懺悔其の三十六 ブラックシャドウ

 

 アタシの目の前に今日も変な人が来ています。

 全身を黒ずくめで顔以外は真っ黒。


 黒いマントに黒いボディスーツ、その上から上半身だけは鎧、歌舞伎役者のような髪型でその髪の色まで真っ黒、顔には口髭を生やしモノクルを付けている、どう考えても不審者です本当に有難うございました。

 なんで、こんな変な恰好した人が普通に歩いてるんだよ……あー、そうか。そろそろハロウィンだから仮装だと思われてるんだな。


「えーと、どんな御用で?」

「あ、はい。えーとですね私こういう者です」


 なんかもう悪の組織の幹部みたいな人なんだが、物腰柔らかに答え名刺を差し出してきた。


「はい、これはご丁寧に、どうも」


 アタシは名刺を受け取ると名刺を見る。

 福祉公社『ブラックシャドウ』、代表取締役『シャドウジェネラル』……え?


「え? その格好と会社名で福祉公社?」

「はい、私共の会社は行政からの依頼等を受けてまして、地域貢献に努めています」

「まじですか……どうみても世界征服とか狙ってそうですよね?」

「ははは、よく言われます」


 いや、普通はこんなナリで福祉公社とか言われても困るだろ?

 ん? しかし何かで聞いたことあるぞ、怪人のコスプレした集団がゴミ拾いとか老人ホームとかでレクリエーションしたりしてるってのを。

 ひょっとしたらここの会社なのかもしれないな。


「それで、そのシャドウジェネラルさんがどういった御用で?」

「ははは、長いようでしたらシャドウとでも呼んでください」

「わかりました」


 まあ、確かにシャドウジェネラルとか言いにくいな。


「ええとですね相談がありまして、こちらに伺ったのです」

「福祉公社が懺悔室にですか?」

「ええ、ある会社から提携の話を持ち掛けられましてね」

「ビジネスの話を、私のようなシスターに相談されても答えられませんよ」


 社運を賭けたとかなら、なおの事責任何て持てないからな。


「提携先の社長さんが、こちらで相談をしたことがあると言ってましてね。それで私もこちらに伺ったんですよ」

「え? 社長なんて人ここに来た事あったかな?」

「はい、来てましたよ。浜田さんという方なんですが」


 浜田……あぁ!! あのメタルヒーローか。


「仮面ハマダーか! あのどう見てもメタルヒーローなあのオッサンか」

「ええ、そうです」


 あのオッサンまじで探してたのかよ……


「それで浜田さんの会社のジャスティスブレイブと提携をしないか? って話が来たんですよ」


 いや、あのハマダーはいかんだろ。アイツ絶対にまともな提携しないと思うぞ。何せ敵対者を求めてた危ないヤツだし。


「提携ってどんな事をする予定なんです?」

「そうですね、うちは社員全員が怪人ですからね。ヒーローショーとか考えているようですよ」


 それ絶対にショーじゃないぞ、あとサラっと社員が怪人とか言ってるし。

 正直に言ってあげるのが優しさだろうなぁ。


「正直、提携は止めた方がいいと思いますよ」

「何故ですか? 理由を聞いても良いですか?」

「あー、ハマダーは敵対者を探してましたからねぇ」

「敵対者ですか?」


 まあ、普通に考えたら危ない思想だよな。


「そうですね、ヒーローなんだけど悪の組織がいなくて暇だって言ってた人ですからね」

「そうなんですか?」

「ええ、それで悪の組織がどこかにいないか? って相談なら受けましたからね」


 シャドウはアタシの話を聞いて、考え込んでしまった。


「そうすると、浜田さんはうちを悪の秘密結社だと思ってるんですね?」

「おそらく、そう見てるんじゃないですかね?」


 どう考えてもそう思ってるぞアイツ。


「酷い話ですね、うちはちゃんとした福祉公社だというのに。確かにうちの社員の皆さんは見た目は悪役っぽいですが、根は良い人ばかりだというのに」

「まあ、どう見ても悪の秘密結社ですよね……」


 アタシは気になってスマホでブラックシャドウのホームページを探して見たが……うん、やっぱ福祉公社には見えない。

 失礼な話、老人ホームを平気で爆破しそうな集団に見える。


「はぁ、否定はできませんね」

「ええ、なのでハマダーはどう考えても、悪の秘密結社として提携という名の敵対がしたいだけでしょうね」

「なるほど、分かりました」


 どうやら、シャドウは提携に関する何かを決めたようだ。


「この話は一度保留にします。もう一度浜田さんと話してみます」

「それがいいですよ」


 外見はかなりアレだが、中身はマトモな人で助かるな。


「しかし、何故うちの会社はそこまで悪の組織に見えるんでしょう?」


 え? 疑問挟む余地なくね? どう見ても悪の秘密結社でしょ。


「えー、社名とかじゃないですかね? ブラックとシャドウってなんか負のイメージが強いじゃないですか」

「なるほど言われてみればそうですね」


 福祉公社『ブラックシャドウ』より秘密結社『ブラックシャドウ』の方が違和感ないし……


「社名を変えるかぁ、それは考えもしませんでしたな」

「そこ、最初に考えないか?」

「いやー、響きだけで決めちゃいましたからねぇ」


 センスは悪の秘密結社だな……

 シャドウは腕を組みウンウンと唸っている。


「社名かー」

「明るい名前にしてみてはどうですかね?」

「うーん、例えば『ファントムシャウト』とかですか?」

「どっこも明るくねぇよ……」

「なら『フィアーズペイン』とかですかね?」

「それもない!」


 センス無さ過ぎだろ……厨二病の考えた必殺技名かよ……


「いやー、だからそういう単語は無くしましょう」

「難しいですねぇ、これも会議で決めた方がいいかもしれません」

「そうですね、皆さんで話し合って決めた方がいいですよ」

「そうします」


 シャドウは立ち上がりアタシにお礼を述べた。


「では浜田さんの事有難うございました」

「ええ、アナタに神の御加護が有らんことを」


 再びお辞儀をしてシャドウは帰っていった。



 後日『ブラックシャドウ』は社名を『ハッピーダークネスカンパニー』という社名に変更していた……社員全員センス無さ過ぎだろう……

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