懺悔其の八 うち教会なんですけど

 

「あー、毎日が日曜日ならいいんだけどなぁ、まあ修道女には日曜とか関係ないけど」


 そんな事を呟きながら、ダラーっと椅子に座っていつも通り迷える子羊が来るのを待っていると、懺悔室の扉が開いた。

 何だかんだと毎日誰か来るなぁ、世の中不景気なのがいけないんだろうなぁとアタシが考えていると扉を開けて一人のオバちゃんが入ってきた。

 正直オバちゃんに良い思い出が無いんだよな……まあ、こっちも仕事だから相手でもしますかね。


「迷える子羊よ本日はどうしました?」


 アタシが修道女モードに入って迷える子羊ファッキンシープであるオバちゃんを迎えると、オバちゃんががさごそとカバンから何かを取り出した。

 それは小さな本だった、革製の手帳にも見えるが聖書のようでもあった、聖書を持ち歩くとは熱心な信徒のようだな。


「アナタは神を信じますか?」


 はい? 何言ってるんだこのオバちゃん?


「え?」


 アタシが聞き返すと、オバちゃんは少しムっとした表情で再度同じことを言った。


「アナタは神を信じますか?」


 このセリフをまさか教会で聞くことになると誰が予想できようか? いやできない(反語)

 まさか教会の懺悔室に勧誘に来る猛者がいるなんてなぁ……世の中広いな。


「オバちゃんさー、ここが何処だか分かっての発言かい?」


 ……自分で言っててなんだが、ヤクザの事務所にいるチンピラみたいな発言になってしまった。


「ここが何処かだなんて些細な問題です! 貴女は神を信じますか?」

「アタシャこう見えてもシスターだよ神様シンジテルヨ、これでいいか?」


 本当に勘弁してほしいヤツが来たなぁ……変な人来る確率高すぎでしょ、うちの教会。


「貴女の信じる神とはなんだ? バモイド……」

「わー! わー! マジでやめろよその手の発言!!」


危険な発言をしようとするオバちゃんをアタシは慌てて止める、そういう発言マジで勘弁な。


「私の発言を遮るなんて! この邪教徒め!」

「うるせー! 誰が邪教徒だ!」


 いきなり邪教徒呼ばわりとか失礼なオバちゃんだ、するとオバちゃんは急に頭を振り被り少ししてからアタシの方を睨みつけてきた、しばらく睨んでいたと思うと今度は恍惚とした表情を浮かべて。


「我が神以外は認めない、我が神こそ至高の存在!」


 恍惚の表情でヤベーこと呟きだしたぞ……宗教ってコワイワー

 それよりこのオバちゃんどうしよう?

 恍惚の表情で呟いてたオバちゃんが我に返ったのか真顔でアタシの方を見ると


「さあ、神である私を信じ崇め奉りなさい」


 ん? あれ、なんか自分が神になってないか?


「てか、お前が神なのかよ!」


 思わずカーテンを開けてオバちゃんに突っ込みを入れてしまった……このオバちゃん会話にならないぞ。

 うわー、オバちゃん目がイっちまってるよ、これ救急車呼ぶべきかなあ……

 オバちゃんは両手を広げ上に伸ばすと上を向き。


「おお、私は神だ私だけを信仰せよ!」

「うわぁ……」


 どうせいというんだ、この人……言葉のキャッチボールができない状態じゃないか、元々キャッチボール出来てないけど。

 オバちゃんなんかプルプル震え出してるよ。


「とりあえず落ち着けよ、ここ教会だからさぶっちゃけアンタお呼びじゃないんだわ」

「何故だ! 何故私を認めない! 私と言う神を信じないのだ」

「だって普通に怪しいじゃん、自分を神だとか言ってる危険人物なんてさ」

「オーウ、アヤシクナイデスヨー、ワタシゴッドヨ」

「分かったから、もう帰れよ」


 もうこれ説教でも悩み相談でもないから帰りたい……


「嫌だよ! 信者欲しいんだよ」

「諦めろよ、アンタ危ない人にしか見えないから、しかも勧誘しに来る場所間違ってるからさ」

「じゃあ、どうやったら信者増やせるんだよ」


 くあー、急に悩み相談になっちまったけど正直関わりたくない……


「んー、まずはさ信仰の押し売りやめたら? 他には神なら神らしくするとか神の奇跡を見せるとか」

「神の奇跡……有りね。 どんな奇跡が良いかしら?」

「え? どんなって凄い奴が良いけど、何かできるの?」


 オバちゃんは額に指をあてて考える、少しすると指を放して提案してきた。


「私ねぇ活舌が悪いのよ、それで早口言葉が言えないのだけど、それとかとかどう?」

「イインジャネッスカー」


 奇跡でもなんでもないし、自慢もできない。


「まあ、神ならこれくらいは朝飯前ですからね」

「早口言葉が言えないからって、何ができるわけでもないし自慢にもならないよな」

「褒めるんじゃないよ」


 本人褒められてると思ってるのか? 自称神の思考は意味が分からない。

 取り合えず相談には乗ったんだしさっさと帰ってほしい。


「よし、やること決まったなら帰れ」

「何言ってるんだい、次はどこで神の奇跡を見せればいいんだい」

「知らないよそんなこと、今の時代ならピコピコ動画とかピーチューブにでも投稿しとけよ」

「最近流行の動画サイトだねそれは良いアイデアかもしれないね」


 マジかよこのオバちゃん、マジでやるつもりか? バカにされるのがオチだぞ……


「で、どうやって投稿すりゃいいんだい? アンタも私の信者一号なんだし考えなさいよ」

「一号じゃねぇよ! あとそういうのは自分で調べろよ、自称神なんだろうが」

「なんだいケチだねぇ……」


 オバちゃんはブツブツ言いながら携帯を弄りだした、ここで調べるなよ帰って調べろよ。

 本当に帰ってくださいマジで。


「イマイチよくわからないねぇ、まあ何とかなるか」

「あー、適当にやってりゃどーにかなるって」


 アタシはすでに面倒になってたので適当に相槌を打っておく、するとオバちゃんは


「まあ、そんなもんだよねぇ」


 そう呟きながら腕時計に目をやると

 そそくさと聖書を……あれ良く見ると家計簿じゃねぇか! 家計簿をカバンにしまいだす。


「あー、まったく信者獲得できないのにスーパーの特売時間じゃないか、まったく教会にこれば信者獲得できると思ったのにとんだ無駄足だったよ」

「しらねーよ、そっちが勝手に勘違いしてここに来たんじゃないか」

「あー、はいはい。まあ、動画で神の威光を示すってアイデアは有りだねそこだけは感謝するよ、ほんじゃあ、帰るわ」

「もう来るなよ」


 オバちゃんは何故か両手を天に向け歩いて懺悔室を出て行った


「オバちゃんやっぱ怖いわ……」


 その後しばらくしてオバちゃんは、ピーチューブでフォロワー百万人を獲得するほどの人気ピーチューバー『ゴッデス神代』として一躍時の人となった……だがそれはまた別のお話だね。


「はぁ……今日も疲れた、アタシも帰るか」


こうして今日もなんとか無事に一日を終える事が出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る