第2話 部員募集中

「何か、朝から色んな所に落ちてるなあと思ったけど、壁にも貼ってあったんだ」

「コンピューター部、部員募集!入部したい方はコンピューター準備室ヘGO!だって。でも私、部活入ってるからなあ」

「て言うか、此れ誰が始めようとした部活なの?」

「書いてないね〜怪しいわ」

廊下がざわ着くホームルーム前。話題は、朝から床や校庭に落ちていて、至る所の壁に貼り付けてある、部員募集の広告だった。

 そんな中、薄暗い部屋で話しをする俺。

「やっぱ、俺達の名前書かなくて正解だな。あんだけ人が群がってりゃあ、手前のファンが此処に吸い付いて来るだろうしよ」

そう、其の広告をばら撒き散らしたのは俺達だ。

 房井が作ったゲームをする為だけに部員を集め、房井が作ったゲームをする為だけにコンピューター準備室を部室として借り、房井が作ったゲームをする為だけに俺が広告を作った。

 部員が男女共に居て、三学年が参加している。そして、八人以上集まることが、部活として認められる基準らしい。そうで無ければ同好会になる。男女共にと云うのは俺にとって救いだ。

 丁度ゲームをするのに必要な人数が、部活として必要だった。だから、『コンピューター同好会』ではなく『コンピューター部』を作る。ゲームができないから。らしい。

「然しまあ、なかなか人が来ないものだね。もうホームルームが始まってしまうよ」

まだ三十分も待っていないと云うのに、気の早い奴だ。

「そんなにバッと人が集まる訳ねぇだろ!絶対ェ怪しいから迷うだろうg」

「し、失礼しま〜す……」

いや、今入って来んのはマナー違反だろぉ…

「残念。此んなにバッと人が来たよ!良いよ〜其処のカーテン開けて、入っておいで」

俺は心底其の女を嫌うな。きっと。解ってるぜ。お前に罪は無いよな。

 此の部活の部員になるであろう女子の顔を拝む為、下を向いていた顔を上げる。

「って……ら、こ……」

「あれ!純?暫く振りだねー!此の部活始めようとしたの、純とキズなの?」

水本楽幸(みなもとらこ)。俺の人生で、唯一関われた女子だ。中学の頃から学校が一緒で、房井のことを「キズ」と呼ぶ。三年になってから別クラスになってしまった事で、最近話していなかった。

「おお!そうだよ!そうか〜、中学の時から、『私もコンピューター弄れるように成りた〜い』って言ってたもんね」

房井が馴れ馴れしく楽幸に話し掛ける。

「うん!此の高校、コンピューター部無かったからさ、入ろうと思って!良いよね?」

此奴なら嫌う必要が無いな。此奴嫌ったら女子で話せる奴居なくなっちまうからな。

 俺の心は、快く楽幸を許した。

「勿論良いぜ。活動内容だが……話すか房井」

俺は房井に尋ねる。此奴のことだから、年がら年中自分が作ったゲームばかりやらせるのだろう。そんな事を話したら、楽幸は此の部活を辞めるだろうか。

「どうせ知ることになるし。其れに、知ってもらってから入部した方が良いと思うよ」

楽幸は不思議そうに俺達の顔を交互に見つめた。

 集めるのが大変になるだけだから、どうか出て行かないでと祈る。






「わあお!やっぱり凄いなキズは!ゲームまで作れちゃうんだあ、そっかあ!で、でで、私達は其のゲームをプレイ出来る特権を得られる訳だよね?すっごーーい‼めちゃめちゃハッピーだよ其れえ!」

予想以上に良い反応。取り敢えず胸を撫で下ろす俺と房井。

 そんなに凄いか、其れ。俺だって頑張りゃあゲームぐらい作れ

「キズのはレベルが違うからなあ!絵も上手いから、背景とか凄いだろうし!」

無いです。はい。作れ無いですはい。絵も下手で申し訳ありません。すみませんでした。

 房井は、そんなこと無いよ、だの楽幸ちゃんにも教えてあげるよだのと笑顔で対応している。

「でも、其んな設定したの、ほんとにだれなんだろうね。変なの〜。私は此の部活入るけど、あと一、二、三……五人如何するの?」

おう、確かに。まだ一人決まっただけだ、喜んでいる暇など無い。一刻も早く集めなければ、房井が五月蝿い。五月蝿くなって欲しくないねェからな。

「そうだね……楽幸ちゃん、友達は居る?」

「勿論。居るよ。」

「年下……居るかな?」

そうか。三年ばかり集まっていても、部活にはならないのだった。忘れていた。楽幸は考えるような素振りをする。

「居るね。何人か。でも……部活やってない子は…………三人。私の御近所さんで、幼馴染だよ、三人共。」

独り言の様に呟く。幼馴染。此れ程好都合なことはない。幼馴染となれば、誘い易くなるのは勿論、入ってくれる確率も上がる。房井も同じことを考えていたらしく、目を輝かせている。うん、気持ち悪ぃ。

「良いねえ!其の三人、放課後で良いから誘いに行ってくれないかな?」

「わかった!」

真逆此れが、彼んなことの発端となるなんてな。

 俺は、勿論房井も楽幸も、思っちゃいなかった。








放課後、楽幸が幼馴染とやらを連れて来た。

 一年B組、長瀬美夜(ながせみや)

 一年B組、仲嶋優翔(なかじまゆうと)

 二年D組、森田愛良(もりたあいら)


「良いよ、入って〜、どーぞどーぞ!あ、其処カーテン気をつけて〜」

楽幸がずっと前から部活に入っていたような口振りで言う。遮光用のカーテンをするりと抜け、俺達に連れて来たことを合図する。

「はあい!んん〜?うわ!あ、カーテンって此れスか」

女子は注意された傍からカーテンに包まっていた。相当鈍遅だな此奴。其れ以外入る時にカーテンねぇだろ。

「馬鹿」

うん、そうそう。馬鹿だよな。

ってツッコミ役キタアァァァ!鋭い指摘。俺がツッコむ前にツッコんで呉れたわ。俺の手間減るかな、此りゃ。此方は少々大人しめな外見の女子だ。

 と思ったらカーテンに包まってる奴第二弾が現れる。

 何なんだ?楽幸と居ると性格が皆んな鈍遅になるのか?俺と房井もヤバいじゃねェか。彼んなンにはなりたくねェな。

「はは……僕もなっちゃったよ〜」

「馬鹿」

ツッコミ二段目。

つーか何で準備室此んな暗ぇんだよ。カーテンに包まるのも其りゃ仕方ねぇよ。

其んな俺に応えるように房井が言う。

「いやぁ、御免ね。先生によると此処の照明点かないらしいんだよね〜」

設備。おい設備如何なってんだよ。

「あーそうなんスか!でも何か雰囲気出るッスねー!」

いや雰囲気ってなんの雰囲気だよ。ってか喋り方可笑しいだろ。何でもスつけりゃ良いってもんじゃねェんッスよ。

「じゃあ取り敢えず自己紹介をするね。私は三年C組の、房井 絆(ふさい きずな)だ。其れで此方は……」

「俺は三年C組の神楽木 純(かぐらぎ じゅん)だ。」

房井の後に続けて俺が言う。あー、見んな見んな!

 俺にお構い無しに楽幸が続ける。

「私はまあ、良いよね!三年F組の水本 楽幸です。それじゃ、美夜ちゃんからお願いできる?」

「あハイ!アタシは一年B組の長瀬 美夜ッス!」

「えと……一年B組の、仲嶋 優翔です……あはは」

「二年D組、森田 愛良。宜しく。」

其の時、俺の耳が反応した。森田 愛良?其処の大人し目な嬢が?それって、真逆……

「あれ?愛良って……もしかして彼の森田 愛良?ロンドンからの帰国子女っていう」

糞房井、其れは俺が言う台詞だろ。つーかマジか。聞いたことがあると思っていたが、帰国子女かよ。

「そう。帰国子女っていっても、八年間ロンドンに住んでいただけ。それ迄は、ラコと仲が良かった。再開できて嬉しい。」

八年間ロンドンに住んでいた?だけ?何、頭可怪しいのか此奴。全然『だけ』じゃねぇだろ。

「ラコから聞いた。人が足りないの?私、誘いたい人が居るのだけれど。」

おう、そうだった。部員の話だ。誘いたい人が居るのは良い。然し、あと二人だ。もしかしたら、今日中に見つかっちまうかもしれねぇな。

「おう、愛良、だったよな。其の誘いたい奴ってのは何年だ?」

「二人居るけれど、私と同じ学年。つまり二年。」

ほう、となると、三年が三人、二年も三人、一年が二人となる訳だ。部活としての条件を満たしている。よって、あの野郎が作ったゲームも、プレイすることが出来る。

「それじゃあ、早速其の二人を……」

「君馬鹿あ?」

もう一遍言ってみろ此の糞底辺以下野郎。

「んだよ?」

俺は房井を睨む。

「あのさ、其の人達、部活やっていない人だよね?だとしたら、もうとっくに帰っているんじゃあないの?」

「心配いらない。其の内の一人は、凄く頭が良い。多分、図書館で勉強をしていると思う。もう一方も、其れに付き合っている筈。」

「へっ、推理が過ぎたな。何が君馬鹿ぁ?だよ」

房井は罰が悪そうに口を尖らせた。

「じゃあ私は、他に希望が来たら悪いから、一年生と待ってるね。三人は探しに行って来て!」

楽幸が指揮を取り、俺達は学校内の図書館ヘ向かう。渡り廊下を通り、階段を降りると図書館がある。本棚に隠れ、勉強机の方へ視線を向ける。五人以上は勉強していた。

「どうだい愛良ちゃん。居たかい?」

「待って。………居た。一番奥。此方から見て、右から二、三番の二人。」

確かに、仲の良さそうな二人組だった。

 一人は、眼鏡をかけた、つり目の男子。

 もう一人は、片目が髪で隠れた、涙ボクロがある男子。

「じゃあ純、話しかけて来て」

「は、なんで俺なんだよ愛良が仲良いんじゃねぇのかよ」

「いや、仲が良いんじゃない。話したことがあるだけ」

「それなら手前が行けよ!手前が作ったゲームだろうが」

「嫌だよ、じゃあほら、皆んなで行こう!」

結構な大音量で俺達が言い争いをしていると、何時の間にか涙ボクロが俺達の方へ寄って来た。

「あの……聞こえました。オレ達に何か用ですか?あと、ボリュームをもう少しだけ抑えて……」

見かけによらず、優しめな口調だった。

「ああ、はいはい御免ね?うちの純が」

「ああ?うちの純って何だよキメぇ」

またまた言い争いを始めた俺達を無視して、愛良が涙ボクロに言う。

「御免、塁。細谷さんを連れて来て。」

「ああ……うン解った」

塁と言われた涙ボクロは、苦笑で答え、眼鏡の方へ向かった。眼鏡こと細谷 良一は、此方に気が付くと笑顔で飛んで来た。‎勿論だが飛んで来たと云うのは比喩だ。

「わあ!愛良ちゃんじゃない!何々?ボクに何か用⁉勉強?教えてあげるよ!」

「いや、聞いてなかったのリョウ。絶対違うから。」

あ~、こりゃ愛良に脈アリだな。愛良と俺は冷たい目で見ていたが、房井だけは遠くにある葡萄を見る様な目をしていた。ニヤけている。いやホントマジで糞キモい。仕方が無い。俺が変わって話すか。

「ごめんな、勉強中呼び出して。俺達、コンピューター部の部員を集めてんだ。この葡萄野郎が作ったゲームで遊んだり、それでプログラミングとかアニメーションとか作ったりすんだけど、興味ねぇかな?」

やれば出来るじゃん俺。

「ぶ、ぶっ、葡萄野郎⁉素晴らしい名前だねもっと呼んで⁉」

え、此奴果物なんかで良いのかよ。変わってるな脳味噌が。

「えー、マイナス十点。ゲームなら家帰って散々出来るから興味な〜い!それに部活入るの手続き面倒臭いし」

嗚呼。折角俺が勇気を出して……

「あ~、こらこら失礼だよ!ごめンなさい、こういう人なンです」

「そう。入らないの。残念」

愛良が口を零すと、その声に反応したのか勢い良く此方を振り返った。さっきの膨れっ面とは真逆で、目を輝かせている。

「もしかして……愛良ちゃんはその部活に入って居るの⁉」

「そうじゃなきゃ何で此処に居るの」

「プラス百十点!良いね、乗った!愛良ちゃんが入ってるなら言ってくれれば良いのに!ボクが居れば君達の部活なんて世界大会行けちゃうよ!」

あー、別に世界大会目指してる訳じゃねぇから。でもまぁ、此れで部員は揃った訳だ。あとは校長に御許し貰って、さっさとゲームをしよう。

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フーリッシュワールド 色谷 そおと @Soto-Sikitani

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