第25話 俺の魔法を見せてやる!(前編)
「やっぱねぇ。パワーアップイベントが必要だと思うんだよなぁ」
独り言を呟きながら、男はいつものように神域へ連なる道をゆく。
あのニンジャは元より、あの羽女――カルラ天の女だったか。
めんどくせぇからカルラでいいや。
犬に「イヌ」って名前付けるようなもんだが、他のカルラ天が出てこない限りは問題なかろう。
とにかく、あのカルラにすらまるで歯が立たなかった。
オレは未だに弱すぎる。
カルラは本人が雑魚メンタルのアホだったから何とかなったが、それが無ければオレはガー様を守ることも出来ず屈辱を舐めさせられることになったわけだ。
……それはそれでむしろ興奮するシチュエーションなのでは? とかいうハナシは置いておくとして、またいつそんなことになるかわからんのだ。
とりあえず、あのニンジャやカルラ――とまではいかんでも悪魔ちゃんレベルの強さは身につけないとだよなぁ。
しかし現状、悪魔ちゃんよりも明らかに格下のモチ神にすら完封されるレベルだ。
はぁ……じゃあ、オレが勝てそうなのってモフ子だけじゃん。(ガー様とピーちゃんは非戦闘員なので除外)
これじゃ――『「転生者」は保護されている! マイナーリーグどころかリトルリーグでイキり散らす病人の集まりだ!』――なんて言われても反論できねぇのかもなぁ。
そうなんだよなぁ。転生先って基本的にレベル低い(いろんな意味で)からさぁ。何度転生しても神とやり合えるレベルにはならないんだよなぁ。
問題はこの「次元違い」の「規格の差」なんだよなぁ。
ステージが違うっていうかさぁ。
でも、それをどうにかするには転生者をやめないとだよなぁ。
でもそんなのヤダー! ガー様に会えなくなっちゃう!
なので却下。現状を維持しつつ強くなる方法を考えよう。
……じゃあ、逆に考えてみるか? ステージのほうを変えるんじゃなくて、今のままのオレにも、神の権能レベルのスキルや魔法が使えれば、一時的にでもそのステージを超えられるかもしれない。
持ってる武器だけでも同じにできれば、格の違う相手とも勝負にはなる、わけだもんなぁ。
女子供でも銃を扱えれば大の男と戦えるっていうか。
しかし、そもそもからして、転生先で使用されてる魔法や魔術の類いは、なんで神に届かない?
つまりは、そもそも神なんて次元を超越したモノを対象としていないってことと、単純に技術力が足りないってことか?
そもそも必要がないってことかもな。神レベルといえば世界を破壊しかねない物なわけだし。
強力すぎる力は結局使われず、忘れ去られる……だから届かない。発展しない。
だが、その上のステージを目指すなら、むしろそれらをサルベージする必要がある。
ステージ……次元を超えた「超」魔法……そもそも魔法ってもいろいろあるんだよなぁ。
魔法、魔術、魔導、錬金術、交霊術、呪術、理力、超能力みたいなものもあるし、思想・哲学・疑似科学を元にして発達する場合すらある。
神や精霊、仏、悪魔の力を使うものもある。生命力精神力を消費するもの、或いはそれらとは全く別の奇跡論を元にした物。
使用法にしたってソーサリーとエンチャント……詠唱必須のヤツから印――ハンドサインだけでいいのもあるし、何かの依り代を必要とするものも多い。
一口に魔法っつっても、なんかばらばらだよなぁ。
一度まとめてみるべきか? それで、それらすべての魔法学の極北に在る様な「超魔法」を選んで、そんで各々の弱点みたいなのを補完し合うようにできねぇかな?
人の持つ一種の魔術が神に届かぬというのなら――体系化された複数の異なる魔術・魔法を連鎖併用することで、神と言うステージへ一時的に肉はするることは出来ないか……。
などなど、あーでもないこーでもないとぶつくさ言いながら歩いていると、何かにぶつかった。
というか軽い手応えのもがぶつかってきたというか。
なんだ? 猫かな?
にしてはデカいが――
「わぁ、はなしてー」
いや、この感触は!
「カサ子! カサ子じゃないか!」
例の天気の女神である。こんなところで何をふらふらしているのか。
「危ないぞ、一人で道をふらふらしてると」
「もう、子ども扱いしないで! それであなたは――また転生?」
「そうそう。これからまた転生――そうだ良いものがある」
「いいもの? ――い、要らないから、そう言う悪魔の儀式的なのはいらないからぁ」
人を何だと思ってんだよ。
「いや、オレ毎回サバトとかしてねぇから! ――この前勘違いさせたお詫びの品をお持ちしました♡」
「そうなの? ……うーん、それなら」
信じちゃうんだ? 君の警戒心て
「ククク。――そう言う訳さ。受け取るがいい! 我が手作りパンツをなぁ!!」
前回つくっておいたパンツさ! カサ子の分もあったんだぜ! クハハハ! さぁ、どんなリアクションを見せるかなぁ!
「わぁ、すごい! ありがとう。自分で作ったのぉ」
意外と普通に受け入れられた!? どゆこと!?
「アッハイ。前々回の転生でそんな事ばっかしてたもんで」
えーなんか、なんか違う。……もうちょっと、こう恥ずかしがってもらわないとイジれないよ!
「あ、これ駄目だよぉ!」
お、気付いたか?
「お尻のとこ、あやとりみたいになっちゃってるよぉ! 丸見えになっちゃう!」
あーうん。確かにそこがセクシーポイントなんですけど……。なんかこう、表現に毒が無さすぎて、悪いことしてる気になってきちゃった。
「おお、すみません神よ。私はあなたを試すような真似を……お許しください」
「どしたのォ!?」
かくかくしかじか(エッチな下着を渡して反応を愉しみたかったけど、なんか毒気が抜けました)。
「もー、またそんなイタズラしてぇ」
いや、あんた気付いてもいなかったじゃん。
「まー、たくさんあるから好きなヤツ履いて。ステータス上がるし」
俺は
「すごーい。よくこんなの作れるねぇ」
まぁ、スキルが軒並みカンストしてますからな。
「こっちは「注意力」。これは「危機感」。それは「思慮」のステが上がります」
「う……うん。なんか変わったステータス変動だけど……」
あんたに必用そうなものを上げるようにしといたのさ!
「で、さっきの奴が「全部乗せ」ね」
「そんなのだったんだ!?」
「最高傑作だからね♡ あとセクシーさが二倍になります」※
「セクシーさ!? いい、要らないから! そういうのはぁ! もう!」
カサ子は真っ赤になる。もう、じゃないよ。やれば出来るじゃねぇか美味しい反応が。
「いやぁ、いつか必要になるって。あのニンジャもいちころですがな」
「そ、そーかなぁ」
―――ん?
いや、そーかなぁ、じゃないだろう。『なんでニンジャの人の話になるのぉ!?』って突っ込むところじゃないの!? いつものようにふにゃってさ!
ま、まさかこの女……。
「え? なに? なんかあるのあのニンジャと」
「――え? ないよ! ないない! 何にもないのから!」
なんて隠し事の下手な神なんだ。
「いや、でもなんか他の神の間では『付き合ってる』みたいな噂があったから……」
「そぉーなのぉ!? ち、違うから! ちょっと相談に乗ってもらっただけだから!」
「じゃあ、やっぱあるんじゃねぇか何かぁぁぁぁぁ!」
「? ――――あ! だ、騙した!? ウソついたでしょ! うわさとか!」
「遅いわ!」
だから、おっそいんだよ! 理解が周回遅れなのぉ!! ――いや、今はんなことはどうでもいい。
ふぁああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!(怒) なんなんだこの感情は!?
「違うから! ホントに相談してただけだから!」
「あ、はい。それはまぁ……」
君は相談すること多そうだもんね。それは分かるよなんとなく。
「なんで納得したのぉ!? んん……分かってくれればいいけど……」
「……でも、ゆくゆくはそれ以上の関係に? なりたいと?」
「お、思ってないよぉ……」
「えー、ホントにぃ?」
「んんん……ちょ、ちょっとはね? もっと仲良くなりたいかなって」
「なんだよぉ、やっぱそうなんじゃん」
「えへぇ♡ でもぉ」
「ははははは……」
ハハハハハ。あのニンジャ野郎。ぶち殺す。
なに人をダシにして可愛い彼女ゲットしてやがんだ(怒)
殺すべし! ニンジャ殺すべし!!
「な、なんだか、今スゴいこと考えてなかった!?」
「そぉーんなことないょお?」
だがこの娘を通してそれを悟られるわけにもいくまい。今は押さえろ。怒りを押し殺せ。
「で、なにしてたん? いまさらだけどくっちゃべってていいの?」
「あ、そうだ! 私、引率の途中で」
引率ぅ? じゃ何? 連れがいたのに、今までべらべら喋ってたってこと? ――ハムスターかなんかなのかなこの娘は。
「ご、ごめんねぇ? またせちゃって」
そう言って、ちまちまと駆け寄るのは、中肉中背の男だった。
――神? か? なんだか黒髪で前髪の長い、どうにも特徴に欠ける印象の男だった。年頃はハイティーンというところだろうか。
にもかかわらず、素肌に白いファーの着いた黒いロングコートと言うちょっとダサ――ハイセンスな格好の男だ。
まぁ他の神と比べれば、まだ庶民的な感じはするかな? まぁ男の神ってあんま知らんからこんなもんなのかもしれんけど。
つかけっこう近いとこ居たなぁおい。会話に入ってこないから置きものなのかと思ってたぜ。
「じゃ、行こうね。これから研しゅ……」
「やめてくれないかな?」
「――わ!」
すると、そのひょろっとした男は自分の袖を掴んで歩き出そうとしたカサ子の手を振り払った。
なっ! 何をするだぁーっ!
「ど、どうしたのぉ?」
「呆れかえってたんだよ。見て分かんないかな?」
などと、男はやたらと長い前髪の奥からカサ子を見下ろし、睨み付ける。
あーあ、どうやら待たせすぎて怒らせちゃってるじゃん。オレも一応謝っといた方がいいかな?
「あー、わりぃね。なんかお連れさんと話が弾んじゃって」
「ごめんねぇ……」
二人で謝るのだが、なにが気に入らないのか、この男は苛ただしげに言葉を切った。
なんだ? 待ちぼうけを食らわせたことにキレてるんじゃないのか?
「そういうことじゃないんだよなぁ……。あのさ、なんで男からそんなものもらってんのさ!?」
「え? えーと、でもくれるっていうから……」
「そうそう。転生帰りの土産でね」
「……ありえない」
そう言って、この男は再び深いため息を吐いた。――なんだこれ?
男から下着もらったことにキレてるってこと?
一度カサ子に確認しよう。
「え? ちょっと待って? この人親族の人? 弟さん?」
「違うよぉ……」
「じゃ、彼氏?」
だとしたらショックなんですけど? キミ魔性の女なの?
「違うよぉ。だってさっき会ったばっかりの……最近神になった
あ、それで「研修」ね。
つーか、だとしたらオレよりもなおのこと付き合いの浅いひとじゃん。初対面の他人じゃん!
「――だとすると、なんでキレてるんでしょうか?」
「分かんない……」
謎だ。もしかして潔癖症の人なの?
「えーっと、何か誤解があるかと思うんですが」
「誤解も何もないだろ? 言わないと解んないの? まったく、呆れてものもいえない」
すると、この前髪男はロングコートの裾をふるがえして、オレと言うよりも、カサ子を睨み付ける。
「俺の『彼女』って自覚、ある? それが男に下着なんてもらって、その上、別の男の話? 不愉快だよね? ふつうに考えてさ!?」
「……」
「……」
オレ達は、しばし沈黙した。 ――なに言ってんだコイツ?
「な、なんかキミのこと彼女だと思ってるみたいだけど?」
「し、知らない。わかんないよぉ? どういうことぉ?」
展開がアクロバット過ぎてオレも置いて行かれている状態だ。
考えられる展開としては、カサ子が思わせぶりな行動を無意識にしてしまい、あの男が「コイツおれのこと好きなんじゃねぇの?」と思い込んでいるという感じか。
まぁ分らんでもない。この隙だらけのふわふわした女神相手だとそりゃあ、勘違いのひとつもしたくなるだろうが……。
にしても「彼女」って断言するのってどうなの?
「なんだか勘違いしてるみたいだから言っとくけど、今は彼女じゃないとか、そう言うのは些細なことなんだ。いずれ必ず僕の「彼女」になるんだからさ。僕が決めたんだから、そうなるんだ」
なんか喋りはじめたぞ。カサ子も目を点にしている。
「それが僕の『天命』。あらゆる宿命・運命に愛されるスキルさ。僕の前に現れるヒロインは、全てが僕のハーレムに加わり、僕の力となる!」
なんかカッコつけてる――けど、なんだろうこの感じ。
つーかもしかしてだけど、この男……。
「コイツも転生者?」
「うん。この前まで――それで『神託』っていう神からの要請を受けて神になったんだけど」
へぇー、俺は受けたことないなぁそう言うの。
「でも、なんか転生者のまんまのテンションなんだけど……」
「うん。――そうだよね。まだ神のこと、よくわかってないんだよね。大丈夫! 私先輩だもんね。ちゃんと先導してあげないと!」
しかし、この状況でなお、カサ子は事態を好意的に受け取っているようだ。
――いや、キミ、勝手にヒロイン……てか「俺の女」扱いされてんだよ? もうちょっと怒って良いと思うんだけどなぁ。
ガー様とかモチ子だったらこの時点でバッサリだと思うんだけど……。
オレが口を出すことじゃないんだろうけど、なんか『初めてのお使い』見る時の5倍くらいハラハラするんですけどぉ!?
「と、とにかく。ここに居られないから、先に行こうね」
カサ子は笑顔だ。しかし、
「わかってないな。ホントにわかってない! そうやって急かされるのがストレスだってわかんないのかな?」
「ご、ごめんなさい……」
「だいたいさ、僕の前で他の男と会話するとか失礼だとか思わないの!? 僕の『彼女』にはそんな奴一人もいなかったけどな? 幻滅したよ、なにが女神だ!」
いうねぇ。吐き捨てるように言うねぇ。
「ご、ごめんなさい。でもそういうのじゃなくて……」
「だいたい、どんくさいんだよいちいち。こんなことなら神になんてなるんじゃなかった! もう止める」
「そんな……でもでも、そんなすぐにやめたらもったいないよ!? なかなかないんだよ? 神への招来って……」
「はぁ……もういい。勝手にさせてもらうよ」
「えぇ!?」
「だいたい、研修なんて言うのが気に入らない。神だろうが何だろうが、僕に出来ない訳ないだろ? 僕はもう神なんだ。なら、後は好きにさせてもらう」
「ダ、ダメだよぉ。規則で……」
足早に立ち去ろうとするのを捕まえようとしたカサ子だが、乱暴に振り払われてしまった。
「あぅ! ふぇぇ……」
尻餅を突く。他の女神と比べても、とにかく小柄だからよく飛ぶねぇ。
「ハァ……。なんだよわざとらしいな。まるで僕が悪者みたいじゃないか? やめた方がいいよそういうの。周りから見ればバレバレだ」
カサ子が涙目になっているのを見下ろし、新神くんは長~い前髪をかきあげながら言う。
オレは無言でカサ子に近づき、立たせた。
「なんだいキミ。なにか文句でも?」
「いや別に。なんかイジりたくなるのはわからんでもない」
カサ子をの頭をぐりぐりしながらオレは言う。
実際オレも初対面でいろいろやったしな。
「えええええ!? ひどいぃ」
カサ子はメソメソと声あげる。いや、そう言うとこやぞ、きみぃ。
「ま、それはそうとして目に余るんでね。ちょっっっとやりすぎじゃねぇか? 神様は大事にするもんだぜ?」
とはいえ、さすがに見てられねぇや。悪いねこらえ性が無くて。
すると、前髪はハッと、引き攣るように笑った。というか笑いたいんだけど笑えてないような感じだ。
なんでお前そんなギリギリなん?
「それ。シャレで言ってるんだよね? おもしろいよ。――お前ごときが僕に意見するって? ただの転生者が? 僕は神だぞ? ――本来、無断で頭を上げることさえ許されない。そう言う相手だってわからないのか?」
いやあんた今さっきやめるって言ってたじゃん。どっちなんだよ。
「ま、言ってもわからないか。キミのレベルじゃ」
なんつーかあらゆる意味で、言葉の上をうわっ滑りしてるような事しか言わねぇなコイツ。
「なんでもいいけど、とりあえず謝るのが先じゃねーの。ほら、この娘泣いちゃってるじゃないのぉ!」
ちょっと男子ぃ! 的なテンションで語りかけるが、ノーリアクションである。
やめろ! こっちが恥ずかしくなるだろ!
「もういい。ぼくの前から消えてくれ」
すると、前髪は本の様な物――魔導書か? の様なものを開き、そして何かの術式を展開し始める。
うへぇ、マジかよお前。
「見るがいい――これが、僕が神に選ばれた理由だ!」
次の瞬間には、周囲を埋め尽くすほどの人影が現れた。
「これが僕の力だ! 好きな『彼女』を無制限にゲットして、さらに好きな偉人・英雄の能力を憑依! さらに僕だけの『ヒロイン』として好きなように育成・強化して戦わせることが出来るスキルだ!!」
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