夢のつづき


精霊の王であるサクヤは、私が想像していた王とは違い、とても気さくで好奇心の塊だった。

私がこれからしたいと思っていることを語れば、それはなんだ?どういったものなのだ?と興味をもち、作ったら見せろ、食べたいと言うくらいだ。

「でも、小豆や抹茶が手に入るかまだ分からないわよ?」

「我も探してみる。似たものを見つけたらお主に持ってこよう」

「本当?!」

「うむ、そうすればドラヤキとやらが食べられるのだろう?」


そんなに気になるのか、どら焼きが。


どこかわくわくとした様子のサクヤが子供のようで、つい笑ってしまったが彼は気にした様子はなく、私の知る日本のお菓子の情報を強請ってきた。


やはり、食は国や種族を超えるのね。


だからこそ、私の話に興味を持ち話しかけてきたのだろうが。

それからどれくらいそうやって話していたのかはわからないが、月の角度が変わる頃に彼は私を部屋に送り届けてくれた。

その時にまさか王様自ら抱き上げてくれて、なおかつ空を飛ぶなんて思わなかったのでとても驚いたが、それ以上に興奮した。


「うわぁ……っ!」

「しっかり掴まってろ」


ぎゅっとしがみつきながら空を見上げれば、先程よりも近い場所に星が見えてとても気持ちが良かった。


空を飛ぶなんて!!まるで夢みたい!!


憧れだったひとつが、思っていた方法とは違うけれど叶ったことに私は嬉しくてずっと興奮したようにすごい、すごいと言っていたと思う。だけどそれにもサクヤは呆れることなく、付き合ってくれた。

「そんなに楽しいか」

「楽しいわ!だって夢だったから」

空を飛ぶこと、魔法を見ることが。

叶うことがないと思っていたことが叶い、すごく嬉しかった。

そんな私の様子に彼は目を細めると、まるでピーターパンのように軽い動作で部屋の窓から中へ入り、ベッドの上におろしてくれた。

「ついたぞ」

「サクヤ、ありがとう」

「これくらい構わん。なにかあればすぐに呼べば良い」

お主の元へ駆けつけるから。

そう言ったかと思うと、次の瞬間にはふわりと空気に解けるようにその姿は掻き消えてしまい、追いかけるように窓の外を見渡しても、その姿はどこにもいなかった。

「ありがとう……」

本当に、ありがとう。

星に願うように、月に感謝するようにそう告げて私はベッドへと戻った。すると今日の疲れが出たのか、一気に眠気が襲いすぐに意識は途切れた。






それから目が覚めて、私は部屋に籠っていた。というか半分軟禁されている。

父様と兄様の過保護が爆発した結果なのだけど。

「今日はゆっくり休みなさい」

「え、でも・・・」

「何かあったらすぐ俺を呼ぶんだよ」

「あの、兄様?」

そう言ったかと思うと慌ただしく出ていってしまった2人の姿に何かあるのかと母様に尋ねれば、母様はうふふ、と可愛らしく微笑んでいる。

「あの、母様?」

「アーシャが気にすることはないわよぉ、ちょ――っと2人ともお話をしに行ってるだけだから」

それはどこに?と聞きたくなったが、なんとなく聞かない方がいい気がしたので、私は大人しく母様と朝食をとった。


ふわふわのフレンチトーストはとても美味しかったです。


だからこれ幸いと私は部屋で好きなことをしていた。

使用人たちにも父様が何か言ったのか、少しでも外に出ようとすればすぐに誰か飛んできて、ゆっくり部屋でおやすみください、なんて言われるものだから私は病人か、と言いたくなったがお嬢様レッスンも講義もない日は久しぶりなので、有難く休ませてもらうことにしたのだ。

カリカリと最近描いていなかった絵本の下絵をスケッチブックに描き進めながら、どうやれば絵本文化が浸透するだろうかと考える。

女の子なら、お姫様の本はきっと好まれるだろうし、男の子だって冒険ものやヒーローが出てくる話なら読んでくれるだろう。

だけど、それを広めようと思うとなかなか難しい。この世界で本と言えば活字しかないものか、地図や図鑑だ。絵だって、可愛らしいイラストなどではなく、写実的なものがほとんどだ。

私が描く簡略化した絵や目がぱっちりした少女漫画タッチの絵なんて、見た事がない。絵だってイラストではなく絵画になるしね。日本人形と着せ替え人形くらい差がある。

だからこそリリアや母様は私が描いたイマイチ画力の足りないお姫様を見ても、目が大きくてとても可愛いと褒めてくれたのだろうが。

もし製品化するようになったら、挿絵は別の人物に頼むようになるだろうが果たして私がイメージしている絵が描けるのだろうか。

その前に絵本を手に取ってくれるだろうか。知らないものを前にして、手に取るのはかなり難しいだろうから、まずはそこからだと思う。


そもそもこの世界の子供たちはどれくらいの頻度で本を読むのかしら?

図書館や本やなんてものは、どれくらいの子が利用しているのかな?


知って貰えば、読んでもらえる自信はある。だって私の大好きな物語たちだ。その絵本が嫌いな子なんていないはずだ。

可愛かったり、カラフルだったりする絵に、わくわくドキドキする面白い話。

きっと何度だって読み返す子が現れるに決まっている。

だけどそれはその絵本の魅力を知ったら、だ。知ってもらわなければ意味が無い。


私はどうやって絵本を好きになったんだろうか……。


気が付いた時には家には必ずあった絵本。それからどこでも目にしていた。保育園にだってたくさんの絵本が並べられていたし、教科書にだって載っていた。図書館で司書の先生に色んな本を読んでもらった。


「……そうよ、読み聞かせをすればいいのよ」


そうすればそれが読み物だと分かってもらえるだろうし、子供は物覚えがいいからすぐに話を覚えて誰かに聞かせてくれるだろう。そうなれば少しずつ私の作る物語たちはこの世界に口語りで広まるはずだ。

それに加えて誰でも手に取ることのできるような場所に置かしてもらえば、絵本に触れる機会も増えて知ってもらえるだろう。

まずは身近なところから……それこそ領地の村や町で子供たちに対して読み聞かせを開いて……そうだ、それに私が考案したお菓子もつけるのはどうだろう。お菓子が嫌いな子はいないはずだし、素直な感想が聞けるから、それを家庭のおやつとしても定番化すればきっと自然と馴染んでいくはずだ。簡単なものであればレシピも渡して、親子で一緒に作ってもらうのもいいかもしれないしね。

見たことも、食べたことのないものであれば警戒させてしまうから、いっそのこと食べ物が出てくる絵本なんてどうだろう?カステラとか、パンケーキとか。


菓子パンなんてものもいいかもしれないわね。あ、クレープなんてどうかしら?

よく絵本にはおいしそうな食べ物が出ていたし、私もよくお母さんにこれが食べたい、作ってほしいと強請っていたしなぁ~~。


それに年の近い子と交流したいのだと言えば家族から反対されることもないはずだ。

うん、これならいけるはず!

頭の中に浮かび上がってくるアイディアに、ついニマニマしてしまう。

「お嬢様?」

は!いけない、いけない、今の私はお嬢様なのに。

崩れかけた顔をムニムニと揉んで戻しながら、大丈夫ですか?と視線で問うてくるリリアに大丈夫だと頷きながら、あのね、と口を開いた。

「リリア!お願いがあるの」


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