懺悔其の三十八 大本(バカ)が来る!

 けたたましく扉を開ける音が鳴り響いた。


「まくだーーーー!」


 はぁ、うるさいヤツが来たな。

 ついに直接やってきたか、まったく何なんだよ。


「どなた様ですか?」

「ワタシだよ! 忘れちまったのか?」


 ダサい特攻服を着た、ソバージュの女がアタシの前でがなりたてる。


「ここは懺悔室です、懺悔か相談以外は受け付けませんよ」

「はぁ? 何すっとろいこと言ってんだい」

「すっとろいのはお前だろうが、高校六年生。友達何人できた?」

「う、うるさい!」


 高校六年生こと、キョウコのヤツが直接やってきやがった……


「で? 用件は? 懺悔、相談?」

「どっちでもないよ!」

「いや、どっちかしか受け付けないから」

「立ち合いだよ、タイマンだよタイマン」


 何言ってるんだコイツ? 

 流石は高校六年生だな、理解してない。


「何がタイマンだアホかお前は、懺悔か相談事だつってんだろうが」

「天下の幕田玲奈が、なに教会関係者みたいなこと言ってんだい」

「ここは教会の懺悔室だっつーの、ちなみにアタシはもう不良なんてやってないの」


 何で不思議そうな顔してみてるんだよ、これだからアホは困る。


「なに腑抜けたこと言ってるんだ? シホ達が言ってた事は本当なのかい?」

「本当だよ、お前みたいに未だにそんなダサイ特攻服着て喜んで無いの」

「そんなにダサイかなぁ?」


 キョウコは自分の服を見ながら答えた。

 キョウコのグループやっぱセンス無いわ……なんで蛍光ピンクに金の縁なんだよ、目が痛いんだよ。


「いや、それ配色センス最低レベルだから」

「嘘?」

「マジ」


 キョウコはショックを受けていたが、そんな事は無視だ無視。


「で? 懺悔? 相談? お前なら懺悔すること山のようにあるだろ」

「そんなもんあるか!」

「どっちも無いなら帰れよ」


 キョウコは子供みたいにイヤイヤをしている、ハタチ超えたJKがウザイったらありゃしない。


「わ、わかった! わかったよ相談すりゃいいんだろ?」

「相談ね、それで内容は? そのダサイ特攻服をどうにかしたいとかそんな内容かな?」

「違うし、これダサクねーし!」

「はー、はいはい。で、何?」


 キョウコは相談することを考えているようだ、腕を組んで大げさに唸っている。


「なんだよ、何もないの? 友達の作り方でもいいんだぞ」

「ばか! ワタシはロンリーウルフなんだよ!」


 え? 族でつるんでるのにロンリーなウルフ?


「あははははは! お前何言ってるんだ? ロンリーウルフ……それ族が言う言葉か?」

「う、うるさいな!」


 ある意味面白いなコイツは、キョウコとはケンカするだけで、ここまできちっと話したことないけどある意味面白いな。


「そ、そうだ!」

「お? なんだ、次のテストの事かな? うちにゃ元高校教師もいるから相談にのるぞ」

「ちげーよ! それも大事だけどちげーよ!」

「なんだよ」


 キョウコは何故か勝ち誇った顔して相談事を話し出す。


「幕田玲奈がワタシとタイマン張ってくれないのを、どうしたらいいのか相談したい」


 アタシはキョウコが捻りの効いた質問をしてきたので、ニヤリと笑ってしまった。


「なるほど、考えたな」

「さあ、どうするか答えておくれよ」

「しかし、なんで不良辞めたアタシとまだケンカしたいのさ?」


 キョウコが顔を真っ赤にしながら答える。


「な、バカヤロウ! ワタシが負け越しなんて許せるわけないだろうが! 次こそワタシが勝つんだよ」


 ……やっぱバカだわコイツ。負け越しって一回もアタシに勝ったことないだろうが。


「いや、お前負け越しって一五戦一五敗じゃん、アタシに一回も勝ってないだろうが」

「ばか、ワタシが次勝てば一六勝分の価値があるんだよ!」


 小学生かコイツ? 謎理論過ぎるだろ。


「……まあ、それでお前がいいんならいいか」


 アタシは可哀想な人を見るような目でキョウコを見る。

 キョウコは謎理論に自信があったのかドヤ顔だ、クソ少し腹が立つ顔だな。

 ならばタイマン張る条件を無理難題にしてやろう。


「よし、分かった。キョウコがこの条件を満たせたらタイマンしてやるよ」


 アタシの言葉に嬉しそうな顔をするキョウコ、何がそこまで嬉しいのか?


「お前が無事に卒業出来たらやってやるよ」


 アタシの言葉にショックを受けるキョウコ。


「――な! クソ、鬼かお前。なんて難題を押し付けてきやがる」


 高校六年生のキョウコには難題だろうな。


「ふふふ、卒業証書を持ってきたらお前の願い叶えてやるよ」

「くっそー!」


 頭をブンブン振って苦悩するキョウコ……いや、そこまでの事か? 学校卒業だぞ!


「ワタシはまだ二年なんだぞ、ストレートに行ってもまだ一年ちょいかかるじゃないか」

「……え? 二年生? 三年ですらないのかよ!」

「そうだよ」


 想像以上だった……


「いいか、まずは進級を考えろ、そして着実に卒業しろ。流石にお前それは恥ずかしいからな」


 アタシの言葉に覚悟を決めた顔をするキョウコ。


「く、お前に恥ずかしいとか言われるとはワタシもヤキが回ったね! いいよやったろうじゃないか、女は度胸だコノヤロー」

「ちなみにアタシは留年してないから」

「な、お前何歳なんだよ! アタシとタメじゃないのかよ?」

「一緒にすんな十九だよ」

「そのオッパイで年下なのかよ!」

「あー、お前平らだもんな……」


 地団駄踏んで悔しがるキョウコ。いやー、コイツいちいちオーバーリアクションだな。


「くそ! そこまでバカにされたら後には引けないな。いいぜ卒業したらタイマンだコノヤロー!」

「まあ、せいぜい頑張れ」

「チクショー! 覚えてやがれ!」


 キョウコはそう捨て台詞を叫んで、走って懺悔室から出て行った。


「……想像以上のバカだったな」


 アタシはそう呟いた。


 ――

 ――――


 何故かキョウコがたまに教会に勉強に来ていた、どうやらホナミさんに勉強を教えてもらっているようだ、キョウコいわく学校の先生より分かりやすいそうだ……


「……ま、やる気になったならいいのか」


 そう思う出来事だった。

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