おでかけしましょう

絵本を広めていくための方向性は決まったが、肝心の絵本がまだ全然足りない。もっと数がなければ貸し出しなんてものは出来ないし、移動図書館なんてものも作れない。

それに今描いているのは不思議な国に迷い込んだ女の子の話だが、これはどちらかと言えば女の子向けだろうし、前に描き上げた絵本もお姫様の話なので偏っている。

これでは誰もが読みたくなるような物語とは言えないだろう。だからまずは絵本というものを知ってもらう為に、身近なワードを混ぜたものを作ろうと思った。 例えば地名や伝承、花や動物なんかは馴染みやすいのではないかと思う。


つまりそういうものを取り入れた完全オリジナルの絵本が必要になってくる。


絵本は物語以外にも、子供の勉強になるようなものや、それこそお菓子のレシピが載っていたものまで幅広く存在していた。楽しいもの、泣けるもの、怖いお話だってあった。

流石に怖い話は小さい子が泣き出してしまうかもしれないので、却下だ。将来的には因果応報とか、お化けや幽霊を題材にした教育に使える物語もいいと思うけど。

そこで思いついたのが、食べ物が出てくる絵本だった。

パンやお菓子なら嫌いな人は少ないだろうし、いつでも目にするものだからきっと食い付きもいいはずだ。

あと話もできれば子供が覚えやすい、頭に残るフレーズを使い、絵や色鮮やかなもののほうがいいだろう。


あとは今の子が好きそうなものや、流行りのものを取り入れれば馴染みやすいかも。


そう思った私はリリアにお願いをしたのだ。


「私も王都の中心街に連れて行って欲しいの」

「お嬢様が、行くんですか?」

「うん、自分で行きたいの」


私が代わりに買ってきますよ、と言いそうなリリアの声を制して私が行きたいのだと繰り返す。

彼女が休みの日に中心街に出かけていることを知っていたし、貴族である母様や父様では同じ中心街でも連れて行ってくれるお店が違うだろう。私が行きたいのはそこに暮らす人たちが普段買い物に使う場所やお店なのだ。

まだ私は王都に行ったことがないので、どんなものがあるのかも知らない。だけどそこに行けば、いろんなものが見られるだろうし、私が探しているものもあるかもしれない。

生活を見ることができれば、どんな物語を書けばいいのか決まりそうだしね!

あと純粋に屋台などで売っているものを食べてみたいし、流行りのお菓子などを見たり買ったりしたいから。

そう思ってリリアに頼めば、彼女は困った顔をしたが私が何度もお願い、と頼めば両親が許してくれたら、と最後には条件付きだが了承してくれた。

「ありがとうリリア!」

「きちんと旦那様から許可を貰ったらですよ」

「わかってるわ!!」

多分彼女の中では私はまだ小さな子供なのだろうが、もう7歳だし、中身だけは彼女よりも年上なのだ。だからそんなに心配しなくても大丈夫だと思うのだけど、お嬢様はよく心が外出していますから、と言われてしまった。

……ちゃんと話聞いてますよ?最近は。

それから夜になって屋敷に帰ってきた父様の書斎に突撃すれば、父様にはもう体調は大丈夫なのかと心配されたが、問題ない。


むしろ一日自由時間を貰って元気過ぎるくらいよ!


それを証明するようにくるくるとモデルのように回って見せれば、お姫様みたいだねぇ、可愛いねぇと褒められた。……本当に、父様は絵に書いたような親馬鹿だわ。

「アーシャは何を着ても可愛いからね、新しいドレスを買ってあげようか?」

「まだ着られるので、大丈夫です」

それよりもお願いがあるのだと言えば、珍しいなと言いたげな顔をされた。

「お願い?なんだい?」

「私、王都に行きたいんです」

正確には王都の街を見て回りたいのだ。

このベッドフォードの屋敷は王都にありながら、私は王都の中心街に行ったことは無いし、1度も自分の足で歩いて買い物などをしたことがない。というよりも、大抵は業者が屋敷に来るので外に出た事がない。兄様は何度か友人たちと遊びに行っているようだが、私はいつもまだ小さいからと言われてお留守番だ。必要なものは全て家族が選んで用意してくれている。

だけどそろそろ私も自分の目で選び、買い物などがしてみたいのだとお願いすれば、予想に反して最大の難関かと思われていた父様は私がそういうなら、とあっさりと許可を出してくれた。

え、本当に?

「アーシャのお願いを断るなんて、出来ないだろう?」

「父様……っ!」

ありがとうございます!と抱き着けば、父様はでろでろとカッコいい顔を台無しにしながらも抱きしめてくれた。

「だがなにかあったらすぐに人を呼ぶんだよ」

「旦那様、私がいますので」

「そうだな、リリア頼んだぞ」

「はい、お嬢様には指一本触れさせませんので」

「あぁ、もし私の可愛いアーシャに不埒な輩が何かしようとしたら地獄の果てまで追いかけてやるからな」

「すぐに始末などせずに一生後悔させてやりますのでご安心を」

「さすがリリアだな。頼りにしているぞ」

「はい、お任せください」

そう言ったリリアの顔がいつになく真剣で、そこまで言わなくても……と思ったが言葉に出せなかった。ただ父様の背後に控えるクロイツまでも当然といった様子で頷いているので、これが貴族の普通なのだろうかと思った。


お嬢様って出かけるのも大変なのね……。

まぁ確かに誘拐などされて身代金とか要求ありそうだものね。


王族とかならもっと大変なのだろうな、と思っていた私は実は王族のほうがもっと身軽に動いていることをこの時はまだ知らなかった。


それから両親から多すぎるお小遣いを渡されて、その多さにまた驚きながら数日後、リリアとともに街へと向かった。


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