8月

2020年8月03日 「うつろな季節」


大ベテランである日本支部担当の神様にはひとつ悩みがあった。寄る年波には勝てないもので、指先が震えて気象操作がうまくいかないのである。おかげで季節が曖昧になり日本人が騒ぎ立てるので、近々引退を考えている。




2020年8月12日 「野球×スウィング」


「よし、スイングしてみろ!」「はい、コーチ」音子はおもむろにドリルを持ち出すと、バットにいくつも穴をあけ息を吹き込んだ。響く音色。後にジャズ界を震撼させる「ベースボールスウィング」誕生の瞬間であった。




2020年8月17日 「身近な奇跡」


「好きな人が自分のことも好きになってくれるって奇跡だよ」そう言った君の言葉を大袈裟だって笑った。だけど、いまならわかる。君と過ごした日々は一番身近な奇跡だったって。君のいなくなったいまならわかるんだ。




2020年8月24日 「落としたもの」


「急カーブに差し掛かっても俺はスピードを落とさなかった。怖いものなしだから」新入りの山田が鼻息も荒く武勇伝を語っていたが「だが、代わりに命を落とした」という先輩幽霊の鋭い一言にがっくりと肩を落とした。




2020年8月30日 「首を長くして」


「お父さんってば、この子が生まれるのを首を長くして待っているのよ」妻が大きくなったお腹を撫でながら言った。「まあ、私もだけどね」嬉しげに笑う彼女の首がにゅーっと伸びる。さすが由緒正きろくろ首の一族だ。

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