわ、意見有難う。それでは失礼しますね」
こうして自称料理研究家は帰っていった。
「うーん、そこまでして地位や立場にしがみつきたいものかね?」
――
――――
後日。
暗黒の力がバレ政府の特殊機関に狙われているので、料理活動は出来ないから引退をする。そう発表したことにより『暗黒サイコパスオバちゃん料理研究家』なんてものが登場し話題になっていた。
そのオバちゃんが別の意味でまた注目を浴びてしまい困っているという話を、マティアが笑いながら話していた。
「バカだよねー」
「まあ、自業自得ってやつだなぁ」
素直に謝っとけばよかったのにね。
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