懺悔其の十一 有名になりたいんです!

 今日の迷える子羊は。

 二〇代前半位の男性だ、中肉中背で身長は一七〇くらい、髪型は……あーあれだ韓流アイドルがしてるような感じのナチュラルショート。そして黒縁眼鏡をかけたどこにでもいそうな兄ちゃんだ。


「悩み事ですか? わかりました、では悩み事をお話しください」


 普通の客には修道女モードだぞ。

 アタシに促されて男が話し出す


「有名になって広告料で生活がしたく思いまして。僕は今ピーチューブで動画を投稿しているのです」」

「……ええ、それで」


 はい、もう嫌な予感しかしない。


「ですが全然人気が出ず、未だに鳴かず飛ばずの状態なんです」

「そうですか」

「それでですね、何か人気が出そうなネタは無いでしょうか?」

「自分で考えろ」


 自称神のオバちゃんを思い出す相談だなこれ


「色々やってはみたんですよ」

「いや、だからそういうのは自分で考えろよ」

「コーラにメントス入れる動画とか」


 コーラにメントスとか……そんな使い古されたネタで人気なんて出るかよ。


「そんなもんで人気出るか! 頭使えや」

「ですよね。それで次はデパートのトイレの水でインスタント味噌汁作ってみたって動画でしたが、コレもダメでした。洋式トイレにたまってる水で味噌汁作るだけの動画だったんですけどね」

「バーカ、味噌汁作るだけで人気出るかよ、その味噌汁飲んだら人気出たかもな……って、おい! デパートの清掃員に謝って来い!! お前典型的な迷惑ピーチューバーかよ、相談じゃなくて懺悔しろや!」

「何で懺悔しないといけないんですか、相談にのってくださいよ」


 そもそもトイレの水で味噌汁作る動画のどこに需要があるんだよ。

 コイツ見た目以上にクレイジー野郎かもしれんな。


「それで味噌汁の次にやったのは、バイト先のコンビニのアイスクリーム用冷凍庫に入って横になって寝るだけの動画だったんですけど、これは味噌汁以下でしたね」

「それバイトハザードだろうが、懺悔室なんて来てないで自首してろ」

「しかも、その動画をオーナーに見られてクビになっちゃったんですよ、心の狭いオーナーですよね」

「お前の常識の狭さの方が怖いよ」


 二番煎じ三番煎じだし迷惑かけてるだけでオチも何もないし、人気になる気無いだろこいつ。


「お前さ二番煎じばっかでしかもオチも何もないし、そんなんで人気出ると本当に思ってるのか? 思ってるならやめちまえよ」

「なかなか厳しい言葉ですね、僕もそこまで甘い考えはしてませんよ。なのでその後にはもっと過激でハードな動画に切り替えましたよ」


 行けない、これ以上は犯罪臭しかしない!


「個人的にはかなり傑作だと思ったんですけどねダメだったのが、ベビーカーに乗った赤ちゃんをベビーカーごと坂で走らせるってやつなんですよー、でもこれもダメでした……ぶべら!!」


 このバカが喋り終わるよりも先にアタシの拳がこのバカの顔面を捕らえた。 素顔を晒すことになったが気にしない。

 アタシの拳でバカが数メートル吹っ飛ばされる。


「お前! ふざけんな! やっていい事と悪い事の区別もつかねーのか!! そんなもんで出た人気ならクソっくらえだ!」


 こいつは今ここで止めないと、そのうちとんでもない事しでかすぞ。

 男は頬をさすりながら戻ってきた。


「いたた、行き成り酷いですね」

「うるせー、もし赤ん坊になんかあったらお前どうするんだよ」

「これと言って何もなかったからいいじゃないですか」

「うるせー、こういう事を結果論で語るんじゃねぇ! ぶっ飛ばすぞ」

「いまさっきぶっとばされましたよ」


 どうも反省の色が見られないなコイツは。


「いいか、人に迷惑をかけないで健全な動画作りにしろ」

「そんなんじゃ数字取れないですよ、ベビーカーの次にやったのが、バナナの皮で人は本当に転ぶのか? なんですよ」

「バナナの皮で人は本当に転ぶのかだと? 絶対にロクでもないだろ」

「横断歩道を渡ってる老人をバナナの皮で転ばせるって動画だったんですよ、これは少しだけ人気出たんですけど思ったほどじゃなかったんですよね――うぼあ!」


 アタシの拳がこのクソバカのボディにめり込む。

 クソバカは腹を押さえて呻いている、それでケガでもしたらどうするつもりなんだコイツ。


「神はおっしゃったバカの腹に拳をめり込ませろと、鉄拳制裁だ」

「うぅ……皆が楽しんでるなら……いいじゃないですか」


 ピーチューバーのこの思考が危険でいけない、『皆が喜んでいる=正義』だとでも思っていやがる。


「てめぇみたいなピーチューバーは健全にやってる人たちの迷惑なんだよ」

「じゃあ、どうすれば人気出るんですか……ゲホゲホ」


 アタシは少し考えると、このクソバカに思いつくアドバイスをしてみる。


「ゲーム実況とかはどうなんだよ、実況系はアタシもたまに見るけどアレなら迷惑はかけないですむぞ、センス次第で人気は出る」

「えー、ゲームぅ? 地味じゃないですか。昔一回やったけどダメでしたよ」

「一応聞くけどどんなゲームでやったんだよ」

「舛添洋〇の朝までファミコン」


 どうせそんな事だと思ったよ! そんなゲームの実況動画、需要……ゼロではないだろうが殆どねーよ!


「お前、だからバカだろ。ゲームのチョイスおかしいだろ。なんで舛添〇一の朝までファミコンなんだよ! あれタイトルの割には舛添ほとんど出てこないだろうが、しかも子供向けじゃないニッチな内容のアドベンチャーだぞ、もっと流行ってるタイトルにしろよ」

「仕方ないじゃないですか、僕ゲームってそれしか持ってないんですし、しかもファミコン互換機ですし」

「もうさ悪いこと言わないから、お前ピーチューバーやめたら?」


 アタシの声に死刑宣告を受けたような顔をするクソバカ。


「い、いや。 まだ昨日投稿した動画があるんですよ、これ次第でいけますから」


 クソバカはスマホを操作して動画をアタシに見せる、そこに映ってる動画と言うと……最低なものであった。

 クソバカが裸の上にコート一枚だけを羽織り、女性の前に飛び出しコートの前を広げるという内容であった……


「へへへ、どうですか。今までに無いでしょこんな動画」

「……」


 コイツは塀の中で反省させるべきだろう、アタシは無言でクソバカに当身を入れる。


「うっ……何を……」

「お前は人気者には絶対になれないよ……塀の中でよく考えるんだ、それが神の慈悲だよ」


 アタシは男のスマホを操作すると警察を呼んだ。

 暫くしてクソバカは警察に連れていかれた。


 後に知ったことだが、どうもアイツは迷惑行為動画の常習犯だったようだ。

 いま、若い子の中で人気のピーチューバーだが、色々と考えさせられる内容の迷える子羊だったなぁ。


 そもそもピーチューバーって職業として成立してるのか?

 成立するならクソみたいな動画一本でも挙げて、ピーチューバーですって名乗れば世の中にニートはいなくなるよな?

 ああいったバカを見ると真面目に働けよって思えるなぁ。

 そんな真面目な事を考えさせられる相手だったよ、はぁ……別の意味で今日は疲れたなぁ。


 さーて部屋に帰ってドクタペッパーでも飲もう。

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