懺悔其の六 恋文よ君に届け

 

 さあて、困ったぞ。


 今日の迷える子羊ファッキングシープの相談は危険だ……恋愛相談とか、アタシに恋愛経験があると思うか?

 つっても、カーテンの向こうの相手はそんな事知らないか……


「シスター、お聞きします。 北岡君の好きな物ってなんでしょう? どうしたら私に振り向いてくれるのでしょう?」


 声が小さい……ボソボソと喋るし早口だし……最近流行の淫キャってやつ? あ、違った陰キャだった。

 アタシはカーテンの隙間からチラっと相談相手の少女を見る、前髪で目が隠れておりソバカス顔、失礼だがそこまで可愛い子ではないし……正直、典型的な根暗な女の子だわ。


 虐められてそう、と失礼な事を考えちゃうタイプの女子だわ。

 で、北岡ってのが彼女の意中の人の名前っぽいが……北岡なんてアタシは知らないっつーの!


「すいませんが、私は北岡君を存じませんので答えられません」

「なんで北岡君を知らないんですか!」

「ぇー、んな無茶苦茶な」


 行き成り叫んだぞこの子……情緒不安定? しかも理不尽な事で怒鳴られたよ、北岡なんてしらねーし。


「何故、怒鳴るのかなぁ。アタシはアンタの級友でもないんだし北岡なんて知らないよ」

「あ、すいません。怒鳴ったりして……」


 恋愛相談を懺悔室に持ってくるって発想もどうかと思うんだが。


「あのさー、何で恋愛相談を懺悔室に相談しようと思ったわけ? いや、まあ、確かにここで相談事も受け付けてるけどねぇ、しかし自慢じゃないけどアタシはモテたことないよ」

「嘘言わないでください! 私、貴女の事を知ってるんです。この写真は貴女ですよね?」


 カーテンの下からスマホが差し出されると、そこにはアタシが写っていた……盗撮か、アタシなんて撮ってどうするんだ?


「あー、それ確かにアタシだけど……それどうしたんだ?」

「北岡君のスマホに入ってた画像です」

「盗撮写真か……北岡の野郎アタシを撮ってどうするつもりだ?」

「北岡君はいつもこの写真を枕の下に入れて寝てるそうです、そうするとシスターの夢が見れるんだとか言ってました」


 ぇー、キモイんですけど、アタシのどんな夢見てんだよ……


「えー、やめてほしいんだけど」

「それはこちらのセリフです! シスター、貴女が北岡君を誘惑したんじゃないんですか?」

「顔も知らないヤツ誘惑するとか、アタシャ一体何なんだい?」

「アバズレ?」


 ……


「……あ? お前殺すぞ」

「ヒィ!」


 誰がアバズレだこのアマ、喧嘩売ってるのか?

 カーテン越しにメンチを切る、この辺は衰えちゃいないなって、つい最近まで現役だったんだよなぁ


「ひぃぃぃぃ! すいません、ごめんなさい、ゆるしてください」


 涙声で必死に謝りだしたぞ、なんなんだコイツ。


「それはそうと、北岡はどこでアタシの写真を入手したんだ?」

「確かこの教会で撮ったとか言ってた気がするわ」

「完! 全! に盗撮じゃねぇか!」


 今度、北岡らしき奴を見かけたらボコるか。

 そしてそんな盗撮魔のどこがいいんだろう……


「聞きたいんだが、北岡って盗撮魔のどこがいいんだ?」


 アタシがそう尋ねると、少女はうつむいて少ししたら顔を上げると


「そうですね! ローアングルにかける情熱が素敵です! あの獲物を狙うような鋭い目つき……ああ、今思い出してもゾクゾクします」

「……ぇー、他には?」


 北岡変態じゃん……しかもそれがいいってどんなセンスだよこの女。


「そうですね、良く階段下のシャッタースポットを真剣に探しているあの表情も素敵です」

「……どゆこと? それのどこがいいんだ?」

「え? 北岡君の良さが何でわからないんですか!」


 何故か怒鳴られた、少し泣きたい。


「他に沢山良い所があるんですよ! 改造自撮り棒を作ってる時の凛々しい横顔や、スライディングの練習をしてるさわやかな汗、周りに誰かいないかを確認する時のゴルゴ〇3のような鋭い眼光、ソリッド蛇顔負けの潜入スキル、どれをとってもカッコイイじゃないですか!!」

「いや、マジでさ警察に突き出そうぜソイツ」


 良い所を聞けばと思ったが……聞けば聞くほど何故好きになったのか謎で仕方ない。

 恐いがきっかけを聞いてみるか?


「アンタが北岡に惚れたきっかけって何だ? 恐いもの聞きたさで聞いてみるよ」


 何故か嬉しそうにニターと笑うと。いやさマジで表情がニヤーってなってて怖いんだけど。


「あ、それ聞いちゃいます? えへへー」


 えへへー……イラっとしたぞ。


「あれはですね、去年の話なんですけどね」


 嬉しそうに語りだしちゃったぞ、アタシ少し後悔。


「その日は私が部活動で、ネコの死体を探してたんですよ」


 ネコの死体……はぁ? そんなもん使う部活ってなんだよ!


「待て待て待て! お前、何部だよネコの死体なんて何に使うんだよ」

創作料理黒魔術同好会です」

「絶対に嘘だ! ネコの死体使う創作料理とか頭おかしいだろうが」

「だって、そうでもしないと学校の許可が下りないんですもの」

「……もういいや、諦めた。で、続きは?」


 アタシは突っ込んだら負けなのを悟り先を促した。


「それで、ネコの死体を求めて歩いていたら『きゃー!盗撮魔!』て叫び声と共に凄い音を立てて私の前にぶっ飛ばされて飛んできたの、その見事なぶっ飛ばされ方にキュンときちゃったのよー」


 ……どうしよう、想像以上に意味が分からない。


「そ、そうか……実に意味の分からない、クソッタレ以下の理由である意味安心したよ」

「素敵だなんてヤダー」


 アタシがヤダーだわ……


「まあ、とりあえずさ。北岡に手紙でも送ったらどうかな? ラブレターってやつ、古典的だけど今の時代だからこそ、伝わることもあると思うんだ」


 アタシは心底どうでもよくなったので適当なアドバイスをしておく、すると想像以上の食いつきだった。


「それだ! シスターそれは良い考えです、さっそく道具を集めないといけない」


 道具ってペンとレター用の紙だけでいいんじゃないの?


「まずは、私の髪の毛にヤモリ、ニワトリの生き血……ブツブツ」

「……ラブレター?」

「当然ですよ!」

「あ、そう……ですか」


 ラブレターじゃないよなその材料、どう考えても呪いや変な儀式の材料だよな……

 まあ、盗撮魔に変人の恋人ならお似合いかもな、これで盗撮が防げるならアタシは良い事をしたことになるな。よし、それで納得しておこう!


 アタシがそう納得していると少女は立ち上がりアタシに頭を下げると


「それでは私はラブレターを書くのに必要な材料の調達に行きます! シスター助言ありがとうございました!」


 あいつ最後まで早口だったな……こうしてアタシは悪夢から解放されたのであった。

 マジで疲れたよ……

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