懺悔其の二十六 アタシが手伝ってやりますか

 

「はー、イジメ問題ねぇ。イジメなんてして何が楽しいんだろうねえ、弱いモン殴っても楽しかないだろうが」


 アタシは今日も懺悔室で迷える子羊達が来るのをスマホのニュースを見ながら待っている。

 学校ももう少し考えろよなぁと思いつつ記事を見ていた。


 扉が開く音がすると、タイトスーツを着た二十代半ばくらいの女性が入ってきた。


「すいません、相談事がありまして……」


 お? お客さんだ……そう言えばアタシはここに来る人をたびたびお客と言ってるが間違ってる気もするな、今更だけど。


「どうぞ、こちらへ」


 アタシは女性を椅子に座るように促した。


「それで、どういった内容でしょうか?」


 アタシがそう尋ねると、女性は沈痛な面持ちで語りだした。


「私は隣の町にある、ある学園で教師をしています」


 隣町って……あぁ、北岡や雅代がいる、あの濃い連中しかいない学校か。


「センコーでしたか」

「え?」


 いけね! 昔の癖でセンコーって言っちまった……


「いえ、何でもありません。それで教師の方がどのような相談で?」


 セクハラか? パワハラか? アルハラか? マタハラ……これは違うな ウメハラか?

 あ? ウメハラってのは梅干しハラスメンとな。シスターケイトが寝てるシスターの口にすぐに梅干しを放り込んでくるんだよ、新種の嫌がらせだぞアレ。


「どうやら、うちの学園。私の受け持ちのクラスでイジメが行われてるようなんです」

「ようなんです? なんでぇその曖昧な答えは」


 アタシはカーテンを開けると女性教師に顔を見せる。

 すると女教師は驚いた顔をした。


「あ、幕田玲奈」

「やっぱアタシの事は知ってるか」


 まあ、近隣の学校じゃ知らぬ教師はいない喧嘩番長だったからねぇ。


「さーて、元ヤンのオネーさんが相談に乗りますよ」


 まさか元有名ヤンキーが懺悔室にいるとは思ってないだろうか。


「んで、イジメがあるかもって。まずはそこハッキリさせなよ」

「……う」


 女教師はたじろいた。


「さて、どうして『かも?』なんだい?」

「こんな手紙が私のカバンに入ってまして」


 くしゃくしゃの紙だった、アタシはその手紙を広げると滲んだ文字で『助けて』ただそう書いてあった。

 きっつ……たった三文字を書くのにどれだけの勇気が必要だったのか想像できちまった。


「これ……キツイな。それでこの手紙の主は分かってるのかい?」

「はい、おそらくですが。しかし、その子に聞いても虐められてないと言うばかりで」

「ま、よくあるパターンだな。しかし、それは仕方ない部分もあるな」

「どういうことですか?」

「もう諦めちまってるのか、アンタら教師を信用して無いかのどっちかだろ」

「――そんな」


 信用なんてしてないヤツに相談なんてしないよな。シスターケイトがいたからアタシは運が良かったのかもな。


「その子はきっと、手紙以外でも何らかの形で信号を発してたんだと思うぞ。それに気付けるかは分からないが、気付けてないなら、その子はアンタら教師に失望するだけだろうな」

「……なら、私は気付けてあげられなかったんですね」

「まあ、そうだな。だけどまだ終わりじゃないんだろ?」

「はい、そう思っています」


 よし、このセンコーならアタシも少しは協力してやるかな。


「さて、んじゃアタシが少し協力してやるかね」

「ありがとうございます」


 まずは、虐めがあったという事実を確固たるものにすべきだな。


「さて加害者には目星がついてるのか?」

「……一応」

「一応か、アタシはイジメとかクダラネー事はしたことないし関わったことも無いけどさ、イジメる奴って大体は雰囲気でわからないもんかね?」

「一応は当事者と思われる子達に話を聞いても曖昧な答えしか来なくて……」


 はぁ……ま、世間体ばかり気にして無かったことにするバカより、こんな懺悔室にでも相談にくるだけでもこの教師は少しマシなのかもな。だがやり方が温い。


「当たり前だろ。お前、証拠も何もなしで犯人にお前犯罪してる? って聞いてヤッテルー! って言う奴いると思う?」

「いないですね」

「ならまず証拠集めだよ」


 ま、これも難しいんだけどねぇ。

 しかしこの教師のいる学校には凄いのがいるだろ。


「証拠なんてどう集めればいいんですか?」

「使えるモンは何でも使え、アンタの学校に凄いヤツいるだろうが」

「え?」


 教師なのに自分の学校の事しらねぇんだな。


「北岡ってヤツいるだろ」

「あ、はい。います」

「アイツ使えばいい」

「北岡君を?」


 まさか北岡があんなんだって知らないのか? アイツオープン変態だぞ。


「北岡は盗撮のプロだぞ」

「そうだったんですか?」

「ああ、アタシに知られずにアタシを盗撮してたしな」


 教師はショックを受けていた。この教師真面目だけど世間知らなさすぎだろ。

 年下のアタシの方が色々知ってるんじゃないか?


「そんな……うちの学園にそんな子がいたなんて……」


 何であんなド変態の行動に気付かないんだよ……


「事実いるんだから諦めろ」

「は、はい」

「んで、アタシがヤレつったって言えば北岡は協力してくれるだろ」

「そんな事していいんでしょうか?」

「いいんだよ! アイツは盗撮の件で懺悔中なの、人のためになる事なら喜んで引き受けてくれるっつーの」


 女教師は少しためらう様子だったが、意を決したようだ。


「分かりました、北岡君に協力してもらいます」

「ああ、どこにカメラ仕掛けるかはアイツと相談しな。盗撮スポットを調べまくってたからなイジメの現場を押さえるにゃ映像はもってこいだ」


 ただ、むやみに仕掛けるのも問題だな。


「しかし、むやみやたらと仕掛けるのも別の意味で問題になるな。ならば現場になりそうなスポットを絞ろう」

「そんなスポットあるんでしょうか?」

「あるに決まってるだろ、ケンカするにも呼び出す場所ってのはどこにでもあるんだよ」


 これはアタシの経験からくる考察だな、見つかりにくく呼び出しやすい場所はきっとある。


「んー、情報収集が得意なヤツいないか?」

「そんな諜報員みたいな人知り合いにはいませんよ」


 ん? 顔の広い学内ボッチ坂下雅代がいたな。彼女に聞かれれば答えるヤツもいそうだな。


「よし、彼女に頼もう」

「誰ですか?」

「坂下雅代だよ、芸能人の彼女に聞かれたら答えるヤツいるんじゃないかな?」

「でも、巻き込まれたら大変ですよ」

「ああ、大丈夫だろ? いま売れてる彼女にちょっかい出すのはリスキーすぎるし、もし巻き込まれたらアタシが動くから安心しな」

「分かりました、坂下さんにも頼んでみます」


 女教師はもう完全に覚悟を決めたようだ。


「証拠を集めたら後はアンタの腕次第だ」

「わかりました、やってみます!」

「アタシの時もアンタみたいなセンセがいたら良かったんだけどね」

「しかし、私も驚きました。あの噂のヤンキー少女がこんなに面倒見が良かったなんて」

「ばーか、アタシは今は迷える子羊を導く立場になっちまってるから、仕方なくやってるんだよ」


 アタシは少し照れ臭かったのでぶっきらぼうにそう言った。

 女教師は少し肩の荷が下りたのか表情を和らげた。


「ご協力感謝します。後は頑張ってみます」


 そう言って、懺悔室を後にした。


――

――――


 後日、ニュースであの学校のイジメ問題が取り上げられていた。

 イジメの主犯は学園理事の娘だったそうで。

 学校は必死にその事を隠そうとしていた、しかし証拠の画像をネットでばら撒かれ隠しきれず理事は謝罪後辞任。娘の方も顔が知られてしまい引っ越しを余儀なくされたそうだ。

その他のイジメに関わっていた生徒もキツイ罰を受けたそうだ。


 後に雅代に聞いた話だがネットに動画をばらまいたのは、女教師と北岡だそうだ。

 あの女教師も無茶したもんだな……そして動画騒動の責任でその女教師も学校をやめたとか聞いているが……


「レナさん子供たちに本を読み聞かせる時間ですよ」

「なんで、お前がうちの修道女になってるんだよ!!」


 そう、教師を辞めて何故かうちのシスターになっていた……

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