懺悔其の二十七 冷気逃げるだろうが!

 あづい……地球温暖化の影響なんだろうなぁ……

 この修道女の服もクールビズにならないかねぇ、ミニスカノースリーブとかどうよ?

 無いな……しかしリアやリナなら喜んで着るぞきっと。


 さて、懺悔室の冷房はあまり利きが良くないんだよなぁ。

 まあ他の教会にゃ冷房の無いところも多いから、ウチの懺悔室はかなりマシなほうか。


「うおおおおお!!」


 なんか聞こえてきたよ……

 バターンという音共に勢いよく扉が開けられた。

 タンクトップに短パンという恰好の体格のいい男が入ってきた。


「ぉぃぉぃ、なんか暑苦しいのが来たぞ」


 この男が来ただけで、体感温度が三度は上がった気がする。

 男は扉を開けた後スクワットを開始した。


「うおおおおお!! フンスフンス!!」

「おいそこのクソ野郎! 扉閉めろ冷気が逃げるだろうが!」


 男は高速でスクワットをしながら扉を閉めた、器用なやつだなおい。

 あと最近変な行動取りながら来る奴多すぎだろ。


「うおおおお!! 申し訳ないッス」

「あとイチイチ叫ぶな、うるせぇ!」

「うおおおおおおおおお!! すまないッス!」


 あぁ、これダメなヤツのパターンだ……

 アタシはさっさと何かを諦めた。


「んで、暑苦しいお前何の用だ?」


 アタシが尋ねると、今度は腕立て伏せをしながら男は答えた。


「懺悔がしたいッス!」

「懺悔? お前なんか懺悔と無縁っぽそうなんだが」

「流石にそれは酷いッス!」

「いちいち言葉の最後を力むな暑苦しい」


 アタシがそう言うと、男は立ち上がってアタシを指さした。


「それッス! 懺悔の内容ッス!」

「は? 暑苦しいとこか」

「そうッス! 俺暑苦しいらしいので、そこを懺悔したいッス!」


 相談じゃなくて懺悔なのか?


「いや、そこは暑苦しいのどうにかしたいからって相談じゃないのか?」

「それはもう諦めてるッス!」

「諦めてるのか……」


 じゃあ仕方ないか。


「で、どんな懺悔なんだ?」


 男は腕立てを止めると。

 すくっと立ち上がり、やっと椅子に座った。

 ん? コイツなんかプルプル震えてるぞ? なんか位置がおかしい何故男が座ってるはずの椅子の背もたれ部分が見える?


「お前なんで空気椅子なんだよ! 懺悔しに来てまで体を鍛えるなよ!」

「もうこれ癖になってるんすよね」

「アタしゃ思うに、そのどこでも筋トレと喋り方に服装を少し変えるだけで随分と印象代わるんじゃないか?」


 空気椅子でプルプル震えながら男は。


「筋トレできないと不安じゃないッスか?」

「そんな変なヤツはお前だけだ」

「そうッスか?」

「そうだよ」


 本人の意識改革しないと無理かもなあ。


「なら、簡単な所で服装変えないか?」

「服装っすか……服に金かけるのって勿体なく思うッス!」

「でも、そのタンクトップに短パンってその服装が暑苦しいんだよ」


 いかにもマッシヴ体操お兄さんみたいで暑苦しい。


「このタンクトップと短パンは良い物ッスよ!」

「でもなぁ……」

「両方合わせて二十六万したッス!」


 ……は? タンクトップと短パンだけで?


「お前、さっき自分で服に金かけるの勿体ないって言っただろ!」


 言ってること滅茶苦茶だなコイツ。


「タンクトップと短パンは別モンッスよ!」

「同じだろうが!」

「タンクトップと短パン有れば、春夏秋冬全季節に対応できるッス!」

「そんなもん、お前だけだ! 冬にタンクトップと短パンだけでいいって、おかしいだろうが!」


 こいつどういう身体してんだよ。


「大丈夫ッスよ! 短パンとタンクトップで冬のシベリアに旅行したこともあるッス!」

「お前本当に人間か?」

「普通の会社の事務員ッスよ!」

「……なんだそりゃ!」


 仕事はめっちゃ普通じゃねぇかよ!


「まさか……仕事中も筋トレしてるのか?」

「そうッスよ? それ普通じゃないッスか?」

「普通じゃねぇよ!」


 これが普通ってコイツの会社どうなってるんだ?


「んー、思い返してみると……筋トレしてるの俺だけッスね!」

「思い返さなくても気付けよ!」


 懺悔からいつの間にか、悩み相談になってるけどこの際どうでも良いか。


「そもそも何で筋トレしてないと不安なんだよ」

「筋肉が衰えそうだからッスよ!」

「そんなにすぐ衰えないから」


 アタシの言葉に不安そうな顔をする男。


「ほ、本当ッスか?」

「当たり前だろうが、せめて家に帰ってからにしろよ」

「不安なんすよ」

「努力しろ、お前を見る人たちが暑苦しいって言ってるのが、申し訳ないんだろ?」

「そッス!」


 実際、この男が来てから確実に気温が上がってる気がする。

 出会った時に思ったが三度は上がってる。


「地球温暖化にも繋がるからなんとかしろ」

「うーん、わかったッス!」

「よし、どうするつもりだ?」

「一日千回やってるスクワットを九五〇回に減らすッス!」


 いや、そうじゃねぇんだよ。


「バカヤロウ! そうじゃねぇ!!」


 アタシは男に逆水平チョップを食らわせる。


「ぐほ!……え?」

「回数の問題じゃねぇ。お前がどうしたら暑苦しくなくなるかだ!」

「無理っす!」

「いや、何か手はあるはずだ」


 考えろ、筋トレせずに筋肉を鍛える方法……


 ――

 ――――


 アタシと男は十五分ほど考える……

 ん? そう言えば前にネットで観た覚えがあるぞ。


「あった! こいつだ『六パッド』振動がどうとかで腹筋を鍛えるグッズ!」

「そんな凄いモンがあるんッスか!?」

「あ、あぁ。これがあれば筋トレせずに腹筋は維持できるぞ」

「そ、そッスね!」


 男は喜びのあまり高速でスクワットをしだした。


「やめろバカ! 暑苦しい!」

「すまないッス! 科学の凄さに感動してたッス!」

「あぁ、科学すげぇな、人間工学ってヤツか? なんか違う気もするがまあいいや」


 何故かアタシと男は変な感動を感じていた。


「これで俺も暑苦しいって言われないはずッス!」

「ああ、きっと大丈夫だ、あと服装変えろいいな」

「わかったッス! 服も買ってくるッス!」

「よし、さっそく買いに行け!」


 男は頷いてその場で足踏みを始めると……


「隣町のデパートまで走って買いに行ってくるッス! 話を聞いてくれて感謝するッス! では行ってきまッス!」


 男は走って懺悔室から出て行った。


「だから扉閉めて行けよ!」


 ――

 ――――


 後に聞いた話によると。

 タンクトップにネクタイという変態的な格好していたらしい男が、今はジャージにネクタイという服装に変わったらしい。

 そのおかげか暑苦しさが体感三度から二度まで下がったそうだ。


「結局、暑苦しいままだったのね」

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