懺悔其の十 懺悔だ!

 

「ふははははは! 懺悔だ!」


 行き成り尊大な男の声が懺悔室に鳴り響く。


「この我が懺悔に来たのだ! 誰ぞ出迎えぬか!!」

「うるせーなぁ、静かに入って来いよ」


 カーテンの奥からどんなバカが来たのかと覗くと……なんか大柄で厳つい男がキンピカな鎧を着て立っていた、浅黒い肌で短く借り上げた髪型、年齢は見た目からしておそらく四〇後半から五〇くらいに見える。


「おいおい、なんか凄いの来ちゃったよ。コスプレだろあれ」


 やたら偉そうな感じで男はカーテンの前まで歩いてくる。


「娘! 我が前で顔を見せぬとは何たる不遜!」

「仕事上顔見世はお断りだよ、それでここは懺悔室なんだけど何か用?」


 もう、こういった輩には行き成り素で行くことにしたよ……修道女モード疲れるんだよ。


「むぅ、仕事上なら仕方あるまい」


 男は勝手に椅子にドカっと座り腕を組み頷いている、何だよこのコスプレイヤー? キャラになりきってるのか?


「して、我はここに懺悔に来たのだ、聞いた話だが懺悔をすれば色々と赦されるとの事だな」

「いや、何でもかんでも赦される訳じゃないから、そこまで都合よく無いから。前にそう言ってここに来たオバちゃんいたけど、ソイツも許されてないから」


 最初に釘を刺しておく、前回のパチンカーオバちゃんみたいなこと言われても困るからな。


「何? 全てが赦されるわけではないのか? まあいい、我ならば赦されるであろうからな」

「仕方ないから聞いてやるけど、懺悔ってどんな内容なんだい?」


 男はうむと頷き腕を組むと。


「神よ我が罪を赦したまえ」


 態度はデカイが、懺悔の出だしは今までで一番マシかもしれないな。


「家賃の滞納で、そろそろ部屋を追い出されそうなのだ! さあ、懺悔したから赦されよ!」

「赦されねーよ! 払えよ、それで解決だよ、懺悔して家賃滞納が赦されるなら誰も苦労しねーよ」


 やっぱこんなオチだよ!!


「てか、テメーさっきから態度デケェんだよ、赦される立場の人間がなんでそんなに偉そうなんだよ」


 アタシが怒鳴りつけると、さっきまで偉そうだった男が急にシュンとする。


「あの、えっとですね。これはアニメキャラクターであるですね」

「なんのキャラかなんていいんだよ! 懺悔しに来てるのになんでお前そんなコスプレしてくるんだよ」

「えっとですね、私の趣味がですねコスプレでしてね」

「お前の趣味の話なんてしてねーだろうが、お前いわすぞ」

「はい! すいません!!」


 急に大人しくなりやがって見掛け倒しだなコイツ……


「一応なんで家賃滞納してるのか聞いてやるよ、てか何ヶ月滞納してるんだよ?」

「えーっとですね、もう半年くらいですかね。新記録達成ですよ」

「新記録達成じゃねぇよ。よく追い出されないな」

「督促状は来てるんですが、なんとか居留守で回避してますよ」


 いい歳こいたオッサンが何言ってるんだ?


「セコイなぁ、それで家賃滞納した理由は何だよ……ま、大方予想は付くけどな」


 アタシがそう言うと何故か嬉しそうな顔をして。


「ここ見てくださいこのディテール、このクオリティ。これだけ立派に作るとなるとやはり資金が大量に要りましてね」

「お前のこだわりは分かった。だが、こだわりを主張していいのはきちっと家賃を払ってる奴だけだ」

「ですから、ここに懺悔して赦してもらおうとですね」

「さっきも言ったがそういう事は赦されないんだよ」


 いいオッサンが何言ってるんだ、まったく。


「いい大人なんだし、ちゃんと働いてるならこんなことにゃならねーだろ?」

「いやー、最近バイトをクビになっちゃいましてね」

「え?」


 コイツ、いい歳こいてフリーターなのかよ……


「お前さー、懺悔室に来てないでハロワ行けよハロワ!」

「正社員になるとイベントに参加しずらくなるじゃないですか」

「やかましいわ、ダメ人間が」

「ダメ人間? なんて酷い事を言うんだ!」


 男はダメ人間と言われて怒ったようだが知ったこっちゃない、こういった輩には懺悔室らしくとことん説教せねばならない。


「酷いだぁ? お前なぁ、家賃滞納の方が数倍酷いだろうが。いいか、お前が家賃を滞納してるとアパートのオーナーの稼ぎが減るんだぞ分かってるのか?」

「分かってるよ、それでも払いたくないんだ!」


 開き直ってるし、本当にここに来る奴は懺悔する気ゼロだな。


「いいから払えよ、部屋追い出されるぞ!」

「アンタは誰の味方なんだ!」

「確実にお前の味方じゃねぇよ!」


 どうやったらアレで味方になってくれると思うんだよ。


「今いる部屋追い出されたら四部屋目になるんだよ!」

「もう三ヵ所から追い出されてるのかよ……」


 きっとコイツ、ブラックリストに入ってるぞ。

 しかし、どうしようもねぇなコイツ。なんかここに来る奴ら見てると、アタシってヤンキーだった頃でもこいつ等より随分とましだったんだな……


「もう、いいから帰ってからハロワに走れよ」

「いやでござる!」


 男がそう言い切った所で扉が開き、ランボーみたいなオバちゃんが入ってきた。


「ちょっと、金三カネミさんここにいたんですか」

「げぇ! 大家さん!!」


 アレ大家さんかよ……弓でヘリでも落としそうな大家だな、よくあの大家相手に家賃滞納しようと思ったな。あのオッサンも身長高いがそれよりさらに高いぞ。


「滞納してる家賃について話し合いましょう」

「どうしてここにいると分かったんだ?」

「金ぴかの鎧着たオッサンが教会に向かったって、目撃情報がありましてね」


 あー、まあ、そらバレるよなぁ、目立つもん。


「うわー、離せ、離してくれー」

「いいから行きましょうか」


 ランボーオバちゃんが片手でオッサンを掴むとそのまま引きずっていく。


「うわーーー、シスター助けてー」

「いやだよ」


 アタシは即答した、あのオバちゃんは敵にしちゃいけない部類だ。


「では、シスター失礼しますね」

「いえいえ、お構いなく」


 オバちゃんはアタシに挨拶して去っていく

 あの大家相手に半年も滞納してたのかよ、アイツ勇者だったんだな……尊敬できないけど。


「やはり、人間真面目に働かないとな」


 アタシはそう呟くと次の迷える子羊を待つことにした。

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