懺悔其の二十五 あぁ、罪なボク

 

 さーて、今日も張り切っていきますかね。

 そんな気分でアタシは誰かが来るのを待っていた、正直変なヤツは来ないでほしい。

 すると扉が開いた、誰か来たようだ。


「ようこそ懺悔室へ」


 入ってきたのは身長一七五センチほどの男だ白いスーツに白い靴、髪型はマッシュウルフというヤツだ。


 男は何故か突然後ろを向き、ムーンウォークしながらアタシのいる所までやってきた。

 そして一回転の後マイコーみたいにポーズ決め! ……どうしようウザイ。


「あぁ! 罪深きボクの懺悔を聞いてくれるかなレディ」

「んー、ウゼェから嫌だ」

「そう言わないでおくれよ」


 クルクルと回る、ウゼーよ。


「だー、分かったから回転するな」


 アタシがそう言った時、また扉が開いた。


「あぁ、レナはいるかい? 私の仔猫ちゃん」


 何てことだ、リナのヤツが来やがった。

 リナのヤツが歩いてこっちに来る。


「おや、懺悔の途中だったかな?」


 ん? そうだリナを巻き込むか、アタシの苦労を少しでも味わえ!


「いいや、ナイスなタイミングだよリナ」

「おやおや、レナから私を求めてくるなんて、今日はなんて良い日なんだ」

「求めてねぇよ、いいからアタシと一緒にコイツの懺悔でも聞いこう」


 なんだかんだとリナはアタシの願いには甘い。悪いが利用させてもらうぞ。アタシの精神の平穏のために。


「ふぅ、別件で来たのだけどレナに頼まれては仕方ないか」


 そう言うとリナは奥から椅子を持ってきてアタシの横に座った。

 アタシは再度男に目をやるとクルクル回っていた。いや、たまにピタっと止まって変なポーズを決めている。


「あぁ、ボクの懺悔を聞きたいレディがまた増えてしまったよ、ボクの美しさは本当に罪だな」


「……レナ、このお脳の可哀想な彼はなんだい?」

「今回の迷える子羊ファッキングシープ

「ここは精神科だったか? まあいいか、レナの仕事を手伝うとしよう」


 アタシたちのどう考えても悪口にしか聞こえない会話を聞いて男は。


「あぁ、ボクのために言い争うのはやめてくれないか」


 男の発言を聞いてたリナは感心した表情をしていた。


「彼は凄いな、空耳というレベルじゃないぞ。彼は何と会話をしてるんだい」

「ここに来る濃い連中はこんなもんだぞ」

「レナ、君は凄いな。私なら三日で嫌になるぞ」

「こいつもウザイけど、これマシなほうかも」


 リナはアタシの肩に手を置いてから首を左右に振って。


「これが神の試練なんだよきっと」


 そう言いやがった。そしてアタシとレナのやり取りを見ていた男はまたトンチキな事を言っていた。


「ああ、ボクの目の前で女性たちがボクを取り合って争っている……神よ女性を惑わすボクをお許しください」

「お前のために誰も争ってないから」

「君、懺悔にきたんだろ? 特別に私も聞いてあげるからさっさと話したまえ」


 リナが埒が明かないと判断し、さっさと懺悔聞いてこの男を帰すことにした。

 すると男は、良く分からないポーズを決めながら話し出した。


「懺悔の内容はね、ボクが美しすぎて女性を不幸にしてしまう事なんだ! ハ!」


 最後にクルっと一回転してキメ! 超うぜぇ。


「ははは、君は一回鏡を見た方が世界のためだよ」


 リナの目は笑っていなかった、リナは美に関して自意識過剰な不細工が嫌いなんだったな。

 そうなのだ、男はオブラートに包んで言っても不細工だった。

 この男を本気でイケメンと言える人は、すまないが精神科に行くことをお勧めする。


「ああ、そこのショートの君。ボクの美しさに目がくらんでるんだね」


 リナは男の顔をマジマジと見ていた。


「ふーむ、ニキビだらけで団子鼻。歯並びはガタガタ。唇はカサカサでタラコ唇……これで自分を美しいと言える事だけは尊敬しよう。そして君は法律に守られていることを感謝するといい」


 リナが言いたいことはようするに『不細工が殺すぞ』である。


「ニキビだらけで団子鼻? ハハハ、ショートヘアのお嬢さんは冗談が上手だね」


 リナは驚愕の表情で男を見た。


「レナ、コイツは何なんだい?」

「凄いだろ? たまに来るんだよ色々と全く理解しないヤツってね」

「あぁ、正直驚きの連続だよ」


 男は本気で自分をカッコイイ思っているのか、リナの言葉を全く理解してない。

 男は会話する時などにイチイチポーズを決めている、ポーズが正直かなりダサイ……

 リナはかなりウンザリ顔であった、首を振りつつ。


「これで懺悔は終わりかい? そうじゃなければさっさと懺悔して帰ってくれないか?」


 リナには悪いがアタシの苦労がこれで少しは分かるだろう。

 その後も男はクルクル回りポーズを決めつつ、自分の美しさを懺悔していた。

 コイツ、体力だけは凄いな。息一つ乱れてないし。


「いつもいつも女性がボクを見ると黄色い悲鳴を上げるのさ。でも仕方ないよね、ボクのこの美しさを見てしまえば黄色い悲鳴を上げたくもなるものさ」

「それただの悲鳴だと思うぞ……」

「存在そのものが勘違いで出来ている君ならではの懺悔だね、反吐が出そうだよ」


 こんな調子の懺悔がその後も十五分ほど続いた。

 アタシとリナの顔はげっそりとしたものになっていた。

 最後にリナのヤツが


「君の懺悔に対する罪滅ぼしはこれを見る事だよ」


 そう言って男に自分が持っていた鏡を見せると。

 男は口元を覆い。


「なんだこの醜い生き物は……美しいボクが汚れてしまう。しかしこれが罪を償う懺悔になるなら頑張って見続けるとしよう」

「……いや、これが君なんだが」


 リナの声は男に届いていない。

 一分ほどで男は泣きそうな顔になると。


「ダメだ! 見るに堪えない……あぁ、神よなんたる試練をボクに与えるのか……無理だ耐えられない! すまないが気分がすぐれないからボクはこれで失礼するよ」


 男はそう言ってまた、ムーンウォークで部屋から出て行った。


「レナ、君は本当に凄いなあんなのの相手をいつもしているなんて」


 リナはそういうとアタシを胸に抱いて愛おしそうにそう言ってきた。


「アタシの苦労が分かってくれたか?」

「ああ、とても良く分かったよ」

「そっか、ならたまに代わってくれないか?」


 アタシがそういうとリナはアタシを解放し見惚れそうな見事な笑顔を作った。


「ははは、レナの頼みでもそれは断る!」

「ですよねー」

「ああ、そうだよ。しかし今日はレナと一緒に仕事が出来て嬉しかったよ。それでは私も失礼するよ」


 リナも懺悔室から出て行った。


「……そう言えば別件の用事って何だったんだろう? まあいっか」


 こうして今日という日は過ぎていった。

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