懺悔其の三十九 ゴスってロリー
なんか午前中はマティアが懺悔室で懺悔や相談をすると言っていたが、まともにできたのだろうか? 何事もなかったように、頭ボサボサになったマティアは昼に戻ってきていたから無事に終わったとは思いたい。
アタシは懺悔室の扉を開け、今日も迷える子羊を待つ。
すると、年の頃は十歳くらいの少女が入ってきた。
その少女の恰好は黒を基調としたフリフリのドレス、ゴスロリドレスってヤツかな? 少女は金髪に縦巻きロールに大きなリボンを付けていた、そして人形のように整った顔に青い瞳。ゴスロリ少女ってヤツだな? 人形のように可愛らしい少女だと思った。
「お嬢ちゃん、ここに何のようかな? ここは教会の懺悔室だよ。懺悔か相談事なら話を聞くよ」
アタシは努めて優しく尋ねた。
すると少女は凛とした鈴のような声で答える。
「ほう、おみゃあがここの
「ん?」
「ん? じゃにゃあでやよ。おみゃあがここの主かと聞いとるがね?」
え? なんか姿と口調のギャップ凄くない? 金髪ゴスロリ美少女ってヤツだぞ? 大阪弁のオバちゃんとは違うんだぞ? まあ、いい答えるかな。
「主では無いがここの担当ではあるな」
「ほう? そうかそうか。んなら聞きたいことがあってな」
「聞きたい事?」
「この辺りに幕田って女がおると聞いて探しとるんだが。でもなあ、ワシは最近この街にマルヌのランスから越してきたんだが、まだこの付近にゃあ慣れとりゃせんで困っとったがね」
迷子かよー、ところでマルヌのランスってどこ?
「マルヌかー、遠い場所からよくここまで来たねぇ」
「うむ、ここまでは遠かったわ……ランスって知っとるか? ノートルダムのある場所だでよ」
ノートルダムっていうとフランスか、この街って意外に外人さん多いんだよなぁ。
「にしても日本語上手だな」
「そうでしょ、ワシの祖母が日本人だでよぉ、祖母から日本語習ったんだが」
「なるほど」
婆さんがそっちの人だったんだな、ならこの口調というか方言も納得できる。
「日本にはなんで来たんだい?」
「ワシの親は仕事でこの街に引っ越してきたんだがな、ワシは別の目的だぎゃ」
「親の仕事か」
親の仕事の都合か普通の理由だな。しかしその後に変なこと言ってたな、自分の目的は別だと。
「天下統一だがや!」
子供的な可愛い発想だろうな。
「天下統一か大きく出たな、それで天下統一って何するんだい?」
喧嘩最強天下統一とかしてるヤツとかマジでいたからなあ、子供ならもっと可愛いものだろうけど。
「京の都を目指す、天皇王権を擁してワシが天下を取るに決まっとるでしょ」
はぁ? このロリ何言ってるんだ? 天下統一って戦国時代的な意味での天下統一かよ!
「そのためにこの街にいると聞いた
「マクダさんミツカルトイイネ」
いかん、これは関わったらダメなタイプだった……
「お、そうじゃ。ワシ名乗っておらんかったがや、ワシはブリジット・プリエールだぎゃ。おみゃあさん名前はなんだがね」
「アタシかい? アタシは幕田玲奈って言うん……あ!」
あ、つい名乗っちゃったじゃん。
「にゃ、おみゃあがマクダがか」
「え、いや、あのヒトチガイデスヨー」
「なるほど、僧兵だったがね」
「いやー、そもそも兵じゃないんで、アタシはただの修道女だよ」
ブリジットはアタシの周りとくるくる回りながら、舐めるように見てくる。
「ふむ、どえりゃあよお鍛えとる……引き締まった良い筋肉だがや」
「くすぐったいからマジマジみるなよ、あとアタシは天下統一とか興味無いからな」
「え? 聞いた話だとおみゃあさんは、相当の戦バカと聞いとるんだが?」
「戦……ちげーよ。昔ちょいと喧嘩ばっかしてた時期が有るだけだよ」
「果し合いか、流石は
んー、どうしようなぁ。
「いや、果し合いとかそんな立派なもんじゃないから、単なる喧嘩だよ」
「どうでやよ、ワシと共に天下しよまい」
「断る!」
「ほうかほうか、ワシと来るようだが……え?」
ブリジットは信じられないといった表情でアタシを見る。
「にゃあして断るがね!」
「いや、だって面倒ごとは御免だし」
「にゃーして? ワシが天下とりゃあ日の本は安泰だがね」
「ガキが何言ってるんだよ」
そもそも天下取るとか、時代遅れなこと言ってる時点でアウトだろうが。
「にゃあでよ、ワシが天下とりゃあブラックな企業全部滅ぼすし、週休二日は絶対に取らせるて」
「ブラック企業潰すのは反対しないし、週休二日を守らせるのも反対はしないが、そういう問題じゃないんだよ!」
「わかった! ほれこれやるからよ、しゃあにゃあね」
ブリジットはポケットから白い羊羹を取り出すと渡してきた。
「ほれ、これがフランス名物の
「いや、いらねーし」
外郎ってフランスの名物だったか? しかもどうみてもスーパーとかで売ってそうな安物だろそれ。
「にゃー! ワシのおやつをいらにゃあと申すか! じゃあ、なんならおみゃあはワシの仲間になってくれるがね?」
「そもそもこの令和の時代に、天下統一って何言ってるんだよ」
「京の都の天皇さんを擁すりゃお終いだがね」
「そもそも、今は天皇は京都にいないし」
この子の中の日本はどうなってるんだ?
「え? なら足利は?」
「とっくに滅んだ」
「では今は誰が天下だがね?」
「いや、そもそも幕府がもう無いから」
「にゃー!」
ブリジットは幕府がもう無いと知るとうなだれていた。
「じゃあ、今ならどうすりゃ天下を取れるがね?」
「内閣総理大臣目指すとかじゃないかな?」
「ああ、日本の大統領みたいなもんか」
違うけど似たようなもんか。
「まあ、そんなとこだな」
「よーし! このワシ、ブリジットが日本の総理大臣になって
そもそも日本国籍じゃないとダメじゃないの? まあ、面倒だしそれは言わないでおこう。
「よーし! んじゃあレナ、ワシが総理になるまでかまってな」
「いや、勝手にやって」
「にゃー! 何が不満なんでやよ? んならワシのこの食べ残しの天むすもやるでよ」
「いらねーよ! 食べ残しで仲間になるやついねーから!」
「おみゃあ、贅沢だなあ」
何故かヤレヤレと首を振るブリジット、なんかどんどん馴れ馴れしくなっていくなコイツ……
「まあ、ええわ今日はこんなもんにしとくでよ」
「いや、今日とは言わずもうずっと来ないでください」
「照れんでもええがね。レナ、おみゃあはワシの右腕になるべく人物だで、また来るでなぁ」
「いや、もう来るなって……」
「また! 来るでやよ、あの事かんこーしてちょーせんか」
そう言いつつブリジットは扉から出て行った。
「まーた変なのが街に増えやがったなぁ……で、かんこーってどういう意味なんだ?」
アタシはため息をつくと次の迷える子羊を待つことにした。
少しすると次の迷える子羊が……
「また来たのかよ! 今さっき出てったばっかだろうが!」
「いやー、道に迷ったの忘れとったがね」
頭をポリポリ掻きながらブリジットがまた入ってきた。
アタシはその後道を教えてやる、ブリジットはお礼を言うとまた出て行った。
「……はぁ」
疲れる子供だった……
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