懺悔其の三十七 トリックオアとりーと

 

 今日は懺悔室も賑やかだ、本日は懺悔室の通常業務はお休み。


 この懺悔室も飾り付けがされており、カボチャのランタンやオバケやコウモリと言った装飾がそこらに飾り付けられている。

 そう、今日はハロウィンパーティーでうちの教会が経営する施設の関係者もいる。

 まあ、お偉いさんや施設関係者は教会の方に行っているけどね。


 こっちには仮装した子供たちがメインだ。


「「とりっくおあとりーと!」」


 子供たちが仮装姿で元気に菓子をねだってくる。

 アタシは籠からお菓子……クッキーやキャンディじゃねぇ……

 これ確か愛知県の南知多だっけかのお菓子で波ま〇らじゃねぇか……

 仕方ないから波〇くらを渡す、もちっとした柔らかい生地で飴の袋のようにアンコをくるんだお菓子だ。


「ほれ、食ったら歯みがけよ」

「ありがとうレナ!」

「さんきゅーレナ!」

「さんを付けろよ! デコスケ野郎」


 キャーと叫びながら去っていく子供たち。

 まったく、しかし何で波まく〇なんだ?

 用意された他のお菓子を見ると……仙台名物の萩〇月、東京の東京ばな〇、岐阜中津川の栗きんつば……なんでこんな渋いお菓子ばっかなんだよ! お菓子担当は……マリアさんだった。

 あの人、和菓子大好きなんだよなぁ。


「あ、レナちゃん。ごめんなさい私としたことが、葛切り餅が無かったわね! でも懐餅は沢山用意したわよ」

「え、いや。十分っすよ和菓子ばかり……しかもマニアックな和菓子が多いのはなんでですか?」

「私の趣味よ」


 誰だよこの人をお菓子調達の担当にしたの……ハロウィンを何かと勘違いしてるだろ。


「そう言えば、リアとマティアは何処ですか?」


 アタシがマリアさんにリアとマティアの居場所を聞くと、マリアさんとは別の声が答えてくれた。


「あの二人でしたら仮装するぞ! ってどっかに行きましたよ」

「仮装? アイツ等まだ仮装して無かったのか。しかしきっとロクでもないことするな」


 魔女の恰好をしているホナミさんが答えてくれた。そう今日はアタシ達も仮装をしているのだった。

 マリアさんは割と際どいオオカミ女ってやつになるのかな? リナは……アイツ何で雪女の恰好してるんだよ和風かよ、そして魔女のホナミさん。アタシは……吸血鬼ってヤツだな。

 シスターケイトも今日は仮装してるんだが……何を勘違いしたのかプレスリーみたいな恰好をしていた、流石にエルビスは無いな……


 そしてリアとマティアのコンビが、絶対にマトモな事はしない、マティアはああ見えてトラブルメーカーだしリアが加わるとなるとバカな事しかしない。


「むほぉぉぉぉ! ここは天国でつか?」

「奥田君! ここのシスター達はアイドルでござるか?」

「違いまつがアイドル顔負けでつよ!」


 ……誰だあいつら呼んだの、以前に来たドルオタが友達連れて来ていた。

 しまった! ここにゃ今、雅代もいるんだった!


「アイェァァ! マサヨ=チャン! ナンデ」

「奥田殿! この教会のパーティー凄いでござるぞ!」


 あちゃー、見つかっちまった……雅代も仮装してるから目立っちまったか……


「ドーモ、マサヨ=チャン。ファンのオクダでつ」

「あ、はい。こんにちは前に私の握手会に来てくれた方ですね?」

「ぼ、僕を覚えていてくれたんでつね……」

「ええ、何度かお見掛けしてたので」


 オタクの奥田が滝のように涙を流して泣きだした。良かったな覚えてもらうの夢だったもんな……

 しかし雅代は若干引いていた、そらそうか。


「ヒカルちゃんは毎回初めまして、でしたのに感動でつ」

「良かったでござるな、奥田殿!!」


 どうしていいか分からない雅代に助け船を出すべく、アタシは雅代の方に行く。


「はいはい、お触りは厳禁だよ」

「む? その声は!」


 奥田はアタシを見て固まっている、隣のオタク友達も固まっている。


「な、な、な。あの時のお姉さん! そんなに美人だったんでつか!」

「そうでしょ、レナさんすっごい綺麗ですもんね。私達のグループでもセンター狙えますもんね」

「確かに狙えるでござるよ!」

「ふふ、そうですよレナさんは私のお友達ですもん!」

「あの声にルックスと喋り方のギャップがたまらんでつね!」


 何故か雅代とオタク二名がアタシの話で盛り上がっている、アタシは恥ずかしいのでその場を離れる。


「なんで、アイドルとオタクがアタシなんかの話で盛り上がるのかねぇ?」


 さて、リナのヤツはあそこでナンパしてるし、マリアさんとホナミさんは和菓子配ってるな。

 アタシはどうしようかなぁ、そう考えていると子供たちの悲鳴が聞こえてきた。

 何事かとアタシは悲鳴の聞こえてきた扉の方に行くと……


「泣く子はいねぇか!」

「悪い子はいねぇか!」


 大きな青と赤の鬼の面をかぶり蓑を着た人物二名が包丁と桶を振り回して子供たちを追い回していた……なんでナマハゲなんだよ!


「きゃー、いやー」


 恐くて泣きだした女の子がへたりこんでしまうと、ナマハゲ二人が女の子を取り囲んでいた。


「泣く子には、リアちゃんブロマイドダァ!!」


 そう言いながら赤いナマハゲが桶からブロマイドを取り出し、女の子が持っていたお菓子袋にブロマイドを入れていた。

 あのバカ二人は何してんだ?


 次々と子供たちを襲って、ブロマイドを押し付けていくナマハゲ二人組。

 何時の間にか子供たちの鳴き声で阿鼻叫喚の地獄絵図と化してきた。

 いかん! あまりのバカらしさに思考停止していた、そろそろ止めないとな。


「おらー! そこのバカ二人組! 止まれ!!」


 騒がしくなってきたためか、奥でお菓子を配ってたマリアさんとホナミさんもこっちに来る。

 リナは……まだ仔猫ちゃんをナンパしていた。


「なんの騒ぎですか?」


 ホナミさんが泣いた子供たちあやしながら訪ねた。


「あらあら、ナマハゲってヤツね」


 マリアさんは完全に傍観者に回っているな。


 アタシはまだ子供を追いかけまわしている青いナマハゲのケツに蹴りを入れて止める、アタシの存在に気付いた赤いナマハゲが逃げようとしたのを見逃すはずもなく、アタシは桶を投げつけて赤のナマハゲも捕獲する。


 ナマハゲのお面を取り上げ二人を正座させる。


「お前らな、アレほど人様に迷惑かけるなつったろうが!」

「マティア! アンタが面白い仮装があるよって言うから話に乗ったらレナに怒られちゃったじゃない!」

「ふぇぇ、リアさんがブロマイド渡そうって言いだしたからじゃないですかぁ」


 反省の色なしの二人。

 そこに丁度お偉いさんの相手が終わったシスターケイトが来た。

 ホナミさんがシスターケイトに今の事の事情を説明すると。


「二人とも迷惑かけてはダメじゃないの」


 プンスコと擬音が聞こえそうな怒り方をしているシスターケイト、しかし……


「げ? ババア」


 流石リア、期待を裏切らないな。マリアさんは目を背けホナミさんも知らんぷりして子供をあやす。

 シスターケイトの表情がサタンも小便ちびりそうな表情になる、こいつはアタシも知らんぷりだな。


「なんですって? 二人ともこっちに来なさい!」

「しまったー!」

「ふえぇぇぇ? ボクもですかー?」


 バカ二名はシスターケイトに連れていかれた。


 子供たちも落ち着いてきたので、ハロウィンパーティーは再開となった。


 ――

 ――――


 なんだかんだ色々あったが、こうして何事もなくパーティーは無事に終了となった。

 たまにはこんな平和な日があっても良いよな。


「ハッピーハロウィンってヤツか」


 アタシは片付けを始めた皆の姿を見ながらそう呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る