懺悔其の二十四  ジャンボ!

 ……

 こいつは一体なんだ?

 アタシがトイレから戻ってくると懺悔室の中央で、どっかの部族っぽい黒人男性がずっとジャンプしていた。


「ジャンボ!」


 アタシに気付いた黒人男性がアタシの方を見るとジャンプしながら挨拶してきた。

 確かアフリカの方では『おはよう』は『ジャンボ』って言うんだよな?


「じゃんぼ」


 アタシもとりあえず挨拶し返してみた。

 男はジャンプしながら頷いている。


「……ジャンボ! じゃねぇよ!」

「アイサツはダイジ」

「それには同意するが、ジャンプする意味あるのかよ?」

「トテモおちつく」

「見てるアタシが落ち着かないんだよ」

「ソウカ、なら止める」


 そう言った男はジャンプするのを止めた。


「それで、ここは教会の懺悔室なんだけどどんな用事かな?」

「精霊の導き、ここにツヨきモノがいる、俺ケニアから来た」


 精霊の導きでここに来たのか? はるばる日本まで?

 精霊の導きとか怪しいもんでよく来ようと思ったなぁ。


「ご苦労様です、ですがここには強き者なんていません」

「ソンナコトハナイ、お前ツヨきモノ」


 昔のアタシの悪名はアフリカにまで届いてたのかよ。


「いや、それ昔の話なんで」

「ムカシ? オマエは言うほどトシを取ってるヨウニは見えない」

「あったりめーだ! アタしゃまだ十九だ!」

「ナラバ、ムカシなどではない」


 まあ、そらね。

 昔ってほんの少し前ですよ。


「そもそも、なんで強き者なんて探してるんだよ」


 アタシは当然の疑問をこの男性に尋ねる。


「オレたちの部族、成人のギでは獅子をタオス事になってる」

「獅子かぁ……アタシは人間だっつーの」

「シッテる、しかし最近は世論というのが獅子をタオスのはダメと言う」


 それで何故はるばる日本まで来たんだ?

 あ、精霊の導きだったな。


「獅子を倒すのはダメなのは分かった、ここに来た理由が精霊の導きなのもまあ百歩譲っていいとしよう。それで何でここなんだ?」

「獅子ではなく獅子の如くツヨきモノを倒すのがイマの成人のギとなっている」


 迷惑な儀式だな。


「そして精霊がココかこのキンリンのガッコウにいると言っていた」


 近隣の学校ってあの女学園か? あー、うん。いるわ強烈なのが。

 前に一回見た事あるけど、ナンパしてた男五名がたった四秒で地に伏せてたな。

 その際「ワタクシをナンパしたいのなら、美少女になってから出直してきなさいな」とか意味不明な事を言っていたな。

 アタシがシスターになる前だったなら喜んで喧嘩売ってたと思う。


「学校の方に行けよ」

「サイショに行ったら、警備員にトメラレタからこっちにキタ」

「そらそうだって、行ったのかよ?」

「ソウダ行ってキタ」


 無駄に行動力があるって困りものだな。


「成人の儀ってやらなきゃダメなのか?」

「ソウダ」

「ここってさ相談か懺悔しか受け付けてないんだよ、だから喧嘩ならよそ様で売ってくれないか?」


 男は考え込む、少ししてからアタシにこういった。


「ソウダンごとがある、成人の儀を成功させるにはタタカイが必要、しかも獅子のごときツヨきモノとの戦い。どうしたら戦えるカ?」


 あー、相談事として持ち掛けてきやがった……案外頭いいなコイツ。


「難しい相談ですねー」

「戦ってくれないと儀がオワラナイ、戦ってクレルマデ待ちます」

「迷惑なんで帰ってください」

「イヤダ、負けるのがコワイのか?」


 直接的な挑発に出たな? 昔のアタシになら有効だが今のアタシにはその程度じゃ通用しないぞ。


「そんな挑発には乗らないぞ」

「ヘイヘイヘイ、ビビってるー?」

「ビビるか」


 まったく、お前は野球選手か?


「イイカラ戦えよクソビッチ」

「誰がビッチだクソ野郎」

「お前だよお前、クセーンだよメスブタ」


 てかコイツ日本語上手いじゃねぇか。


「誰が臭いって? アタしゃフローラルな香りしかしねーよ」

「何がフローラルだブタ細工がよ」


 いい加減に腹が立って来たぞ、いい加減ぶっ殺すか?


「美人シスターとか言われて浮かれてるんじゃねーぞ、この脳みそコネコネ〇ンパイルが!」


 よし殺そう。


「よし、いい根性だクソ野郎。一分やるから神にでも祈っとけ。ここは懺悔室だ祈るには丁度いいだろうが」


 アタシがそう宣言すると、男は嬉しそうに笑ってやがる。


「ヤル気になったな、ソレでいい。コレで俺も儀式がデキル」


 アタシを怒らせたことを後悔させてやる、コイツに成人する日はこねぇってことを教えてやるか。


「チ沸きニク踊る、タタカイをしよう!」


 男はまたジャンプし始めた、どうやらそれが戦闘スタイルでもあるようだが。

 生憎とこの作品はバトルモノじゃねーんだなこれが。


 アタシはスタスタと男の方に歩いていく、そして男が着地する瞬間を狙って右のローキックで相手の左足を潰す、バランスを崩したところで顔面に右のストレートを叩きこんだ。


「あんびばれっつ!」


 男は意味不明な叫び声をあげ後方に吹っ飛ばされ、そのまま動かなくなった。

 散々挑発くれて獅子のごとき強き者と戦うとか言ってた割には、あっさりすぎるだろ。


「……もう終わり? よわ!」


 アタシ流石にビックリ! 計二発で終わったよ。


「うーん、コイツどうしよう?」


 邪魔だったので懺悔室の奥に放り込んでおいた、そのうち目を覚ますだろ。

 まったく、わざわざ日本にまで来て何がしたかったんだろう? あ、成人の儀か。

 男の事は後回しにしてアタシは迷える子羊の相手に戻っていった。


 後日、あの男は密入国だったらしく強制送還で国に戻っていったそうだ。

 まったく行動力のあるバカは迷惑でいけない、そう思う出来事であった。

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