フーリッシュワールド

色谷 そおと

第1話 PC部設立話

 綺麗だった。

 あの日、此の世界が終わる前。

 皆で見たあの星空は、此の世のものとは思えない程で。

 あの星空が在る世界へは、もう戻れないかもしれないね。

 あの日集まった公園は。

 あの日通ってた学校は。

 あの日一緒に居た皆の名前は、何だっけ。

 また会えた日に聞こうかな。

 もし、其れすら無理でも、せめて。

 せめて其の日が来るまで。

 










 私を良い子でいさせてね。













 

 随分度胸の有る奴だな。

ベルのような機械音が鳴り響いている。

 生憎俺は目覚まし時計を設定する程良い子では無いから、此の音は電話だろう。

 然しまあ昏睡中の俺を起こすとは、先程も言ったが随分度胸の有る奴だ。

 其れだけ重要な電話なんだろうな。そうで無ければ簡単、殺すだけだ。

 とまあごちゃごちゃと色んな事を考えていたが、ベルは諦めるという言葉を知らないらしく、永遠に鳴り続ける。

 怠いが、仕方が無いから目を開ける。

 ベルの音が一段と大きく聞こえ、俺の頭を殴りつける。うっわ五月蝿ぇ。

 アイフォンの画面を見ると、俺の知らない電話番号が表示されていた。誰だ、こんな時間に電話して来る奴は。

 その瞬間、デジャヴが起きた。

 前もこんな事があったな。知らない電話番号だと思って出てみたら、本当は彼奴で。長々と如何でも良い話を一時間近く聞かされて……嗚呼。思い出したくも無い。

 頭では通話を拒否していたが、気付けば俺の指が動き、電話に出てしまっていた。

 しまった。此れはもう付き合うしかない。

糞が。後で此の指、切断してやっかんな。

「もしもs……」

「聞き給えよ純(じゅん)〜‼‼‼」

引き続き大音量が俺の頭を殴りつける。くっそ五月蝿ぇ。やっぱり此奴かよ。死なすわ。此奴絶対何時か殺すわ。

「手前なぁ!何で何時も何時も電話番号変えてくんだよ!今度変えたら俺も変えっかんな!」

「……其れでね純!話なんだけれど〜」

「人の話を聞けよ」

嗚呼、此奴もう駄目だな。可哀想に。それとも此れは俺に殴られたいと云う意思表示なんだろうか。だとしたら上等だぜ、付き合ってやろうじゃねぇか。

 すると彼奴は諦めた様に溜息を着いた。

「だってねえ、純。君の話を聞いていても面白くないんだもの。大体君が電話番号を変えたところで、私は何分も掛からずに当ててしまうと思うよ」

あ、本格的な自殺願望なのか此奴、もしかして。

「私、前から自分でゲームを作っていると言っていたじゃない?其のゲームがね、完成したのだよ!」

「わーそれはよかったすごぉいや」

「だけれど、問題が発生してね。って君、聞いてないでしょ」

何だよ、聞いて無かったら何だってんだよカマチョが。付き合ってやってるだけ有り難いと思え糞餓鬼。だがまあ仕方が無いんだ。

「おう、バレたか。で、何だ?其の問題って。」

「其れは今から私の部屋に来てくれたら教えるよ。」

彼奴の部屋。一分もかからないが、寝起きだ。面倒臭ぇ。それに、時計を見るとまだ三時を指したばかりだった。

「手前、何時だと思ってやがる」

「何時って、三時でしょ?早寝早起きは人生の基本だよ?」

此りゃすげぇ。重症だな。

 此奴は頭が可笑しいからこんなものか。兎に角、何を言われようが俺は行かないのだが。

「俺は行かねぇからな。学校行ったら聞くぜ。」

「其れがさ〜、学校では無理なのだよね〜。実物が無いと証明出来ない」

「はぁ?」

「兎に角、来てよ。じゃあね、待ってるから!」

そう言って彼奴は電話を切った。と思ったら今度はメールの着信音が鳴った。




件名:房井(ふさい) 


題名:もし来なかったら


もし来なかったら、如何なるか解っているよね?

 昨夜電子遊戯場で起きたことを先生に聞かれたら君、不味いんじゃない?

 うふふ、今から十分以内に来てくれたら嬉しいなあ♪

 それじゃあ待っているよ、優しい優しい純君❤













五月蝿ぇな。

今度は何だ?

また頭が殴りつけられた様に痛い。

ん?喉も痛ぇな。

ってか誰か叫んでねぇか?

あ、

そう云うことか。

俺か。

叫んでんの。

「糞があぁぁぁぁァァァァァァァァッ‼‼‼」












「うわぁ、来てくれたんだね!流石純!電話とメールだけで来てくれるんだものね!」

「……手前今……俺が殺す」

俺は房井の部屋の台所へ向かい、本気で包丁を探し始める。糞、整頓され過ぎていて見つかんねぇ。俺は包丁包丁と呼び掛けながら包丁を探す。

 良し、漸く見つけたぜ包丁。手前どんな場所に隠れてやがんだよ。そんなにご主人様が好きなのかよ。然し残念だな。今から手前でご主人様の首を跳ねるんだ。

 おっと、今から死ぬ奴が遺言を残しているなぁ。相手してやるか。

「あれぇ、そう云えば何の問題が発生したのか、知りたいのは君じゃあないのかい?私を殺していいの?」

 最期の最期までうぜぇ奴だな。

「別に知りたかねぇよ。少々気になっただけだわワレ。それに、俺に来るように仕向けたのは手前だろうがっ」

「良いじゃない良いじゃない偶にはさあ!君なかなか来て呉れないのだもの。久し振りだねえ。あれえ!如何したのさ、包丁なんか持って!も、し、か、し、て!朝食でも作ってくれるのかい⁉嬉しいなあ!一寸早いけど、作ってよ!」

 あ。殺す気も失せた。如何でも良いわ、もう。

 俺は包丁を‎台所へ戻しに行く。済まなかった包丁。手前を呼んで出したにも関わらず、使ってやれず済まん。あの静かで狭っ苦しい処で、あと少しだけ眠っていてくれ。俺も色々頑張るからな。お互い頑張ろうな。

「作んねぇよ、パンでも毟ってやがれ」

包丁に小さく手を振って、俺は房井に応じる。

「なあんだ、詰まんないの〜。純の料理食レポしようと思ったのに」

「せんでええわ」

「ああ、純。台所包丁とか云う愚者の殺人道具は使わない方が良い。色々と不都合が生まれるからね。まあ良いや、此方。来て」

房井は急に真面目な顔で殺人の話をして来るから、正直言って怖ぇ。

 洋室に入ると、どデカいコンピューターが机に置いてあった。電源が着いていて、何だか警告文らしき知らせが届いている。

「はい純く〜ん!此のディスプレイに書かれた‎文字が読めますか〜?」

赤等様に馬鹿にしていると解る口調。三時から俺は此んなに体力を使って大丈夫なのだろうか?放課後には死んでいそうな気がするが。と云う訳で房井殺害計画は中止した。仕方無く俺は口を開き、ディスプレイに表示された警告文を述べる。

「此のゲームは、八人揃わなければ開始されません。八人揃ったら、同時に八台のコントローラーのAボタンを押して開始して下さい。……は?何面倒臭ぇ設定自分で付けてんだよ」

「自分で……ねえ」

「手前、真逆『私は此んな設定していないのだよ』とか言うんじゃねぇだろうな」

俺は、今日は勘が良いらしい。

 此の文だけを見ると、とても幸福な一日が始まるような気がする。だが、現状は違った。其の真逆だった。まあ別に、俺には関係無いのだが。

「祝福するよ、大当たりだ。何故か、私のゲームデータが書き換えられていてね。面倒臭いだろう?折角自分で楽しく遊ぼうと思っていたのに」

房井は怒った様に頬を膨らませる。うん。手前はボッチでゲームがお似合いだ。

 ん?待てよ?八人居なくても、八台同時にコントローラーを押せば良いんじゃないか?

 無言で、コンピューターに繋げられたまま散らばったコントローラーを、一箇所にかき集める。そして、左右四本の指で其々Aボタンを同時に押す。

 房井は此の行動を、生ゴミを見る目で見ていた。いや、馬鹿そうな絵になってんのは解ってんだよ。心の傷を抉るなよ。

 四本指を突き立てて、トウッ!トウッ!と何度も同時に振り下ろしている高校三年がいるなら御目見得したい。君と俺は良き友となれるだろう。あは。あはははは。

「ねえ純?不可能って分かる?ディスプレイ見てみてよ。一瞬で殺したい相手が私からコンピューターに変わるから。」

何だ?何で駄目なのかが解らなかったが、房井の言葉に従ってディスプレイを見た。

 秒も掛からない程で、房井の言葉の意味を理解した。

「サーモグラフティーカメラが、八人いるのを認識できません。」

そう、写っていた。憎いが、房井の言った通りコンピューターを殺りたくなる。

「手前のコンピューター、サーモグラフィーカメラなんか付いてたっけか?」

「いいや、此れも又覚えが無い。不思議なものだね」

房井自身覚えが無いにも関わらず、ゲームデータどころかコンピューターのデータまでも書き換えられている。可能性が一つしか思い浮かばなかった。

「ハッカーにでも遭ったんじゃねぇのか?」

「あのねえ純。コンピューターについて自信の有る私が、対策をしていない訳が無いだろう?少しは考えたら?」

ゔっ、確かに。唯一の可能性潰されたわ。然し、幾ら房井の対策だとしても、房井を抜く達人なら、世界にそう居なくは無いだろう。だとすれば、房井を狙う目的は何だ?益々解らない。

「色々考えるより、もう其のコンピューターに従って、八人でプレイしてみようと思って」

不意に、房井が口を開く。嗚呼、まあそうなるよな。然し俺は、重大な問題点を発見する。

「八人?どうやって集めるんだよ」

「君、友達居る?」

多分房井は、俺が如何返答するか解って居たのだろう。笑いながら尋ねてきたのだから。

「居る訳ねぇだろ阿呆が。手前は如何なんだよ」

房井も俺と同様友達は余り居ない筈だ。だから少し期待して尋ねた。尋ねた事を、後から後悔するのだが。

「いやあ、私の場合友達は居ないけれど、女の子に囲まれて居るからなあ。」

房井はドヤ顔で此方をチラ見して来る。

 やっぱりな。糞うぜぇ。

「だったら手前は女七人に囲まれてやってろよ」

「はあ?誰が『君はやらないで良い』って言った?君もやるんだ。だから、あと六人集めるんだよ?」

此方が『はあ?』だわ呆け。俺もやんのかよ。

 普通の女ならまだしも、房井のことが好きな女に囲まれるなんて地獄があっては堪ったもんじゃねぇ。逝った先の方がまだマシな地獄だわ。

「俺は死んでもやらねぇぞ!手前好きの女とはもう関わりたくねぇんだよ!死んだほうがマシだわ!ほらほら俺を殺せよオラ!つーか殺して呉れよウォラ!」

俺は狂った奴を演技して、房井の手を掴み俺を殴らせる。

 あ、案外痛ェ。

「あのさあ…………正直言ってウザいからやめて呉れる?其れと私は、君と違って後先を考えられるから、人殺しとかは二度と殺らないって決めたのだよね。まあ、哀れな君にと思って、私から提案があるんだ。これを見給えよ」

そう言って、房井はメモ用紙をペラペラと揺らす。

 提案……悪い予感しかしなかったが、仕方が無いのでメモ書きを覗き込む。

 俺は、無意識に口角を上げていた。

「手前にしちゃぁ、良い案じゃねぇか」

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