懺悔其の七 レナとリナ

 

「……」

「……」


 シスターケイト、本日の迷える子羊ファッキングシープは少々厄介です。


「てか、お前が何でここに来るんだよ!!」

「いいじゃないか、私と君の仲じゃないか」

「帰れよ」

「つれない事を言うじゃないかマイシスター」


 アタシはカーテンを開けて直接怒鳴りつけた。


「仕事の邪魔なんだよ! リナ!!」

「怒った顔もキュートだね、レナ」


 アタシの目の前にいるコイツの名前は『聖方里菜ひじかたりな』アタシのいる教会で働くシスターの一人、少々芝居かかった喋り方をする変な女だ。

 色が白く女のアタシでも見惚れそうになる、見た目だけはまさに美女。

 背は高く、艶やかな青みがかかった黒髪のショートヘアが悔しいが良く似合う。

確か元・紫貝塚歌劇団の蟹組で最年少デビューをはたし一時期大人気だったが、女のくせに女癖が悪くスキャンダル続きで、たった一年半で引退した経歴だったはず……ヤッパこいつ最低だな。

 見た目は中世的な美人だが騙されてはいけないコイツは変態である。

 可愛い物や綺麗なものが大好きなのは、女性としてはおかしくないが度が過ぎているのだ。

 それはもうヤバイレベルで。うちの教会の近くにある、お嬢様学校に通っている名物お嬢様と良い勝負の変態だ。


「とにかく、帰れ」

「私の話し相手になってくれるなら帰っても良いよ」

「嫌だから帰れ」

「あぁ……、やはりレナは良い。私の女神様だ……」


 恍惚な表情でねっとりとした視線を浴びせてくる……殴りたい。


「そうそう、レナに伝えておこうと思ったことがあってね」

「あ? 別に明日でもいいだろ」

「私がレナの顔を見たくなったから、今の時間に来たんだよ察しておくれ」

「……もう、頼むから帰れ」


 アタシの声を無視してリナがスマホを弄りだす。


「スマホ弄りに来たのなら帰ってやれよ」

「馬鹿だな私が本当に弄りたいのは、レナのたわわな丘にある可愛いサクランボさ、それか秘密の花園にある……」

「ワーワー! お前何言いだすんだマジで殺すぞ」

「まったく騒がしいな君は、そんなところも可愛いんだけどね」


 そんなやり取りをしつつもリナは何かを調べていると、目的のものが見つかったようでスマホをアタシに見せた。


「これなんだよ、リアが教えてくれたんだけどね。リアは見た目はキュートなんだけど、ぶりっ子だし実は年齢がねぇ……」


 リアとはリナと同じでうちの教会で働くシスターの一人だ『江浦莉愛えうらりあ』というぶりっ子ちゃんだ、変態ではないがかなりウザい、あと実年齢にふれると怒る。


「お前のリアに対する感想はどうでもいいんだよ……ってこれアタシじゃないか」

「ああ、実は密かにこの懺悔室の事が噂になりだしてるんだ。その元凶がこのブログのようでね」

「ブログだと」

「ああ、『ノースヒルの街で見かけた美少女』というブログだよ、いやー私がこんなブログをチェックしてなかったとはねぇ……おや? 私のことまで紹介してるじゃないか、ミドリムシ教会の美少女リナレナコンビだってさ、嬉しい紹介のされ方してるじゃあないか」


 街で見かける美少女を紹介するブログて書いてやがる、しかしド直球なブログ名だな。

 あと改めて聞くとうちの教会の名前おかしいだろ『ミドリムシ教会』って意味が分からん。


「ノースヒルという名前のブロガーでね、最近この界隈で急激に人気が出てきたブログだよ」

「ノースヒルねぇ……ん?」


 ノースヒル? なんか最近似たような意味の単語を聞いた気がする。


「しかし、よく調べてあるな。正直気持ち悪いぞ、そう思わないかレナ」

「お前と良い勝負だな」

「一緒にしないでくれたまえ」

「まったく、盗撮か……あれ? 盗撮と言うワードも最近聞いたぞ」


 先週だったか先月当たりだったな、アタシが記憶をサルベージしているとリナがとんでもないことを言い出した。


「ノースヒルか……これはアレだ本名じゃないか?」

「外人が犯人という事?」


 アタシの答えを聞いたリナはフフっと笑う、似合うのが腹立つ。


「まったくレナは、君が今日穿いているショーツのデザイン並みに可愛い答えだね」

「どこで見てた!!」

「まあまあ、ネットに本名を名乗る者はまずいないよ」

「た、確かにな」


 まあ、リナの言う通りだな。アタシだって本名は使わないし『猛毒聖女』を名乗ってもないぞ


「そうすると、単純にこのパターンが多いだろう、自分の名前を英語にする」

「確かにあり得るな、そうなるとノースは北か」

「そうだね、そうなるとヒルは……丘だね」

「単純に言えば北丘ということか」


 北丘かやはり最近聞いたことあるなあ……


「ん? 北岡だろ? 思い出した!!」

「どうしたんだい?」


 アタシは少し前にやってきた危ないラブレターを書こうとしてた女子学生を思い出した。

 アタシは思い出したことをリナに話しす。


「少し前にここに恋愛相談に来た女子高生がいてな」

「レナに恋愛相談? それはまた……なんというかねぇ」

「アタシだっておかしいと思ってるよ」


 アタシはリナにこないだの女子高生の事を話した。


「確実に北岡って男が盗撮魔だろうね」

「ここに来て北岡か……正直危ないヤツだから相手したくないなぁ」

「しかし盗撮魔か、レナのあんな写真こんな写真……けしからんな」

「お前の思考もけしからんわ」


 だがこれは注意しとくべきだな

 ここのシスターは美人ぞろいとしてそこそこ有名なようだしな。

 ただまあ、ここのシスターって変人ぞろいで元問題児ばかりでもあるんだよなぁ、アタシも含めてな。


「とりあえず北岡って奴には注意だな」

「マリアさんが動かないことを神に祈ろうか」

「あの人が動いたら洒落にならねぇからな」


 マリアって人がいるが……この人はやばい、元イタリアンなマフィアだから困る、何でそんな人がシスターやってるのか分からんが、正直怖い。

 さて、何だかんだと話し込んでしまったな。


「おい、リナ割と話し込んじまったからそろそろ帰れよ」

「ふむ、そうだね仕方ないか。おっと、どうせだから最後に懺悔をしておくよ」

「えー、お前の懺悔とか聞きたくないし」

「まあまあ、いいじゃないかそれが君の仕事だ」


 どうせくだらない事だぞ、仔猫ちゃん達がどうとかこうとかの。


「二日前に冷蔵庫に入っていた牛乳プリンを食べてしまったのは私です。主よ許したまえ」


 ん? こいつ今何て言った? 牛乳プリン?


「アレ食ったのテメェかーーー!! あれ小松屋の限定三十個販売で買うのに苦労したんだぞ!!」


 アレを買うのにアタシは朝一から並んでたんだぞそれをコイツは。


「だ、だから懺悔をしているのさ」

「いいや、神が許してもアタシが許さん! ぶっ殺してやる!」


 アタシはリナに掴みかかるがコイツもすばしっこいんだ、アタシの手をするりと躱すと扉の方に走って逃げていく。


「くそ! 待ちやがれ!」


 アタシが叫ぶとリナは手をヒラヒラと振って


「今宵は楽しかったよレナ、牛乳プリンのお礼は今度するから許しておくれ。ではアデュー!」


 そう言ってリナのヤツは扉から出て行った。


「くそ、何なんだよアイツは全く」


 はあ、今日もあの馬鹿リナのせいで無駄に疲れた一日になったな……帰って風呂入ろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る