第24話 パンツ、再び
「うぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
例によって神域の静寂が(以下略)
「やったどぉぉぉぉぉおおお」
「――なんなんですか今度は」
ガー様は幾分やつれた感じで答えてくる。おいたわしや。なんかあったの?
「パンツや!」
「……」
「……」
「ほら、パンツ! お土産ですよお土産! ガー様お土産好きでしょでしょ――ってグワーッ!???」
いきなり攻撃された! ひどい!
「何をなさる!」
「そんなもの食べません!」
食うことから離れろ!
「いや、食いものだけとは限らんでしょうよ――ほら、クマさん上げるから」
「……食べ物がいい」
とりあえずふかっとしたクマを受け取ったガー様はまだそんなことを言う。てゆーか受け取ってはくれんのね。
「食べ物は毎回持ってきてんじゃないですか、いろいろと。――たまにはいいでしょ」
「心労がたたって、甘いものが恋しいのです」
「マジで? なんかあったんですか?」
「……」
カミソリみたいな目で睨まれた。そんなに見つめないで! もっと好きになっちゃう!
「で、ホントにそれをお土産と言い張るつもりなのですか……」
ガー様は俺が手にしたパンツも見やる。いや、ネタ的なセクハラ要素がないとは言わんがちゃんとしたお土産ですよ?
「前回の転生先で
「……被服控除って何ですか? というかそんな特典つけましたっけ?」
さては適当にやりやがったなテメッェー! 大変だったんだぞ! なんで布とか服とか作るスキルばっかなのかと思って、四苦八苦したわ!
「それですげー
「ああ、それで……。ですが私も心労がたまっていて、あまり真剣にあなたの転生をサポートできなかったんです……」
マジで?
「なんか悩みでもあんの? 相談乗るよ?」
「――あなたがまた新しい悪魔を連れ込むわ! 外で問題を起こすわで、その対応に追われてるんです!」
「えー!? そんなことがぁ!?」
――って、そんな気にすることねーじゃん。ピーちゃんはおっぱいにしか興味ない変態だし、モフ子のことだって主に誤解じゃん誤解。
「そうやって反省する気がないから私の心労が増えるのです!」
まったくぷりぷりしおって。んなことしたってオレの好感度は上がるだけなんだぞ?
だいたい、そーいうのは表面上だけ謝ってあとはほっときゃいんだよ。なるようになるっつーの。なんでこう神経質かね?
「まーまーまー、それはそれとして履いてみてくださいな。せっかく作ったんだし」
「要りません」
「ちゃんと神様仕様だから! レベルマックスで! 素材も最高のを使って! 凄い時間と労力と技術を注ぎ込んだのに!」
「誰も頼んでいません」
「ひどい! あぁんまりだぁぁぁあああ!!」
オレはワッと泣き出す。悲すい。すごく頑張ったのに!
するとガー様は、重苦しい溜息を吐いた。
「ハァ……。分かりました。見るだけ見ましょう。このクマを見れば物がいいのはわかります」
思いのほかクマ気に入ってんだね。
「やったぜ! そう来なくっちゃねぇ。――んじゃまずはこれで」
といったところでぶっ叩かれた。
「ヒモじゃないですか! それは下着ではありません」
ちょっとー、種明かし早いんですけどぉ―。
オレが取り出したのは、まーご想像通りのひもが組み合わさっているだけの代物である。
「まぁ、お約束ということで」
「なにがお約束ですか……」
一応、似合うだろうと思って持ってきたんだけどなぁ。色も黒だし。
「でもコレすごいんですよ。超ヒモ理論をもとにして作られてて、神の力を数倍に引き上げてくれるっていう」
「間に合ってます!」
「――チッ! んじゃあ次は――これだァ!」
出した瞬間に、ガー様はまた杖を振り上げた。何をなさる!?
「同じじゃないですか!」
「いえ、違うんです! 見てください! お願い!」
確かに一見して同じに見えるかもしれない。しかし違うのだ! オレは、身の潔白を訴えるメロスの如く主張する。
「これはヒモじゃない!
「よけいに悪い!」
あらためてぶっ叩かれた。っかしーなー。
「うーん、自信作だったのに……ちなみに何かの拍子に濡れたりすると縄が縮んで締め付けが強くなるっていう機能が」
「ほぼジョークグッズじゃないですか!!」
「グワーッ!!」
つーかジョークグッズの知識はあるんですね? このむっつりさんめ!
「うーむ。上手くいかないなぁ。プレゼンがわりぃのかな?」
「そんな些細な問題ではありません。そもそも、なんで受け取ると思ったんですか!?」
「まぁ、モチ子は受け取ってくれたし……」
「はぁ!? ――私より先にあの子のところへ!?」
違うっつーの。
「そんな寄り道しませんて。途中でたまたまあったからモチ子用に作ったヤツを渡したんですよ」
「……あぁ……それで最初から殴られた跡が」
「まぁーご想像の通り、だいぶツッコまれたし殴られましたけどね? そんでも最終的には爆笑しつつ受け取ってもらえましたがな」
しかし、ガー様は疑わしそうな目を向けてくる。なんだァその目は! やめろ! 興奮しちゃうだろうが!
「こんなことでウソつきませんて。ヘンテコなものがあるのは認めますけど、そんなんは笑って済ませばいいだけの話じゃないスか」
「その点については後で裏を取らせてもらいますので、今は流しましょう。ですが、私がこんなものを受け取るがどうかは別の話です」
かーッ! んもうアッタマ固ぇなぁ。
「あーあ、やっぱ豪快さではモチ子の方が上なのかねぇー。後輩なのにぃ」
「……」
お、黙り込んだな? ちょっと煽ってみようか?
「気さくだしなぁ。頭は弱そうだけど、シャレも通じるし乳もデカイし……」
「別にそう思うのは勝手ですので、話しを切り上げてもいいですか」
「反論ぐらいしないんです?」
「そもそも論ずるようなことでもありません」
なんだろうねぇもう。気分がよくないならちゃんと言おうぜ、そういうのはさ。
「……にしても、こんなモノ受け取ってどうする気なのですかあの子は……」
「いや、ひもは渡してないですって。ガー様だけですよ――うっ!」
無言でひっぱたかれた。鈍器よりも痛い気がするのはなぜ!?
「何をなさる!?」
「なんで私のだけこんな卑猥な下着になってるんですか!?」
なんでって……。
「普段どんなの履いてるのかが分かんないからですよ」
そうなのだ。ガー様の短いスカートの中は権能だか何だかの力で見ることも叶わぬ聖域になっているのである。
おかげで、結構長い付き合いなのに、オレはガー様がどんなパンツを好むかもわからんのだ。
こんなことってある!?
「だから想像の赴くままに、そして愛のかぎりに技巧を凝らしたんですが……」
「……そ、それでもこんなことになるのはおかしいでしょう!?」
「やー、でもモチ子が前に、角度がエグイって言ってたし」
「角度の問題ではないでしょう!? これはもう!」
だからこそ、そのくらいじゃないとダメかなーと思ったんだけどなぁ。
「はぁ……ま。まぁ一応理由らしきものがあるのは分かりました。情状酌量の余地がないわけでもありません」
なんでオレいつの間にか裁きを受けてんだろ? 神を愛したからですか?
「ちなみにですが……あの子にはどんな下着を?」
結局気にはしてんのかよ。ちょっと気まずそうにモジモジしやがって。惚れてまうやろ!
「前にもらったのがとにかく機能性重視だったんで。その方向でいろいろ考えてみたんですよね。魔獣の皮を使った鬼のパンツとか」
イメージ的に虎柄のヤツを想像してもらえばいい。
「でも革だからムレるって言われて」
「れそれはそうでしょう。なんで下着にしようと思ったんです?」
冷静なツッコミはやめてください!
「あと、トール神の鋼鉄のグローブ※に着想を得た鋼鉄のパンツシリーズとかもあったんだけど結局だめで」
「……目に浮かぶようです」
「で、着心地を追求したふんどしシリーズをあげたら爆笑されて」
「なんでふんどしなんですか!?」
なぜって、そりゃあこの前ふんどし全開でオレにひざ蹴りをくれてきやがった鳥女が居たからですよ!
ああ、今も真っ赤なふんどしと白い太ももが目に焼き付いて離れない!
「……」
「――うッ!」
無言で殴られた。ナンデ?
「そういや、なんかモチ子におんなじように殴られましたわ」
「さもありましょうとも。ムカつきますので」
なんか理不尽じゃね?
「で、結局は前の下着を参考にした諸々の下着を見せたら機嫌が直ったので、余計なやつもまとめて受け取ってもらえた、と」
「――じゃあ、あるんじゃないですか! 普通の下着が!」
いえ、でも結局この前もらったモチ子のヤツを参考にグレードアップした奴なんで、ガー様のお眼鏡に適うかは……。
「いいから、見せてください!」
……女神鑑賞中……
「……あるんじゃないですか。まともなのが!」
結局フツーのパンツを並べて見せたところ、なんかぷりぷりしながらもガー様はそんな事を言った。
何とか受け取ってもらえそうな雰囲気だ。しかし、
「いや、でもこの辺のはやはり佳作というか……」
「佳作でいいんです!」
やれやれ、職人心のわからんお方だ。しかし。ご本人が良いというなら仕方あるまい。
「じゃ、試着室用意しときましたんで、履いてみてくだせぇ」
「…………は?」
「いや、だから。不具合が無いか履いて見せてほしいと」
「い――いやですよ! というか、ヒトのオフィスにまた変なもの作らないでください!」
じゃかぁしい!
「オレァねガー様。自分の仕事に誇りをってるんですよ。それはガー様のためだけに誂えたガー様のためだけの代物だ。もう体形にフィットするように技巧の粋を尽くしてある。だからこそ、最期の最期でヘマをするわけにはいかねェんだ」
「そんなこといわれても――え? じゃあ、どうする気なんです? まさか下着を履いているところを見せろと!?」
「ええ。そりゃあ、まぁ」
「い、――いやですよ!」
「なんでですか!? 洋服屋でも試着手伝ってももらうもんでしょ? それと同じですよ」
「違います!」
ええい強情な!
「いやだって、モチ子だってちゃんと最終調整したし……」
「履いたままですか!?」
「履いたまま履いたまま」
かなりしぶってはいたが、最終的に折れたのだ。
ガー様もアレだが、モチ子も押しに弱いんだよなぁ。女神ってみんなそうなのかね?
「そ、そんな……」
「何せ魔法学・錬金術・神秘学の粋を集めて創リ上げた女神専用のパンツですからね。ひとつ間違うとガー様のお身体と神威を損ないかねない」
「そんな危険なモノならいらないと言いますか……。というか、お土産でそんなものもらっても困ると思うのですが……」
「いえ、でもオレ――オレ、頑張りますんで!」
「こたえになってないぃ……」
という訳で、オレは勢いに任せ、そしてあくまで善意でもってガー様を特性の試着室に押し込んだ。
――断っておくが、事ここに至ってオレに邪念はない。
実際、俺の作り上げた神のパンツは適当に扱っていいものではないし、自分の作った生パンをはかせて鑑賞してやるぜぇぇぇ! みたいな興奮とも無縁だ。
あくまで一人のパンツ職人として微調整をさせていただく所存よ。
――ただし、それはガー様がいま履こうとしてるパンツに対してであって、ガー様が脱いだパンツに対してではない。
そう。オレの狙いは、最初からガー様が普段履いているであろうパンツの方だ!
あの試着室はオレの作り上げた物。つまりあるカラクリがあるのだ。
中で脱いだ下着を入れるかごが用意してあるのだが、中で着替えている間に、その脱いだ下着を、この外側の裏口から取り出すことが出来るのよ!
先ほども、モチ子で実験してみたところ上手くいった。
ククク。コレでガー様のパンツがどんなものかを知ることが出来る。
以前見たくても見れなかったパンツをじっくり観察できるということよ!
クハハハハ。オレは執念深い
以前見たくても見れなかったパンツこそが、当初からの狙いだったのさ。
新しいパンツに意識を集中させておけば、脱ぎ捨てたほうのパンツには意識が向くまい。
完璧だ! 完璧な作戦だ!
「――あ、あの……不具合みたいなものはないようなので、やはり直に調整というのは……」
おっと。準備の整った合図だ。ここは真摯に対応せねばな。
「分りました。何もないようなら次行ってみてください。ステータス画面開けます?」
「……開けました。なんでこんな機能付いてるんですか……」
「それでどんな感じでステータス上がるか比べてみてください」
「……別にステータスを上げないといけない必要もないのですが……」
よし、これで時間も十分だ。
「なにか気になることあったら言ってくださいねぇ」
オレは件の裏口に手を掛けた。
ドクン、ドクン。心臓が高鳴る。
以前拝むことのできなかった、幻のパンツが! そのデザインが造形美が! ついでにぬくもりとかが! ついに!!
――いざ、と、裏口を開けようとしたのだが、しかし、なぜかこれが動かない。
なんだ不具合か? ふざけるんじゃねぇこんな時に!!!
――いや! いや落ち着け、こういう時こそ落ち着くんだ! ここまでやってきたことを思い出せ。創り上げたパンツを数えろ!
「んん? アレ? いやマジで開かねぇな? なんだこれ……!?」
調べてみると、それが何かで接着されていたらしいのが分かった。同時に、すさまじく嫌な予感がした。
なんだ!? 白くカピっとしたこれは――これは、まさか!
「モチ! モチだとぉ!?」
そうなのだ、この裏口の工作はモチによって封じられてしまっていたのだ!
――つまり、モチ子はこのカラクリに気付いていた!?
「バカな! ――では、ではまさか!?」
「そういうことですね」
「――――――う!?」
オレの背後には、いつの間にかガー様の姿があった。なんかもう背中に「ドドドドドド」とか背負ってそうな佇まいなのであった。
なぜだろう、なんか遠くから処刑用BGM聞こえて来る気すんだけど?
「すべて――すべて知っておいでか……」
さしものオレも脂汗を流さざるを得ない。全ては当に露見していたのか……。
「中に書置きが有りましたので。――なかなかバカにしたものでもないでしょうあの子も」
万能かよあのモチ使いめ。――だが今回は素直に負けを認めるしかない。
「最期に何か言うことはありますか?」
「は――履き心地は、いかがでしたか?」
「非常によかったです。全部とはいきませんが、確かに受け取ることとしましょう」
オレは微笑んだ。
「ならば――本望!」
と言ったあと、おれは意識を失った。
――もうちょっと、もうちょっとだったんだけどなぁ。
オレは夢うつつに、そう繰り返していたのであった。
完
補足
※トール神の鋼鉄のグローブ
正式名称はヤールングレイプルというらしい。
雷神トールがミョルニールを扱うための補助的なアイテムとして使用されるという。
これと力を上げる帯こと「メギンギョルズ」があって初めてミョルニールは本来の力を発揮するらしい。
これだけでもやばい兵器なのがよくわかるというものである。
皆大好きMCUでは未登場。やっぱ名前が煩雑だからであろうか?
しかしメギンギョルズの方はトニーの発明として名前だけ出てきていたので、ちょっと謎である。
ただのファンサービスだったのだろうか?
エンドゲームではいつ出てくるのかと期待していたので残念だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます