9月

2020年9月07日 「妖怪の怖いもの」


江戸時代より語り継がれる怪異である二口女は、最近ではもっぱら田舎を中心に活動しているらしい。どうして都会には現れないのかと尋ねると、駅が怖いのだという。「だって、私よりもたくさん口があるんだもの」




2020年9月14日 「ベビーカーにのせたもの」


しきりにベビーカーに話しかけるひとりの母親。彼女とすれ違う人が皆ぎょっとした顔で振り向いた。私は彼女を追い抜きざま横目でベビーカーを見た。そこには小さな写真を引き伸ばした画素の荒い子供の笑顔があった。




2020年9月23日 「電話越しの鈴虫」


妻からの電話に俺は焦った。単身赴任先で不倫相手と夜の公園を楽しんでいる最中だったからだ。「あなた家にいないみたいだから」「今、ひとりで散歩してるんだよ。鈴虫の音色が綺麗でさ」「あら本当、とても綺麗ね」




2020年9月28日 「化け猫の好きなもの」


「もう油は舐めないの?」うちの猫が江戸時代から今まで生き続けている化け猫だと判明し、私は訊いてみた。化け猫と言えば行燈の油を舐める姿が有名だからだ。「油美味しくないしなぁ。舐めるならちゅ~るがいいな」

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